第1話-5
―― 05 ――
「全然辿りつけねぇ・・・・・・」
港から直接街に入れたのは僥倖だったんだけれども、霊廟になかなか辿り着けない。
空に浮かぶお日様はちょっと落ちてきていて、3時ぐらい?
それにしてもなんというかヒト多い・・・・・・。
めっちゃ活気ある。正直若干うるせぇ。
僕と妹ちゃんは腕を組んで幅の広い車道を歩いているのだけど、ホコテン状態でけっこうなヒトが歩いている。
道行くヒトの話を聞き耳するとどうやら週末市の真っ最中らしい。確かに現実でも週末だけども。
まぁ、そんな感じなので屋根付き歩道には足を止めてショッピングしているヒトが結構居る。
というか歩道の奥に商店があるのだけど、週末市だからか歩道に商品置いて出店状態にしている店がほとんどで、もはや歩道の意味を成していない。
だから歩道なんて歩けるスペースがなくて車道を歩いているのだけど路面が鋪装されてないから結構凸凹してて歩きづらい。
石は落ちて無いようだけど土を踏み固めただけの街路なのだ。
しかも、完全に歩行者天国というわけでもなく普通に車が通る。そう、車。ファンタジー要素どこ行った。
とは言ってもガソリンや電気で動く現実世界の車ではなくて、白い蒸気を吐き出しながらゴトンゴトン転がる蒸気機関自動車だ。
形は籠馬車みたいで黒い塗装がなんか高級感を出している気がした。
見た感じ大金持ちが自己満で転がしているだけっぽい。
こんな歩行者が歩いている中を転がしているからもちろんスピードもほとんど出ていない。燃料の無駄遣いじゃんね。
でも金持ちの道楽ってそうゆうもんだよね。
「混沌としてるなぁ」
まぁ、なんだ。その、台湾・中華風な街並みの中で多種多様な人類が行き交い、たまに黒い蒸気機関自動車が転がる初期街?
この情景だけでカオスすぎて僕的にはおなかいっぱいなんだけど、ホントなんなんだろうね、このゲーム(歓喜)
こんな取り留めのないことを考えながら歩いているのだけどやっぱり霊廟に着かない。
この街広すぎぃ!
「すごいですね」
耳元で喋ろうとして、背伸びしようとするんだけど、歩いてるから巧くできなくて失敗してる涙目な妹がかわいい。
おもわず頭よしよしするとパァッて笑顔になる妹がかわいい(てんどん)
うれしくて尻尾ぶんぶんしちゃう妹がかわいい(だめおし)
「はぁぁぁ・・・・・・。尊いッ!」
なんか周りからナマアタタカイ視線を感じるけど気にしたら負けだと思う。
「兄さん。いえ、いいです。私もうれしいですし」
え? デレた? でれ属性選択してないのに!?
あ、選択したのは真面目・ポンコツ・淫乱です。
だってえっちな妹とか至高じゃない?
「それにしても着く気配がない・・・・・・」
「そもそもこっちであってるんですか?」
「あってる、はず」
いや、ちゃんと正面に霊廟の瓦屋根は見えてるんだよ? それに道も真っ直ぐだし。ただただ遠いだけ、のはず。
中華風の街並みなんだから碁盤みたいな整った感じにモデリングしてあるはずだし。
ヒト通りの多い大通りを歩いてるのが間違いなのかもしれないけど小道に入って迷ったら嫌だし。
ゲーム的にクエストでフラグ建てないと着かないとかだったらもう知らん。
「地図とかあったらなぁ」
「地図? あ、そうですよ! [天意の施し]で見ればいいじゃないですか!」
「[天意の施し]?」
「これです」
そう言って、妹ちゃんは僕がよくやるように手を上から下に振った。すると、妹ちゃんの前に半透明なウィンドウが出現した。
「えっ?」
え? なに? なんでシステムウィンドウ出せるの? プレイヤーだけじゃなくてパートナーも出せるのそれ?
「それ、僕にも見える?」
「はい。相方同士はお互いのを見られますよ」
そう言って妹ちゃんはウィンドウをこっちに寄越してくれた。
画面には称号、各種数値、装備品などが表示されていた。
このゲームのウィンドウ初期表示画面がたぶんこのキャラステータス画面なんだろう。
上方にタブが並んでいて地図と書かれたタブが有るのに気がついたから押したのだけど反応がない。
これは、あれか。他者のウィンドウは操作できないやつだな。
「ありがと。それにしても、どうやってパートナー判定してるんだ・・・・・・」
なにげなく呟いただけなのだけど、妹様はなに言ってんだこいつって表情を見せてきた。
うん、その表情もかわいい。でも今はその表情の理由を教えてほしい。
「兄さん。記憶喪失かなにかなんですか? 兄さんが相方になってほしいってこの指輪くれたんじゃないですか」
そう言って、“右手の薬指”を見せてくる妹様。
お耳がへにょんとなってて、もしかしたら凹んでいるのかもしれない。
でも、でもですね! 弁解させて欲しい!!
そんな! おいしい! イベントを! 設定だけで済ます開発は無能すぎやしませんかね!
右手の薬指だからまだなんとか、ギリギリ許すけど、左薬指だったら断罪ものですよ!
「兄さんも、対の指輪ちゃんとしてるのに忘れちゃったんですか?」
言われて見てみれば、たしかに僕の右薬指にシンプルな指輪が嵌っていた。
「天に相方であることを宣言する大切な儀式だったのに・・・・・・」
開発ぅぅぅ! せめてムービーでも用意しとけよおおお。
後で知ったのだけども、実は動画自体はあった。
でもそれはゲーム内ではなく、動画サイトの公式チャンネルという探さなければ見つけられない場所だった。
そこにプレイヤーキャラが港町に辿り着くまでの略歴動画が種族別に投稿されていたのだ。
僕は初めてゲーム会社に殺意をおぼえた。
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