第14話 山形

    第14章 山形


 pwiーーー。相変わらず不協和音の汽笛が真夏の田園にこだましてED78は目的地へとスピードをあげていた。汽車は中川駅、羽前中山駅を過ぎて、上山(かみのやま)がもうすぐだ。車窓から蔵王の峰々が車窓の右手に雄大な姿を見せていた。あのスキ―地獄を味わった時代が懐かしい。

 スキー自体は地獄だったけど、蔵王温泉は楽しかった。丸太のロッジで、凍傷で紫色をした手を温めて、食べた醤油ラーメン。

鄙びた木造の小屋にある公衆浴場は、木箱にお金を入れれば誰でも入ることができる。鼻を覆いたくなるような硫黄の臭いを我慢して、白濁した湯に浸かる。源泉そのままと見えて、1分と浸かっていられない。熱さに我慢できず、風呂を出ては入るを繰り返す。肌はピリピリと痛み、腕の表は触っただけで、ヌメヌメ、ツルツルになる。

温泉街には、白い蒸気が立ち込めていて、店先には黄金色の寸胴鍋に玉こんにゃくを5つ串刺しにしたものが黒い煮汁の中で、飴色に煮しめられている。真っ黄色のからしを塗って、ハフハフ言いながらこんにゃくを齧る。

温泉通りには人がごった返し、アラベスクやアバなどのディスコミュージックがかまびすしく流されていた。僕はスウェーデンのアバの方が好きだった。ダンシングクイーンの入っている「アライバル」は僕のお気に入りのテープだった。キャンディポップといわれたディスコミュージック。スウェーデンというボルボで有名な国が何か得体の知れない前衛的な国だと意識するようになった。その10年もあとにはあの伝説的なバンド「カーディガンズ」を生み出す。恐ろしいまでにポップでおしゃれなバンド。ゴタゴタがあってすぐに消滅したけど、そのどれもがシングル曲にできるほどキャッチーで衝撃的なバンドだった。スウェーデン、恐るべし、と僕は思った。


    *


車窓の右にそびえる蔵王の麓には扇状地のような、谷ができていて、昔江戸時代には、あの谷の裾から蔵王の横を抜けて、羽州七ヶ宿街道が通っていた。ここ上山の麓から、福島の桑折までを抜ける街道で、出羽から久保田(秋田)にある数々の諸藩の大名行列は、みんなこの街道を利用した。最初の金山峠はヘアピンカーブばかりが続くこれまた難所である。冬は自動車道路になっても、閉鎖されることが多く、赤湯の方から迂回してできた国道の方が今は通りやすくなっている。


車内には自分と同じ女子高生たちがいつの間にか乗り合わせていた。女の子たちのチンチクリンなスカート丈と自転車のヘルメットが哀れに見えた。余計な御世話かもしれないけど、そのスカート丈の半端さはないだろう、と思った。髪型も校則が厳しいのか、そういう文化なのか、痛々しく田舎を感じさせる。

その点、東京はいい。自由だ。僕はM高の「ナンチャッテ」制服に救われた気がした。M高には制服が無い。みんな自由で好きなような服で登校できた。女の子もおしゃれで洗練されていた。

女の子。僕は実は先週に行った海のことを思い出していた。

まだ腕から肩にかけて黒く焼けた肌には、皮が剥けた後が残っており、はがしてもはがしても、それは広がっていくだけだから、イライラしていじるのをやめた。

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