間話 はじめてのせんとう
―― 間話 ――
「婆さん婆さん、街の外で一番弱いエネミーってわかる?」
番台婆さんにダメモトで訊いてみる。
この銭湯に足繁く通いそうな気がするから、できれば番台婆さんと良好な関係でいたい。
好感度とかあるかわからんけど。積極的に話しかけていくスタンス。
「なんだい狩りでもするのかい?」
おや、これは良い感じの反応。
このゲーム、NPCもとても流暢に会話してくれるけど、パターンはある。
番台婆さんの場合は入浴関連、媽祖廟関連、道士関連なら結構喋ってくれる。
ソレ以外について話しかけると「そんなの知らんさね。この婆を何者だと思ってるのかえ?」と言われる。
街周辺のエネミーについて喋ってくれるのはちょっと意外だ。
「兄さん? 街の外に出るんですか?」
そう驚かれると困るんだけども。
驚き顔もかわいいから許す。
まぁゲーム始めた日から3日続けて街の中うろついてただけなのでその反応も判らんでもないけど。
「出るよ? ちゃんと武器も買ったでしょ?」
チュートリアルで武器引換券もらえたから買ったのは妹様の分だけだけど。
「そう言われればそうでした」
もう。物欲しそうな顔してたから拳銃と大砲の二つも武器買ってあげたのに。
「そうかい。狩りに行くならついでに兎狩ってきておくれ」
お、なるほど。
VRMMO最序盤の定番エネミー兎さんがいるんだね?
ゲームによってはクリティカルと即死攻撃ガツガツとばしてきて新規プレイヤーの心折ったりするけど。
このゲームの兎さんはどっちだろうね?
「兎狩ってくるのはいいんだけど、どの辺りに出るの?」
これ、重要。ポップ情報なしにエネミー1種求めてさまようとかVRでやるプレイングじゃない。
いや、行き当たりばったりエンジョイプレイも嫌いではないけどね?
普通しないってだけで。
「西南の草原から真南の森まで幅広く居るよ。でも遭遇する確率は森の方が高いねぇ」
森かぁ。初手森は死亡フラグな気がするんだけどなぁ。
「森って他に何狩れんの?」
「蛇だね。最近は猿も出るって聞くねぇ」
うぅん。兎、蛇、猿、ねぇ。
熊とか蜂とかじゃない分マシだけど・・・・・・。
「その蛇、石化とかしてきたり?」
「そんな凶悪じゃないねぇ」
「兎、首刈りとか言われてない?」
「そっちもそんな凶悪じゃないねぇ」
「猿は・・・・・・」
「知らんねぇ。最近出るようになったって以外はなーんもきいとらん。誰か死んだとか帰ってこないとかは耳にしとらんし大丈夫じゃろ」
うぐぐ、猿・・・・・・猿・・・・・・。許容範囲かな?
独りなら吶喊するんだけど、このゲームは妹様が常に付いてくるし。
ん? そうだ。まだ試してなかった。
「ねぇねぇ妹様」
「なんです兄さん?」
「ちょっと兎狩りしてくるからお風呂入って待ってても良いよ?」
「なっ!?」
あ、その顔はダメです。ハイライト無くなっちゃう感じの絶望顔は僕好きじゃないです。
「もちろん付いて来てもいいよ? どうする?」
「づいでいぎまずうううぅぅぅぅ!!」
がしっと掴まれてぎゅうぎゅう抱き締められる。
「おいてかれるのやですうううううう」
うん。今後絶対置いてくのはナシにしよう。
こんなに拒絶反応出るとか思わなかった。
「ごめんね。もう置いてくなんて言わないからね」
頭なでりこなでりこ。
こういうのもかわいいと思うけど、依存症発症してない? 大丈夫?
「うぐぅにいさぁん」
僕の胸板にグリグリ顔を押しつけてイヤイヤする妹様を見ていると、なんというか、守護らねばっ! という思いがふつふつと沸き上がってくる。
なにしても僕の心にクリティカル入れてくる妹様かわいすぎるんだよなぁ。
「もっとおおおもっと強く抱いてほしいですうううう」
なんか、これ幸いと甘えに来てる気がするけど、僕は嫌がるまで甘えさすぞ!
「はいはい」
むぎゅむぎゅ抱き寄せる。
あぁ~~柔っこいんじゃ~~。
ぽわぽわするんじゃぁぁぁぁ。
「にいさん。にいさん。えへへへ~」
ああぁぁぁぁとろけるぅぅぅぅ。
うぅぅちょっとむらむらしてきた。
えっちな声が聞きたくなっちゃったなぁ。
なんて思っていると、ふらぁんふらぁんしてる尻尾が見えた。
「これだわ」
「はい?」
僕は親指と人差し指で円を作って妹様の尻尾を捕らえた。
「ひゃん!」
おぉ。敏感なの?
