第1話-4

 ―― 04 ――


 ざざーん、ざざーんと波の音が聞こえる。


 意識を取り戻すと、ツヤのある真っ黒な木板で造られた波止場に立っていた。

 辺りを見回すと、似たような、燻して艶出ししたような黒い木材が浜辺に散乱している。

 もしかしたらこの波止場、いや、桟橋? それとも港か?

 まぁ、どれでもいいか。

 とにかく。この場所は改装中なのかもしれない。


 周囲にヒトはあんまり居ない。

 酒瓶持って泥酔してる猫又っぽいなにかとか、焚き火の周りで踊ってる子鬼っぽいなにかとかがいて、なんかとってもカオス。

 普通の人類居ないの? ともうちょっと見回していると、太極拳健康法やってるっぽい一団をみつけた。

 普通の人間に、角はえてるヒト、頭に羽根はやしてるヒト、なんかパワードスーツ着てるような見た目のヒト・・・・・・。


「パワードスーツ!?」


 なにその世界観間違えましたみたいなやつ? 一人だけ超メタリックなんですけど・・・・・・。

 あ、なんかめっちゃ湯気出てる。排気? 何? あのパワードスーツ蒸気機関なの?

 このゲーム東洋ファンタジーだった気がするんだけど、スチームパンクなの?


「マジカオス・・・・・・」


 獣人の女の子と旅できるからってだけでこのゲーム始めたけど開幕からカオスすぎませんかね?

 いや、プレイアブル種族に機人マシニカっていうサイボーグみたいな種族あったのは知ってるけどさ。あの種族、あんなスチームパンクな感じじゃなかったじゃん?

 なんていうか、こんなごった煮世界なの、このゲーム?


「ていうかな。ここどこ?」


 いや、ゲームの初期開始地点なんだろうけど、説明もなけりゃ、ムービーもないし、導入すらない。


 ふっしんっせつぅぅ。


 ヒトじゃなくて風景の方に注視する。

 太陽は一つらしい。結構高い位置で煌々と照っている。

 ゲーム内時間はお昼過ぎぐらいなのだろうか?

 そして地上はさっきも確認したとおり、浜辺と言うか、港というべきなのか、まぁ、そんな海の近くに立っていて。


 そのちょっと先には街が見えているのだけど。

 石造りなのか、レンガ造りなのか、ようわからん四角い建物がズラズラって建ち並んでいる。まさかコンクリ製ではあるまい。


 建物の屋根は三角形で青色瓦。軒下には紅い提灯がいっぱいぶら下がっている。それだけでなんか中華っぽい雰囲気。


 二階建てが多くて、二階部分には看板が掛かっていて、金色、銀色と主張が激しい。これもなんか中華っぽい感じがする。


 一階部分はなんか道側半分が屋根付き歩道みたいになっていて、雨の日とか便利そうって思った。


 あとで調べたら、亭仔脚っていう台湾特有の建築方式らしい。なるほど、さすが台湾産ゲーム。


 あと、なんか、とってもでかい瓦屋根の建物がデーンと街の中央に建っている。

 まだ一歩も動いてないけど、あの建物が街の中心部にあるってのは見ただけでわかる。お寺の本堂みたいな、神社の社みたいな、豪華で立派な建築物。


 なんなんだろうね、あれ。


「兄さん兄さん。いつまで私を抱きしめてる気です?」


 胸の辺りから女の子の声がすると思ったら、妹(AI)でした。


「ん? あぁ!」


 なんかやわらかいし、あたたかいし、もふもふしてると思ったら妹ちゃんを抱きしめっぱなしだったのだ。


 というか、VR凄いな!

 女の子のぬくもりとか体験できるんだ!

 いやぁ、今までやってきたゲーム、女の子とこんながっつり密着しなかったから超新鮮。

 あ、いい香りまでする。しゅごぃ。

 やばい。放したくない。

 もっと妹の背中もふもふしたい。おミミさわさわしたい。


「んっ・・・・・・。兄さん、背中撫でる手つきがやらしいです」


「おぅふ。ごめん」


 さすがに放した。初日から煩悩に負けてBANとかマジ泣ける。

 自重せねば。

 一歩引いて、改めて妹を凝視すれば、出てくる感想は。


「やっぱ美少女だな!」


「兄さん反省してませんね?」


 三白眼でにらまれる。あ、その表情好き。SSスクリーンショット撮りたい。


 なお、後で知るがSSはショトカに登録しようがアイコンを押す動作が必要で被写体には何しようとしたのかバレる。盗撮防止処理らしい。まぁ、妹にはSS撮るよっていえばいいだけなのでそれほど問題はなかった。


 そうそう。僕も妹も褌姿じゃなくなっていた。

 僕は革製の黒いオーバーオール。

 妹ちゃんは革製の黒いサロペットスカート。

 獣人の初期衣装はこれなんだろう。


「それと、ここは《華の群島》臺州は最北の町。媽祖廟港ですよ。兄さんがここに決めて船に乗ってきたのに忘れたんですか?」


 ん? あぁ、僕が「ここどこ?」って呟いたから応えてくれたのね。妹ちゃんとっても親切。僕うれしい。

 それにしても、そういう設定なのね。

 そりゃ、祖国離れて別天地に足運ぶんだからそういう設定あるよね。


「僕、なんでここまで来たんだっけ・・・・・・」


 とりあえず設定を聞き出そうと呟いたんだけど、妹様が呆れた目で僕を見てくる。


 あ、待って。その表情もSS撮りたい。


「兄さん・・・・・・、「男児たるもの一度は旅に出ねばならない!」ってお爺様と大喧嘩して私まで巻き込んで故郷から出てきたのに着いた途端忘れるとかなんなんです? 私をふりまわして遊んでるんですか?」


 おおぅ。僕、完全にはた迷惑な放蕩息子じゃん。設定上存在する爺ちゃんマジごめん。


「父さん、母さん、お空の上から見守っていてください。僕、頑張ります」


「何言ってるんです。“私の両親も兄さんの両親”もピンピンしてるじゃないですか」


 おぉ、僕の両親も、妹ちゃんの両親も生きてるのかぁ。

 ・・・・・・ん? あれ? 義妹!? 偽妹なの!? 近所住みだから兄さん呼びしてるだけの結婚できちゃう系妹なの?

 設定時に妹としか書かれてなかったけど、もしかして真妹か義妹か偽妹かランダム決定だったりするの?

 そうだとしたらクソ呼ばわりするプレイヤーいそう・・・・・・。

 種族的な設定でもあるのかねぇ? 里の同年代皆兄弟姉妹とか。

 まぁ僕はそこにこだわり無いから気にしないけど。


「それで、これからどうするんです? まさか無計画ではありませんよね?」


 全くの無計画、というかチュートリアルがあって勝手に進むと思っていたので予想外。でも妹ちゃんの視線が痛いので、僕はとりあえずあのでっかい建物を指さした。


「とりあえずあそこに行こう」


「媽祖廟ですか。まぁ、当然ですね」


「まそびょう?」


「兄さん? ・・・・・・あぁ、故郷にあるのは祠だけでしたものね。あそこは霊廟です。神様仏様を祀る建物です。この街は媽祖菩薩を祀ってるらしいですよ」


 なるほどこういうのは中華っぽい。媽祖って名前の神様は知らないけど。オリジナルかもしれないけど今度調べよう。


 ※で、あとで調べたところ、ちゃんと現実世界でも信仰されている神様でした。


 とりあえず僕は媽祖廟に向かって歩き出す。

 それに伴って妹様が腕を組んできた。

 近い。やわっこい。マーベラス!

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