第1話-3
―― 03 ――
「やっとゲームできるうううう!!」
思わず雄叫びを上げた。
だって、大学が思ったより忙しかったのだ。
入学してあれよあれよと前期終了夏休み。
ホントは大学入れたらすぐに始めようと思ってたゲームがあったというのに。
まぁ、でもそのおかげでキャラクリは存分にできたのでヨシとする。
ウィンドウを開いて、「天意・社稷・律」というタイトルのゲームを起動した。
台湾の会社が開発、運営しているらしいMMORPG。
国産以外のゲームは初めてだけど、ま、大丈夫でしょ。
と、いうことで行ってきます!
――――――――――――――――――――――――――――――
「・・・・・・すげぇオリエンタル」
ゲートを抜けて、視界に入ってきたのは茶色い部屋だった。
土壁らしき茶色い壁には木製の格子装飾窓が等間隔に埋まっている。
扉も木製の格子細工がふんだんに施されていた。
アンティークな振り子時計が壁に掛かっていてカチコチと時を刻む音が室内に響いている。
床には真四角な紅い絨毯。その上に木製の丸卓。卓を囲むように木製の丸椅子が六つ。
とっても中華風。すごい趣がある。
「なんだっけ? 茶館、だっけ?」
そして丸卓の上には、まるまる太った茶色い猫がぐで~んと伸びて寝ていた。
もふい・・・・・・。
そんなことを考えていると、視界を覆うようにシステムウインドウがポップした。
ウィンドウにはいろんな言語で言語が書いてある。
説明書きは無いけど、まぁ、十中八九言語設定だろう。
勿論、日本語に設定。
そういえば、このゲーム台湾開発の台湾運営だったはずなんだけどどんだけ言語対応してるんだろう。
「ようこそ。ルーキー」
とってもダンディな声だった。
声のした方に視線を向けると、ふくよかな猫が顔だけをこちらに向けていた。
うん、やっぱりもふい。
「サーバーを選びたまえ」
お猫様メッチャいい声!
すっげぇふてぶてしい感じビンビンな猫様なのにこれは反則では?
「言葉は通じているかね?」
「あ、はい」
お猫様の声に聞き惚れていたけど急かされたのでさっさと鯖選択をしよう。
さっきからポップしているウィンドウを見ると台湾鯖、中国鯖、韓国鯖、日本鯖、米国鯖1、米国鯖2、米国鯖3、と国ごとにずらずら並んでいる。なんかすごい。大陸のオンラインゲームは鯖が多いって聞いていたけどこれはすごい。
とりあえず日本鯖でいいか。コミュ覗いた感じ全然日本人プレイヤー居ないっぽいけど。それもまたよし。
「サーバーの選択を受諾した。」
「次はこのゲームで自分が演じるキャラクターをエディットしたまえ。まずは人種選択。
この種族で遊ぶために僕はこのゲームを選んだと言っても過言ではないのだから。
それにしても“種族”じゃなくて“人種”と言ってるあたり、こだわりを感じる。
「
ん? この台詞は獣人を選んだからかな?
お猫様の好感度が上がった?
「さて、次だが、――おや? 既にデータがあるようだ。読み込むかね?」
そう、実は、このゲーム、キャラクリだけできるトライアルバージョンがあったのだ。もちろんインスコしてひたすらアバターこねこねしたよね。ゲームできなかった一年の八割ぐらいはこのキャラクリに費やしたと言っていい。
「もちろん!」
そう宣言すると、突然、体の感覚が変わった。
と、同時に目の前に姿見が出現した。
「これでよろしいかな?」
姿見に映った僕は、会心の出来だと満足した。
種族特徴の虎耳。なびくように後へと流れる白髪。
少しケモノよりの顔面が勇ましい。
細マッチョを体現したかのような細身でありながら筋肉質な胴体。
真っ白な獣毛に覆われた腕脚にもしっかりとたくましい筋肉。
手は大きく、その気になれば爪で人を切り殺せてしまうだろう。
足もケモノじみていて、カカトが高く、指は太く、爪は鋭い。
くるりと背を向ければ、背にも真白い獣毛が載っており、黒い虎柄が映える。
スラリと伸びた尻尾は、全く動かないけれど、慣れれば動かせるようになるのかもしれない。
もう一度、くるりと正面を向いて、ちょっと動いてみたり、表情を作ってみたりして、確認してみる。
やばいかっこいい。
完璧な細マッチョな虎獣人の青年である。
赤褌一丁なのは、装備なし状態のデフォなのだろう。
なにゆえ赤褌?
