第2話-9

 ―― 20 ――


「疾く死ねぇぇぇぇええいい!!」


 怒鳴りながらものすごい速さで飛び込んでくるゴリラ。


 あ、ヤバイ死ぬ。


「兄さん!」


 妹様の悲鳴。


「ドッジアップ!」


 悲鳴を聞いて再起動した僕。

 すぐさま回避バフの音声ショトカを唱えたその瞬間、体が勝手に動きだし右前方に跳んでごろごろ前転。

 折角なのでそのままごろごろ転がって間合いをとる。


「ありがとう! 頭動いてなかった!」


 どごぉぉぉんと破砕音がさっき居た場所から聞こえてくる。


「避けたか!」


 ゴリラが僕の方に体をぎゅるんっと向けたその時。


「せいっ!」


 白猿さんがしたたかにゴリラのうしろ首を棒で打ち据えた。


「ぬぅっ」


 白猿さんの攻撃でぎゅいんとゴリラのHPバーが5分の1ぐらい減った。


「つっよ!」


「小癪な!」


 ゴリラが両手を広げ、体をねじりぶおんと腕を薙ぐ。

 ちょうど着地した瞬間だった白猿さんは避けることが叶わずもろに食らい吹っ飛んだ。

 ドゴッと鈍い音がして壁に叩きつけられる白猿さん。


「ガードアップカットアップヘイトフラッシュ!」


「うぉっまぶしっ!」


 とりあえず自己バフ掛けるのに成功したのでゴリラに近づく。

 体格差が酷くて僕が地に足つけて攻撃しようとすると脚とか腰とか股間になっちゃうんだけど気にしない!

 もっと酷い戦闘とか別ゲーだけどいっぱいあった。


「妹様!」


「拘束弾!」


 弾もでかくて当てやすいけど逆に避けやすくもある大砲。

 今回はちゃんとあたった。

 ばぁんっと破裂音がして透明な鎖が床から伸びてゴリラを拘束した。


「よっしゃ無効じゃない!」


 スススッとゴリラの足までやってきた僕は脛を連打。


「壱の型壱の型壱の型!」


「治療弾」


 妹様は白猿さんの回復を選択したらしい。ナイス判断。


「効かんな小童が」


 やっぱりHPは削れないよね。

 通常攻撃とほぼ変わらない威力しかないし。


 それでも連打を続けながら、ちらっと白猿さんに視線を投げる。

 HPは1割ぐらい。一撃死してなくてよかった。

 妹様が治療弾連射して回復している。といっても80秒に1回。

 あとピヨッてる感じだ。

 いつ復帰してくれるかな? あと四回同じようにダメージ入れて欲しいんだけど。


「ふんっ!」


 10秒経って拘束が解けたゴリラによる拳の振り下ろしが僕を襲ってくる。

 でもまぁ、ちゃんと脳が動いてる僕ならすらっと避けられるに決まってるだろ。


「えぇいちょこまかと」


 ぶぉんぶぉんと左右の拳の振り下ろし連撃。スッスッとステップ回避しながらタイミングを伺う。


「兄さん!」


「待ってました! ヘイトフラッシュ!」


「ぐぬぅっ」


「拘束弾!」


「よし入った!」


 ヘイトフラッシュめっちゃ使い勝手イイ。

 怯みとか目眩とかそのあたりの状態異常付与してるよね?


「待たせた!」


 その言葉と共にドゴッという殴打音。残り5分の3になるゴリラのHP。

 白猿さんは先ほどの反省を生かして“棒を伸ばして”首筋をぶっ叩いた。


 なにそれ!? 如意棒なの!?


「キャーカッコイイ! ステキ!」


「茶化しは要らぬ!」


 黄色い声援(男ヴォイス)は不評の御様子。


「えぇい一度ならず二度までも!」


「はっはぁ! 所詮ゴリラよ!」


「その侮辱許さんぞおおぉぉぉぉ!」


 拘束が解けたゴリラは拳を突き出してきた。


「予備動作すくなっ!?」


 何とか避けるも、連続して突かれるとちょっときつい。

 だが僕に意識を集中してくれるのはありがたい。


「脚大薙!」


 白猿さん渾身の如意棒(仮)による両足カックンがきまったぁぁぁ!


「ぬおぉぉ」


 ずしぃんと倒れ込んだのでこれ幸いと顔に近寄り。


「目つぶしアッパー!」


 がいぃぃんっと明らかに生物からしない音がしたけど攻撃自体は通った。


「かってぇぇ!」


 足カックンでHPは5分の2。目つぶしは1ミリも削れていない。


「消し炭になれぇぇぇぇぇ」


 立ち上がったゴリラが咆吼。その瞬間纏っていた炎が青く輝き、炎の波が円形に広がり熱が襲う。

 そして衝撃波を伴っていたのか僕も白猿さんも弾き飛ばされた。


「あっつうううう」


 衝撃ダメージでHP半減。燃焼ダメージで5%ぐらいのダメが入った。


「やばいやばいやばい」


 このままだと倒す前に燃焼で削り殺される!


「食らえっ!」


 ゴリラの声が轟いて視界を移せば炎の玉を投げようとしていた。


「まじか!?」


 そりゃ部下の猿が投擲系の遠距離キャラなんだから“ある”と思ったけど!


「拘束弾!」


「効かぬわ!」


「まじかあああ!」


 HP半減で耐性付与とか1番目のボスでやることじゃねぇぇぇぇ!


