第2話-6

 ―― 17 ――


「いませんよ?」


「いないな」


「うむ、居らぬ」


 やってきました森の中の秘湯。

 いい加減、暗くなって来てるけど、見えないって程じゃない。

 とはいっても開けた広場に足を踏み入れると即戦闘開始の可能性があるので近くの茂みに隠れているのだけれど。

 残念なのか幸いなのか猩々はいない模様。


 そうそう余談。秘湯の名称は白猿さん曰く「神速の湯」だそうで効能は移動速度上昇。

 うん、瞬コロされたのは1、2割あの温泉のせいだわ。

 パワーファイター系ボスが移動速度まで速かったら強すぎんだろうがよ。

 そういうとこちゃんと考えて開発?


「それで兄さん。このあとどうするんです?」


「張り込むのではないのか?」


「う~ん。張り込むぐらいなら近場で熟練度上げしてたいかなぁ」


「熟練度あげ、とは?」


「もしくは温泉つかるか」


「温泉! でも、もう死ぬのは嫌なので退治するまであの温泉はちょっと」


「だよね。あと熟練度上げってのは、技とか術とか使ってエネミー倒して使い慣れること、かな」


「なるほど。つまり私と出会った時のように乱獲を行うのだな?」


「具体的に言うならそうだね」


「う~む。猿ならば幾らでも狩ってくれていいのだが。蛇と兎はなぁ。妖魔故問題はないといえばないのだが」


 ・・・・・・もしや僕達プレイヤーが狩ってるエネミーって全部妖魔扱いなのでは?

 そうなると妖魔is何ってなるけども。

 妹様談だと障気に侵された生物全般なんだっけ?

 これ絶対あとで「殺さないで。今は妖魔だけど、昔から恋人なの!」みたいな胸糞シナリオ用意されてるや~つ。


「兄さん?」


「あぁ、ごめん。どうすっかなぁ。待ち構えてるメリットがあんまないんだよなぁ」


 と、いうか。あの猩々、クエストボスでユニークエネミーの可能性を疑っている。

 で、今いないということは時間涌きかフラグ回収のどっちかじゃないかと践んでいるのだけど。

 時間涌きだったらゲーム内時間で一時間毎確認するで良いと思うし、フラグ回収だったら張り込むだけ時間の無駄だ。

 最初猩々と遭遇したのは顔見せ死にイベントだったのか偶然ポップする時間だったのか。それが問題だ。


「待つのが正解か・・・・・・狩るのが正解か・・・・・・」


 盛大に悩んでいた、まさにその時。


「!! 兄さん!」


「聞こえた! 獣人の聴力すげぇ!」


 返答を聞くのを待たず妹様が走り出した。

 間髪入れず僕も妹様の後を追う。


「む? なにかおきたか?」


 一泊遅れて白猿さんが動き出した。


 猿の聴力って猫科動物より低いんだっけ?

 まぁそんな疑問はどうでもいい。イベントである。

 願わくば関連イベントであって欲しい。これで別クエスト発生フラグだったらまた悩まないといけない。


「妹様!」


「こっちです!」


 どうやらちゃんと方角までわかるらしい。流石に僕はまだそこまで慣れていない。


「なにが起こったのだ?」


 白猿さんはやはり聞こえていなかったらしい。


「悲鳴。とにかく現場へ」


「なるほど大事だな!」


 全力で走る。こうゆうのは間に合わないとクエスト自体が消えることがある。そうなったらだいぶヤバイ。

 けども道もない森林は走りづらくてやばい。マジホントそういう作り込みいらない。


「えぇい焦れったい」


「うぉ!?」


「きゃっ」


「相方殿道案内の指示を」


 僕と妹様は白猿さんに小脇に抱えられた。

 次の瞬間、僕達は一陣の風となった。


「誰か!! 助けて!!」


 ずいぶん子供っぽい声に思えた。

 声変わり前の少年って感じなんだけどちょっと違う声音。


「待たせた!!」


 ぶぉんっと突風と共に現れる白猿さん格好良すぎか。

 それに比べて小脇に抱えられる僕格好悪すぎでわぁ?


 どさり、と葉っぱで埋もれた地面に下ろされた僕と妹様。


「なにがあった!」


「お嬢様が! 助けて!」


 辺りを見回す。

 赤毛猿がわっちゃわっちゃ挑発するような動きをしているだけでお嬢様らしき人型はみつから・・・・・・。


「居た!」


 だいぶ遠い。猿が二匹がかりでなにか抱え上げて走っている。


「まかせろ!」


 白猿さんが駆け出そうとした瞬間、石礫が白猿さんを襲った。


「ちっ! 煩わしい!!」


 そうこう言っている内に数百頭の赤毛猿が行く手を阻む。


「妹様?」


「狙撃銃でもないと無理です。有っても私の熟練度だと当たるかどうか」


「大砲に持ち替えて殲滅。数減らさにゃどうにもならん」


「仰せのままに♪」


 ノリノリだね。そんなに大砲好きかい?


「さて、僕は護衛しますか」


 白猿さんと妹様は攻撃手に回ったので、少年声で助けを求めたヒトの護衛をすることに。

 視線を向ければそこに佇んでいたのは直立二足歩行のわんこ。

 めっちゃもふもふ! しかもたれみみ!

 背は100センチあるかないかぐらい? 本当にわんこが直立骨格になった感じだ。

 服装はフォーマルジャケットにスラックス。完全に執事です。ありがとう。


「僕が守るからね」


 言葉をかけると、わんこ執事は僕を見上げて瞳を潤ませる。


「貴方達は?」


「通りすがりの旅人」


「はぁ・・・・・・? なるほど?」


 まぁ、その反応もわかるよ。何一つ情報ないもんな。

 僕が君だったらもっと有用な情報をくれって思うもの。


「兄さん交代です! 囮になってください!」


 お、もう近くの殲滅したんだ。

 流石大砲。範囲火力が桁違い。


「バトーンターーッチ」


「ターーッチです」


 ノリが良い妹好きよ。


 するするっと妹様と位置を入れ替えると同時。


「ヘイトフラッシュ!」


 秘技・光る僕!


「何この子かわいい!!!」


 おっとうしろで妹様が絶叫してるぞ? 魂魄屋さんの時もそうだったけどちんまい子が好きなの?

 てか待って! ちゃんと炸裂弾撃って! 結構HP削れるぅぅ。泥はいいけど礫痛いからっ!

 数減らして。ハリーハリーハリー!


「ヘイトフラッシュ使う時いつもふざけるのでちょっと反省して下さい」


 あ、実は気にしてたのねえーー!


「ごめーーん」


「許します。と言うことで炸裂弾」


 射撃支援が始まったのでチマチマ位置を移動して釣っていく。

 最小限の移動でどれだけ釣れるか、みたいなチャレンジをすると面白かったりする。まぁ、今そんな遊びしたら妹様にガチギレされかねないからやらないけども。


 移動しながら白猿さんをチラ見すると身の丈ほどの棒を使って無双していた。


 なんなのあれ? 孫悟空の親戚かなにかなの?

 ステ見れないけど、あのヒト絶対強い。


 そのあと、無茶苦茶猿討伐した。


「終わったかな?」


「終わりですかね?」


「で、わんこ執事は無事?」


「傷一つ付けさせていませんとも!」


 ふんすふんすしてる妹ちゃんまぢかわ。

 いちゃいちゃしたい。


「皆様お強いんですね! 不躾だとは思うのですが! お嬢様を救出してくれませんか!!」


 あぁ、まぁ、そりゃ、そうなるな。

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