第1話-2 改版 差し替え
―― 02 ――
「そんなこと言ってないでそろそろ次の目的地決めてくれませんかね?」
湯船につかったままジト目でお小言をぶつけてくる妹ちゃんに向けて、僕はシタリ顔で言い返す。
「ふっふっふぅ! なんでワザワザこの街まで移動してきたと思ってるんだい!?」
僕の言葉を耳にしてもジト目を止めない妹ちゃん。
なんか新たな性癖に目覚めちゃいそう。
「私、何も聞いていないのですが?」
「だって妹ちゃんには内緒にしていたからね!(キラーン)」
アーツを使って無駄に光る演出を入れてみる。
「兄さんが、私に・・・・・・隠し事・・・・・・?」
あ、やばい。妹ちゃんの目の光が消えてゆく。
「そんな・・・・・・兄さん・・・・・・」
今後絶対妹ちゃんに隠し事はしないぞ。
「待って! まってまって。僕、妹ちゃんに驚いて喜んで欲しかっただけなの!」
「本当・・・・・・ですか? わたし、相談相手にもなれない役立たずじゃ、ありません?」
「そんなことない! 僕、妹ちゃんが一番大事!」
ぎゅっと抱きしめる。
やわっこい。
「兄さん! 私も兄さんが一番です!」
・・・・・・着実に妹様の依存度が上がってる気がするんだけど大丈夫なんだろうか?
メンヘラ化しないよね?
しばらく妹様を抱っこして、もふもふ落ち着かせた。
「兄さん、それで、何を隠してたんです?」
僕の胸元で、上目遣いで見上げてくる妹ちゃん。
ほんのり頬が朱いのは、お風呂のせい?
「実はね、この街を出て北東に少し歩くと遺跡があってね。その最深部に温泉が湧いてるらしいんだ」
「温泉」の一言で妹ちゃんの頭のてっぺんのおミミがピコーンと立った。
楽しみでしかたないのか、シッポがふわんふわん揺れている。
温泉系成就全達成(いわゆるゲーム内実績)を主目的にしてるせいか、いつのまにか僕の妹様は完全に温泉大好きッ娘になっていた。
「兄さん、その遺跡の詳細はちゃんと調べてあるんですか?」
温泉に心惹かれながらもそういう、ちゃんとすべき所は外さないのが妹様のステキなところ。
「草原の真ん中にドーンと灰色の石造宮殿が建ってるらしいよ?」
「・・・・・・塗装されていない宮殿です? 経年劣化で剥げてる可能性もありますけど」
なにかひっかかる御様子。
「えっと・・・・・・萬暦帝時代の建造物って言ってたかな」
それを聞くと「う~ん」と唸り出す妹様。
「崩壊前の遺跡ですね。とはいえ萬暦帝なら比較的新しいです。約600年前ですかね。でもあの時代なら絢爛豪華な塗装がされているはずなのですが・・・・・・」
「塗装はないけど彫刻は至る所にされていて豪華絢爛ではあるらしいよ?」
「それを好んだのは萬暦帝の次代なはずですが・・・・・・。まぁ、気にしても仕方ありませんか。どちらにしろあの時代の遺跡なら脅威度はそれほど高くありませんね」
「うん。中に出てくるエネミーも判ってるし、死ぬことはないよ」
「一応言っておきますけど、絶対死にたくないですからね。生き返るからって死んでいい訳じゃないんですから」
「もちろんわかってる」
というか、初期の不手際以外で妹様を死なせちゃったこと無いでしょ。よっぽどトラウマになっちゃったのは判るけど。
「さって、じゃぁ、行くってことでいい?」
「はい! あ、でもその前にお腹満たしてから行きましょう」
「そうだった。空腹度結構減ってるんだった」
なんとも締まらない感じであった。
――――――――――――――――――――――――――――――
はい。ということでやってきました。石造宮殿遺跡。
「ホントに草原のど真ん中に建ってるんですね・・・・・・」
妹様がポカンと遺跡を見上げている。
まぁ、その感想も判る。
「しかも、想像していたよりもダイブでかいね・・・・・・」
