第22話 没落

第22章 没落



仕事も気付いたら失っていた。

無職。

布団にくるまって、1年を震えて過ごした。

それから僕という人間は完全に制御不能な人間になってしまった。

アルコール依存症。脳梗塞。肝硬変。うつ病。パニック障害。自傷行為。

もはやコントロール不能となった脳みそ。

子供、妻、家、仕事、金、車、酒・・・すべてを失った。

残っているもの?吸いかけの煙草「わかば」と「記憶」しかない。


    *


 精神病院を出た僕は、「死」こそが希望になった。

アルコール中毒は、昏睡したまま死ぬのが一番だ。睡眠薬を大量に飲んで、お湯を張って寝てしまえばいい。問題は睡眠薬だ。毎回処方してもらう量じゃ足りないだろう。そこをクリアすればいけるんだけどなあ・・・。


失血死。これがいい。これはアルコールで昏睡しているうちに、失血量が多ければいける気がした。問題は痛みだ。麻酔をかけるためにはやはりアルコールしかない。

某バラの絵柄のバーボンを1時間のうちに1本、2本と開けていく。BGMにビートルズのアルバムをかけた。「Rain」を聴いた。濡れても気にしないジョンレノン。雨ばかりのロンドンの街。雨なんて気にしない。アイドンマイだ。

The long and Winding Road の途中から大気圏に突入するように、意識が朦朧となって、僕は旅立つ準備をした。台所へ這いつくばっていって包丁を持ってくる。

包丁を手首に当てる。血が吹き出る。アルコールの勢いも手伝って、刻んだ手首の静脈から、まるでスプレーを噴射するように血が吹き出る。コンクリートの部屋の壁が赤く染まっていくのをおぼろげに目にしならゆっくりと目を閉じる。僕は次第に意識が遠のいていくなかでゆっくりと壁に寄りかかって重力に体を任せた。どうか安らかに・・・。

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