 炎の剛速球が僕向かって飛んでくる。

 避けようにもステップで避けれる大きさじゃない。


「死ぬからぁぁぁ」


「壁よ輝け!」


 着弾するというまさにその瞬間。僕の正面に光の壁が。

 どぉぉぉんという音と共に火球が消える。

 壁は健在だった。


「すげぇぇぇぇ」


 絶叫しながらわんこ執事の方を向けば彼はサムズアップしていた。

 もちろんサムズアップして返した。


 てかそんな遠距離でも発動できんのそれ?


「ちっ。余計なことを」


 おっと? ゴリラ、わんこはタゲらない感じ?


「ヘイトフラッシュ!」


「もはや慣れたわ!」


 ですよねー。そんな何回もかからないか。


 位置を確かめる。

 僕の正面遠めにゴリラ。正面右斜め遠くにわんこと少女。

 白猿さんは真左のちょっと離れた場所でまたピヨッてる。

 妹様は正面左斜め奥、床と湯船の境辺りで様子を伺ってる。


「どうした。掛かってくるがいい」


 そうはいうものの、ゴリラの足下には熱されたのか真っ赤な円ができている。

 どう考えてもあの円内に入ると燃焼ダメージだ。

 HP半減してる今近づくのは自殺行為。


「怖じ気づいたか? 打開策が思い浮かばぬか? ならば死ね!」


 火球!


「だっしゃあああ!」


 ゴリラが振りかぶった瞬間に白猿さんの所まで駆けてそのまま妹様の方へ蹴り飛ばす。

 次の瞬間、僕の右側で火球が爆発。熱のダメージが入ってくる。


「治療弾」


 大砲は基本攻撃が範囲なので治療弾も範囲ヒールなのだけど、さすがに僕と白猿さん両方入る程広くはない。

 妹様は白猿さんの治療を優先した模様。

 ちょっとジェラシー。


「まだまだゆくぞ!」


 ゴリラの宣言に戦々恐々とするも火球を用意するそぶりはない。


「しゃあない」


 位置が悪いので泣く泣く僕はゴリラに近づく。


「ヘイトフラッシュ! ヘイトフラッシュ! ヘイトフラッシュ!」


「慣れたと言っただろう!!」


 ゴリラが怒鳴るけれど視線が僕に釘付けなので行動は成功している。

 僕の狙いは妹様との位置移動。

 僕が湯船側に。妹様は白猿さん拾って入り口側に。


「殴り倒してやらぁ」


 殴りかかるフェイントを入れてゴリラの挙動を誘い、殴らずに股下をスライディング。


「あっつ!!」


 燃焼ダメが入るけど位置替えは成功した。


「うろちょろ何がしたいのだキサマ!! これでも食らえ!」


 ゴリラが思いっきり地面を殴る。すると火柱が上がり波のように僕へと迫る。

 僕はそのまま湯船の中を走り壁まで逃げた。

 火柱は僕の前で消えてなくなった。


「あっぶねぇ」


 どうやら火柱は7本立つらしい。8本立っていたら直撃していた。

 そんな考察をしながらシャトルラン。左右に走りながらジリジリ前進。


「逃げてばかりでは勝てぬぞ!」


「そうでもない」


「なんだと?」


「ヘイトフラッシュ!」


「いいかげんに!」


 どごおおぉん。とピヨりから復帰した白猿さんの背撃ダメージ。


「なぜだ! なぜオレはこいつを意識から外してしまう!?」


 なんでだろうね? ヘイトフラッシュ連発してるから?

 僕のヘイト管理抜群じゃない?


「あと一撃! お命頂戴!」


 白猿さんが焦った。


「見えているのに食らうはずがないだろうがぁぁぁ」


 ゴリラの拳が白猿さんの如意棒をとらえた。そして。


 バキッ。バキバキバキ。


「なんと!?」


 如意棒は完全に真っ二つに折れてしまった。


「妹様!」


「炸裂弾!」


「ぬっ!?」


 白猿さんに気を取られすぎたな!

 妹様にだって攻撃手段は有るのだ!


「ぬおおおお」


 ゴリラの雄叫び。爆発する弾丸。

 広がる爆風。


「やりましたか!?」


 なんでわざわざフラグ建てるの!?


「まだだ・・・・・・まだ倒れぬ!!」


 ほら倒せてないーーー!!


 ゴリラのHP、残り10分の1程度。

 白猿さんの攻撃で5分の1に減ってたはずなので炸裂弾で半分削った計算になる。

 つまり、あと炸裂弾一撃分だ。


「死ねええぇぇ」


 やばいさっきの円状熱波だと死ぬ。

 と思ったのだけど、ゴリラは四股を踏むように足の裏を地面に叩きつける動作をした。

 次の瞬間、火柱があがる。あがる。あがる。


 ランダム複数回火柱攻撃!


「まだいける! まだ死なない!」


 火柱の上がる場所は予告で赤い円がでている。

 避けるのはそれほど苦じゃない。


 妹様も白猿さんもちゃんと避けている。

 ゴリラは何度も何度も狂ったように四股を踏んでいた。


 狂乱モードなのかなんなのか知らないけど折角なのでCT分逃げ切ることにした。


 そして、その時は来た。


「白猿さん!」


「任された!」


「声で指示なんぞするな小童どもがああああ!」


 声に反応したのかゴリラは四股を踏むのを止め、拳を白猿さんに向けた。

 しかし。


「炸裂弾」


 着弾。


 爆発音が轟き渡る。

 そして、ゴリラは動きを止めた。


「大切な大切な妹だぞ? 敵視向けさせるようなヘマするわけないだろ」


「・・・・・・すばらしき愛だな」


 そう言い放ちゴリラはどぉぉぉんと音を立てて仰向けに倒れ伏した。

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