「これでよいならば完了を押してくれたまえ」
即押しした。
「次に君のこれからのパートナーをエディットしてくれたまえ。まずは性格属性。パートナーがどのような性格をしているのが望みか、教えてくれたまえ。三つまで選択可能だ」
お猫様にそう告げられる。
そして、僕の正面にポップするウィンドウ画面。
そこには、性格がずらりと並んでいた。
無垢 元気 清楚 真面目 不真面目 ギャル 御転婆 ポンコツ 自信過剰 おばか 物静か 根暗 ネガティブ ポジティブ 淫乱 頭でっかち 高飛車 無口 昼行灯 毒舌 ツンドラ でれでれ 博識 ヤンデル 潔癖
これで一応全部らしい。
さて、どうしようか。
折角一緒に旅をするのだからお喋りはしたい。でも、ひたすら喋られても疲れちゃうだろうし、元気すぎても大変そう。ここは真面目あたりにして問えばちゃんと応えてくれる感じにしようか。
でも、それだと堅苦しいから、柔らかい感じ・・・・・・。
ん~、あ、これ。ポンコツにすれば良い感じになるんじゃないかな?
ポンコツ系真面目ちゃんとか萌えじゃない?
そうと決まればあと一つ。
・・・。・・・・・・。
こ、これ! これがあるなら選択しない訳にはいかない!!
「その三つでよろしいかな?」
「いぇす」
悔いはない。反省もする気はない。僕はこの性格の女の子と旅がしたい。いや、旅はしなくてもいい。一緒にいたい。
「選択を受諾した。次に君が望むパートナーの属性を教えてくれたまえ」
先程とは別のウィンドウ画面が現れた。
父 母 兄 弟 姉 妹 息子 娘 祖父 祖母 幼馴染 従者 主人 奴隷 師匠 弟子 上司 部下 同僚 親友
んん? 属性? まぁ、その言葉でもあってるのかな?
さて、パートナーは女の子にする気まんまん、というかアバターデータは作ってあるから男用の属性は除外。
どれがいいだろうか。幼馴染、妹、親友・・・・・・。
従者ってメイドさんとかかな?
ちょっとあこがれるんだけど。うぅん、でも今回のイメージだとちょっと違和感。いや、でもメイドさん棄てがたい。
いや、でも、でも。
今回作ったアバターを頭に思い描く。
そしてちょっとだけ妄想してみる。
・・・・・・やっぱりメイドさんはなんか違う気がする。
うん、イメージして見て思ったけど、あの子はやっぱり“妹”だろう。
「その選択でよろしいのかな?」
「ダイジョブ!」
「では選択を受諾した」
さて、これであとはアバター設定だけの筈。
アバター設定でCV設定もあったし、なんかここで更に決めろってのはないと思うんだけど。
「次に人種を選択したまえ。
勿論、
あたりまえだろう?
折角一緒に旅ができるんだから、もふもふ少女にしないわけがない。
それに僕はこのパートナーのキャラアバターのエディットに心血を注いだのだ。それが遂に見られると思うと滾る。
「選択を受諾した。――さて、こちらもデータがあるようだ。適応させるかね?」
「いぇす!」
すると、姿見が消えて、かわりに、僕より二回りほど小さい少女が現れた。会心の出来である。(二回目)
ふよふよ揺れる猫耳。
ゆるふわ二つ結びのお下げ髪にぱっつん前髪という幼い感じの髪型。
顔付きは完全にヒトよりで、丸顔。おっきなお目々。ちょっと太めの眉。田舎っぽい、まだ子供が抜けきらない感じの顔。
小さい肩に、大きなお胸。もふもふ毛皮に包まれた腕。撫でたくなるようなお腹。ふらふらゆれる長いしっぽ。もふもふに覆われたむっちりふともも。種族特徴がよく出たカカトの高い大きな足。
真白い毛に覆われた可愛らしい女の子が僕の目の前に!
「はじめまして。兄さん」
すっとまぶたが開き、じっとこちらを見つめ、その一声をかけられた瞬間、僕は感極まって彼女を抱きしめた。
「パーフェクト!」
「うるさいです兄さん」
パートナーの属性選択で従者にするか妹にするか迷ったけど、妹にして正解だった。すげぇよき。愛でたい。
あ、女の子のデフォはサラシに白褌なのね。開発の趣味なのかな?
「では、以上で事前設定は完了した。佳き物語を紡いでくれたまえ」
すばらしくいい声の猫がそう言うと、視界がぐにゃりと歪んだ。
「そうそう。僕を探すといい。見つけたならばすばらしい物語を与えよう」
猫が発するそんな言葉を耳にしながら、僕は一度、意識を失った。
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