第2話-7
―― 18 ――
「詳しい情報ぷり~ず」
後始末を終えて僕と妹様と白猿さんとわんこ執事は軽く落ち葉を掃いて整地して焚き火を点け、囲むように座っていた。
「詳しいことは知らないんですけど」
「どういうこと?」
まさかの情報持ってない系NPCとか勘弁して欲しいんですけども!?
「僕、雇われてから数ヶ月なので、簡単にしか聞かされてないんです」
あ、よかった。ちゃんと情報持ってるっぽい。
「なるほど」
まぁそういうこともあるよね。
重要なのは誰が何処に何のために誘拐したかがわかるかどうか。
最悪何のためはいらないけど、生死に関わるから知っててくれるとありがたい。
「最初に。僕は媽祖廟街の大きめな宝石商に雇用されてます。お嬢様はその家の娘さんです」
「ふむふむ」
このたれみみわんこ。すっげぇ尻尾もふもふしてんな。
ちょっとさわさわしたい。
「僕が雇われるちょっと前にお嬢様は遭難事故に遭われたみたいで」
「遭難事故?」
「はい。ここからだと真東でしょうか。山脈が連なっているのはご存じですか?」
僕含め三者とも頷いた。
流石に周辺地理ぐらいは頭に入ってる。
「その山脈の一つに雇用主様の所有の坑道があるんです」
店舗販売だけじゃなくて採掘までしてる商家。
だいぶ金持ちなんじゃなかろうか。
「月に1回は雇用主様が監察しに赴かれているのですが、事故のあったその日はお嬢様も同行していたというのです」
一生懸命説明してくれるわんこかわいい。
猫派だけど、この子ホント健気かわいい。お持ち帰りしたい。
「監察が終わって帰る途中に崖崩れに見舞われ、お嬢様は独りはぐれてしまったらしいのです。あ、幸い死者も負傷者もいなかったとのことです」
それはなんか不自然な気がするけどまずは全部聞いてからにしよう。
「街に帰った雇用主様はすぐさま捜索隊を編成して行動させたのですが見つからず。それから一両日経ってお嬢様はご自分の足で家に戻って来られました。皆驚いたようですが嬉しさの方が勝ったらしく、やれ治療だ、やれ宴会だ、と大騒ぎで」
うぅん。それだけ聞くと自作自演を疑っちゃうけど。そんなアグレッシブなお嬢様なんだろうか。
「それからです。お嬢様に放浪癖が発症してしまい、いつのまにかふらっと居なくなっては半日ほどで戻ってくるというのが続いたらしく、監視と護衛のために僕がお嬢様付きとして雇用されたというわけです」
うん、雇用理由が聞きたかった訳じゃなかったんだけど、不必要な情報かと言われたら否とはいいがたい・・・・・・。
「僕が傍付きになってからもお嬢様は思い立ったらすぐにという風にふらりと外出なされて。ほとんどは東南の山脈地帯が目的地だったのですが。なにやら探している御様子で」
この話はいつかちゃんと猿に繋がるのだろうか?
「僕もお訊ねしたのです。するとお嬢様は「忘れて帰ってきてしまったの」と仰り。でも何を忘れたのか頑なに教えては頂けませんでした」
山で何かを探す少女、ねぇ。
猿ゴリラと関係ないクエストな気がビンビンなんだけどどうしよう。
「本日は珍しく、「近頃、森に赤毛のお猿さんが住み着いたんですってね。見てみたいわ」と仰るので見物に来たのですが」
お、やっと。
「初めは森の外縁部だけで帰るつもりだったのです。僕は護衛としても雇われていますがそれほど強くないので。多勢だと対処しきれないと自覚していました。ですが外縁部では兎と蛇しか現れず、あれよあれよと森の中へ」
うん、まぁわかる。あのクソザルども、森の温泉を中心に輪を描くように分布してたし。
おかげで熟練値上げの位置取りは楽だった。
「やっと赤毛猿が現れた時、お嬢様が変なことを呟いたのです。「やっぱり山のお猿さんね。でもなぜ森に?」と。僕は犬の因子が強いので聴力がとても良いんです。お嬢様は僕に聞かせる気がなかったでしょうが。まぁ普通に聞こえました」
あの赤毛猿、元は山に居たのか。てことはゴリラも元は山の主だったのか?
わざわざ移動したって事は移動する理由があったんだろうけど、わからぬ。
「それからすぐ、赤毛猿に見つかってしまい、あれよあれよと増援を呼ばれ、気がつけばお嬢様を攫われてしまって・・・・・・」
ずーんと凹んでいるわんこ。失礼とは思うんだけどかわいい。
ぺたーんてなってるしっぽも胸きゅん。
「どうか! どうかお嬢様を救出して頂けませんか! 猿は東に逃げました。きっと古巣の山にいるんだと思うんです!」
[キャラクタークエスト]犬執事の懇願
犬執事の懇願に応えましょう。
※1プレイヤーキャラクターにつき1回限りのクエストになります。クエストクリア後再受注はできません。
悪障値+100
【新月貨獲得券(ランク:青)】×1
【成長薬(ランク:赤)】×1
【白猿証書(ランク:緑)】×1
・・・・・・ここでも悪障値か。
ゴリラを退治するのも宝石商の娘を救出するのも悪で障りがあるって?
ライターはどんなシナリオ用意してるんだよ。
「兄さん助けてあげましょう! こんなかわいい執事さんが頼み込んでるんですから!」
妹様よ。ちんまいかわいいもふもふに心奪われるのはしかたないけど、それでいいのか。
まぁ、そんな妹様もかわいいから僕は良いんだけどさ。表情豊かな妹様が見られるの嬉しいし。
「白猿さん、どうする? 赤毛猿のボスがあの猩々だろうし、向かう先に居る可能性もあるけど」
白猿さんは静かに頷いた。
「善かろうよ。結果、道草であろうとも人助けができるのであればそれもよし。拒む理由はない」
よし。じゃぁ方針は決まったのでクエスト受注。
「助けに行こう」
「ありがとうございます!」
ぺこぺこ頭を下げつつ、嬉しいのだろう尻尾をブンブン振るわんこ。
やっぱりお持ち帰りしたいなぁ。
「ありがとうございます兄さん。それで、山って漠然としてますけど、どうするんです?」
妹様の問いにとりあえず考えたことを告げた。
「まずは崖崩れのあった所に行こう。その周辺で手がかりを探そう」
「なるほどです」
「それでものは相談なんだけど白猿さん」
「なにかな?」
「僕と妹様担いで目的地まで走ってもらっても良い? 早いに超したことはないと思うんだよね」
「ふむ、心得た。そちらの執事は・・・・・・、背に乗せてしがみついてもらえばよかろうか」
「わ、わかりました。頑張ります!」
「あぁ、あと道案内頼む。崖崩れの場所は貴殿しか知らぬ」
「はい!」
「では、行くか」
ひょいっと抱えられて、僕達はまた風になった。
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