すーっと尻尾のつけねの方へと擦って行く。
「んんっ!」
ねもとの方も気持ちいいと。
じゃぁ逆は?
「・・・・・・んにゃ」
どうやらあんまりらしい。
もう一回尻尾の先からつけねへと這わせる。
「にゃぁぁっぁぁ、ああっ。あんっ。ふぁぁぁぁぁぁぁ」
結論、尻尾は逆撫でした方が気持ちいいらしい。
これはあれだな? つけねのあたりをしこしこしてあげるのが一番だな?
実証。しこしこしこしこ。
「にゃっ♡ あっ♡ あんっ♡ あっあっああんっ♡」
Fooooooooooooooooo!!
とってもかわいい。もっと聴いてたい。
「いつまでやってんだい発情猫共」
ビクッ!!
そうだった。浴場でも宿部屋でもないのに何やってんだ僕。
「ごめんなさい。つい」
そう告げて妹様を離そうとするのだけど。
「やぁ。やですぅ。逝くまでしてくださぁい」
これはだめだ。
「婆様20銅」
「毎度」
離れない妹様を抱きかかえて湯船に入る。
相変わらず僕と妹様以外お客がいない。
「にゃ♡ にゃ♡ にゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ♡」
痙攣しだすまで思う存分、しっぽをしこしこしてあげた。
――――――――――――――――――――――――――――――
[デイリークエスト]番台婆様のお使い
番台婆様の頼みなので兎肉を30個納品しよう。
善縁値+10
【新月貨獲得券】×10
報酬100銅
――――――――――――――――――――――――――――――
そんなこんながあって。
すっきり顔の妹様を連れてやってきました森林外縁。
街の南外門から数百歩。
500メートルないぐらいじゃないだろうか?
石畳の道が森の中へと消えている。
あの道、森を抜けるまでちゃんと石畳で鋪装してあるんだろうか?
「兄さん、どうします?」
ご機嫌な妹様はしっぽをふらんふらんさせていた。
「とりあえず街道付近で兎出てこないか調べよう。その後ちょっと戦闘の感を慣らしたいから命令以外で攻撃しないで」
「わかりました。仰せのままに♪」
と、言うことで道沿いにゆっくりと森の中へ。
「きゅい!」
歩いて2、3分。茂みの中から兎が躍り出てきた。
そのまま跳んで体当たりしてきたから手で払ってみた。
― 10のダメージ ―
「きゅい!!」
空中でくるくるっと回って綺麗に着地。
とりあえず、接触した時点で攻撃判定成功の御様子。
「兄さん?」
「しばらく回避練習するからゆっくりしてて。周囲の警戒だけよろしく」
「はい」
懲りずに体当たりしてくる兎。
ひょいっと体を横に傾けて回避。
ぴょん、ひょい。ぴょん、ひょい。と暫く回避し続ける。
「きゅい。きゅいきゅい!」
何度も避けられて腹が立ったのか、兎はべしべし地団駄を踏んだ。
かわええ。ほっこり。
あ、兎の容姿は現実と何ら変わりなく灰色の野ウサギ。
「きゅうぅぅぅぅ」
何か力貯めをしているかのような挙動をみせる兎。
次の瞬間。兎の足が光ったと思ったのも束の間、どごっとお腹に鈍い衝撃。
― 150のダメージ ―
「けっこうクるぅぅ」
脚力ブーストしての体当たり。
シンプルだけど、目で追えない速さなのがヤバイ。
「治療弾!」
背後から焦った声が聞こえて、すぐあと、背中に何かが当たってパァンとはじけ緑色の光が僕を包んだ。
「兄さん大丈夫ですか!?」
「ありがと。だいじょうぶ。もうしばらく見てて」
「んぐっ。・・・・・・はい」
我慢してくれてありがとう妹よ。
「さって」
兎は今のが大技だったのか、ぜぇぜぇ肩で息をしている。
僕はそれを眺めながら兎の戦線復帰を待った。
「きゅい!」
少しして息が整った兎は戦闘を再開した。
またひょいひょい避けていく。
そうしてるとまた脚力貯めを始めた。
僕は兎の背後に回ってみる。
「きゅい?」
すると兎は貯めるのを止めて僕の方へ振り向いて頭突きをしてくる。
「うん。他にアーツとかモーションはないかな?」
そのあと、五分ぐらい兎と戯れてみたけど、体当たり以外しないので倒すことにした。
「せいっ」
兎が体当たりしてくるのに合わせて、頭部目掛けて拳を振り抜く。
パキャッと大変嫌な音がして、ドサリと地面に落ちた。
兎の死骸は大層綺麗な状態だった。
うん、さすがに頭部陥没とかそんな表現描写実装してないよね。
「兄さん、お疲れ様です」
「うん」
「死骸かたづけますね」
「あ」
妹様がひょいっと兎の死体を拾ってなんかのウィンドウに放り込んだ。
「どうしました?」
「いや、いいや」
インベントリを開く。
兎肉が3つと魂石ってのが10個増えていた。
「こうなるんだ」
それにしても一匹につき3つ。あと10匹倒さないといけない計算なんだけど、これ、確定個数なのかなぁ?
