第2話

第2話-1

 ―― 12 ――


「暗いし歩きづらいし勘弁してほしいわぁ・・・・・・」


 辺り一面、木、木、木。見渡す限り葉っぱの絨毯。

 唯一すくいなのは虫がいないこと。

 まぁ、フィルタ設定してあるし、もしかしたら実際には居るのかもしれんけど。


「故郷の森もこんなモノだったと思うんですけど?」


 僕の歩幅に合わせてゆったり歩いてくれてるっぽい妹様の発言に、マヂカヨって内心思った。


「そうだっけ? もっと歩きやすくなかった?」


 とりあえず、そういう体裁で会話を続けてみる。


「まぁ、郷のヒトが頻繁に入る森でしたから道はできてましたね」


「だよねぇ。この森も頻繁に採取や狩猟でヒトが入ってる筈なんだけどなぁ」


 これは本当。この森の事前情報洗ってる時に仕入れた。

 森の名称は「白猿の森」でエンカウントするエネミーは猿、蛇、兎の三種。

 それ以外の生物の話は出てこなかったからフレーバー設定としては居てもシステム設定的には居ないんだろうなって感じ。


「ちょうど“落葉”の季節みたいですから、細い道だったら消えちゃいますよ」


 お、新情報。今は落葉の季節。純粋に秋なのか、葉が生え替わる時期ってだけで四季は関係ないのか。


「これから寒くなるんだっけ?」


「いえ、《華の群島》はだいぶ南に有るのでドッと雨が降りやすくなりますけど、いうほど寒くはなりませんよ」


 どうやら四季じゃなくて雨季乾季な土地柄らしい。


「そっか。じゃぁ冬服とかは用意しなくて大丈夫そうだね」


 そう、未だ僕と妹ちゃんは初期服。

 僕が黒染めされた革製オーバーオールで妹ちゃんが同じく黒染めされた革製サロペットスカート。

 鬼人さんのクエスト報酬で服もらったけど何か似合わない感じだったから収蔵に納まっている。

 まぁ見習い服なんてそんなモンだ。


「もうちょいで着くと思うんだけどなぁ」


 地図ウィンドウを開くも、画面は白くもやがかかっている。

 ちょっとずつもやが晴れていっているので行ったことのある場所を自動マッピングしてるんだろう。


「兄さん余所見しない」


 ドンッ。と破裂音がしたかと思うと、いつの間にやら僕の前に躍り出ていた蛇が死んでいる。

 妹ちゃんに視界を移すと少々銃身の長い、完全にスチームパンクな見た目の蒸気拳銃を二丁構えていた。

 そうなのだ。妹様はなんと武器に銃を選んじゃったのだ。


「ありがと」


「どういたしまして」


 ホルスターに蒸気拳銃をしまう様子がかっこよくて惚れる。

 若干、どうしてこうなってって感はあるけども。

 元を正せば僕の我が儘が発端なので受け入れるけどさ。


 こんな! かわいい! 妹を! 前衛で戦わせたくない!!


 という主張からこうなっただけだ。

 できればヒーラー(回復役)がいいと思って告げたら、妹様が探し出してきたのは【アーツスクロール:治療弾】でしたとさ。

 ○○弾という名称のアーツは銃器専用なので選択肢が拳銃、狙撃銃、突撃銃、短機関銃、散弾銃、大砲の6種類。

 この時点で妹ちゃんの育成方針はコントロール(牽制役)兼ヒーラー(回復役)になりましたとさ。

 あと、今は拳銃を装備してるけどインベントリに大砲が入ってたりする。

 妹ちゃん曰く、大砲ぶっ放す方が好きとのことだったのだけど流石に取り回しと効果範囲の関係で普段使いは拳銃にしてもらった。


「あ、兄さん。前が明るくなってきましたよ。そろそろじゃないですか?」


 言われて見れば確かに。

 今まで木々で日の光が遮られていたのに、前方に明るいところが見える。


「ひゃっほい」


 やっと辿り着いたと思い、歩くのが速くなる。

 妹様の顔もほころんでいる。

 そして、森を抜けて視界が広がった瞬間、足が止まった。


「オレの縄張りに無断で入ってきたのは誰だぁ?」


 目の前には天然温泉。立ち上る湯気。

 辺りは開けていて、上空から見れば森の中にぽっかりと空いた広場が確認できるだろう。

 そんな感じのステキスポットなのだけど・・・・・・。


 めらめら燃えている巨大なゴリラが温泉につかりながらこちらを見ていた。


 一瞬。


 僕と妹は一撃で撲殺された。このゲーム初めての死亡だった。

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