第7話 峠

第7章  峠


 汽車は、峠駅を越えても山深い中を、ガタン、ゴトンと大きな音を立てて、奮闘している。

pうぃー! ED78は鞭を打たれ、悲鳴を上げるような汽笛を鳴らす。線路にいるカモシカに危険を知らせているのだろうが、疲れた! という悲鳴のようにしか聞こえない。

途中には、厚いトタンで覆われた半分トンネルのようなものを汽車が通って行く。スノーシェイドだ。豪雪や雪崩から軌道を確保するために作られたトンネル。


何度か見たことがある。冬、山形についたオンボロ客車の最後尾の姿。例によってどう見てもみすぼらしい茶色の客車の顔には一面に雪がへばりついていて、連結器のあたりから下はサンタクロースの髭よろしく雪がごっそりと固まっておぞましい姿で止まっていた。

 一寸先も見えないような板谷峠の猛吹雪。レールさえ見えなくなっている猛吹雪の中を老将のディーゼル除雪車DD14がくっついて懸命に猛進していた。そうやって乗客の命を守って、ガタピシ、ガタピシと福島から山形へとたどり着いた雪まみれの老兵。子供ながらに、汽車が可哀そうだと思った。運転手さんや駅員さんも命懸けだったろうに。


 車窓には、森のかなたに沢が流れている。峠を越えたから最上川水系だろう。景勝地さながらの広葉樹林帯を抜け、大沢駅を過ぎた。

景色が少しずつ明るくなっていくのがわかる。鬱蒼とした山脈から抜け出すことを許されて、やっと解放されてきたことが感じ取れた。

解放・・・。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る