「今度は蛇か猿を探そう。兎もいたら狩る」
「わかりました」
「あ、あと拳銃の届く範囲も調べよ」
「そうですね」
そうして僕達は森林外縁部をうろうろしていたのだけど。
兎がいっぱいでる。あと拳銃は20メートルぐらいなら攻撃判定される。
「シャー!」
ガラガラガラ。
「でっか!? まじでか」
やっと蛇をみつけたのだけど、筋肉ムキムキボディビルの腕ぐらい太かった。
全長は2メートルぐらい? しっぽを震動させてガラガラ警戒音を出している。
序盤のエネミーとしては渋いチョイス。
「こういうの平気?」
妹様に訊ねる。
「おいしそうですね」
さすがですわ。
「また、五分ぐらい戯れます?」
「そうしよっかな」
とりあえず近づく。
すると体を縮め、びよんとバネのように跳びかかってきた。
「君も体当たりか」
するりと避ける。
ついでに掴んでみようとしたら、ぬるりと滑って逃げられた。
「素手じゃだめか」
そういえば僕素手のまんまだ。
「セット」
音声ショトカで武器を呼び出す。
一昨日チュートリアルでもらった【新人執行者の大籠手】が僕の手腕を覆い隠す。
「やっぱでかすぎるよなぁ」
大籠手の形状はどういうのが伝わりやすいんだろう?
ナックルに武者鎧の腕を守る大袖っていう長方形の防具が二枚付いてて腕全体を守っているというようなデザイン。
そんな感じな上、金属製なので重い。しかも嵌めるタイプじゃなくて握るタイプだから余計にやっかい。
でもその分、もう一つの殴打武器、手甲より攻撃力が倍高い。
手甲はまんま金属製ガントレットだった。
「避けられるかな」
蛇は様子を覗っているようだった。
まぁ、そら突然腕が光ったりしたら様子見する。
だれだってそうする。
けれど蛇は果敢にも様子見を止めて体当たりしてきた。
カンッと籠手にぶつかる。
ダメージはない。
どうやら武器に当たる分にはダメージ判定が無い模様。
「う~ん。戦いづらい」
こうゆう地面に向かって拳を振り下ろしにいかなくちゃ当たらないエネミーは困る。
飛び跳ねてくれるからまだカウンター気味に殴れてこともなく済んでるけど。
しばらく蛇と戯れてみる。
意外と大籠手装備しても動きは阻害されない。
重くて疲れるって事もない。
そのあたりはさすがゲームとしか言いようがなかった。
蛇のモーションはどうやら体当たりのみ。アーツはやってこない。
もしかしたらパッシブ系とか非攻撃系なのかもしれない。
まぁ、危険度は皆無。
「倒すか」
どかっと殴り殺す。
一撃だった。
「後は猿か」
「もう少し奥までいきます?」
「そうね」
僕と妹様が歩き始めてすぐ。
べしゃっと泥が飛んできて大籠手にぶつかった。
「どっからだ?」
「あそこですね」
遠めの木の上に赤い猿がいた。
「遠距離攻撃は勘弁して欲しいなぁ」
周囲警戒アーツとかがないと死角から一方的に攻撃されちゃうのでよろしくない。
「届く?」
「ぎりぎりですね」
そう言って妹様は拳銃の引き金を引いた。
少々長めの銃身からエネルギー弾が飛び出し、見事猿を撃ち抜いた。
「ナイッシュ!」
妹様、一撃でちゃんと当てるとかコントロールいい。
「猿はいいや。一旦帰ろ」
そう告げた瞬間、どこからか泥が飛んできて妹様の顔にべしゃっと当たった。
「キーキッキ」
犯人はバカにしたように手を叩いていた。
「こんのクソザルがぁ!!」
殴りに行こうとした瞬間。
タァン、タァン、タァン、と間髪いれず3連射される音を聞いた。
・・・・・・その拳銃、連射機能とか無いよね?
「畜生の分際で」
あ、完全に怒ってらっしゃる。
猿は3発とも喰らって死んでいた。
「帰りましょう。お風呂で汚れを落としたいです」
「そうだね。即刻帰ろうね」
妹様は怒ると無言で早撃ちするタイプ。僕オボエタ。
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