僕達の正面には紫禁城みたいな二重瓦屋根の宮殿が建っていた。
壁と柱は灰色の石で構成されていて、浮き彫り細工でギッシリ漢字が書かれている。
まぁ、たぶん詩歌だろう。そして、ただのフーレバーグラフィックだ。
読めたところで攻略には寄与しないと僕達は経験から判っている。
扉は無く、いつでも中へどうぞと言う感じに玄関門があるだけだ。
中は暗くて窺えない。外がまだ真っ昼間で明るいということもあるのだろう。
「兄さん、何が出るんでしたっけ?」
「兵士の石像と黒い犬と人魂」
「・・・・・・それって」
「うん。ここ、お墓なんだろうね」
妹様は口をひくつかせた。
「お墓に温泉って」
「なんかねぇ、訊いたところによると別の遺跡と合体しちゃったんじゃないかって」
「はぁ・・・・・・。見てみないことには判断がつきませんね。行きましょうか」
「うん。レッツ冒険」
と、いうことで僕と妹様は遺跡内に入り込んだ。
内部構造は豪華な家、という感じだった。
そういえば、中華系皇帝のお墓って死後の霊が住む家を造るって感じの思想なんだっけ?
それにしては縮尺がおかしいというか、間取も広すぎで、天井も高すぎる気がしないでもないけど。
調度品はない模様。がらんとしていた。
盗掘でもされたんじゃないだろうか? というぐらい何もない。
「兄さん・・・・・・」
妹ちゃんが難しい顔をしていた。
「今更なんですが、この遺跡、誰かが管理してたりするんですか?」
「管理人自体はいたらしいけど、今は出入りご自由にどうぞってスタンスらしいよ?」
トコトコ先に進みながら応える。
話しながらも周囲の警戒は一応している。
妹ちゃんもしているようで、頻繁に頭のてっぺんに付いてる猫のおミミがぴくぴく動いていた。
プレイヤーも慣れれば遠くの物音が聞こえるようになってくる。
だから索敵系スキルと相性が良いのだけど、気をつけないと勝手に熟練度が入って予定していたスキルの熟練度を貯められないとかいうポカが起きたりする。
なので、このゲームでは必要なスキルの熟練度を上昇させる状態にして、それらのスキル以外は停滞状態にしておくのが常識って教わった。
「管理者が居るのに基本放置って、中に手がつけられないバケモノでも住んでるって事では?」
「それは・・・・・・どうだろうね?」
死霊系エネミーがポップしてる時点で管理は諦めたんだろうけど、《華の群島》に生きてるヒト達は少々常軌を逸している感じだから、もしかしたら死霊系エネミーがこのお墓の守護管理をしているだけかもしれない。
管理人が死霊術者だとか、おのお墓の主が死霊術者だったとか。このゲームはそんなことが多々ある。
「・・・・・・兄さん。造りが変わりましたよ」
お喋りしながら歩いていたのだけど、なるほど確かに今までの感じじゃない。
今までは灰色の石造家屋という感じだったけど、今、目の前に広がっているのは極彩色に着色された部屋だ。
相変わらず調度品は全くない。
「・・・・・・たしかにこれなら萬暦帝時代の雰囲気ですね」
妹ちゃんの知識的にはそうらしい。
プレイヤーの僕にはいまいち判断がつかない。
僕、そういう世界観考証系プレイヤーじゃないし。
「さて、この造りだと目的の場所は一つ下って地下ですね」
なるほど?
「それまでに妨害が無ければいいのですが」
「・・・・・・言霊って知ってる? 言うと出るんだよ?」
「・・・・・・すいません。確かにこの部屋に向かってくる足音が・・・・・・」
僕と妹ちゃんは折角なのでこの部屋で待ち構えることにした。
構造自体は天井高く、間取広いという戦闘しやすい空間。
「どの銃器がいいですかね?」
インベントリウィンドウを開いて妹ちゃんがかわいらしく首を傾げた。
「とりあえず拳銃でお願い。数が多かったら大砲に持ち替えてくれる?」
「はぁい」
嬉々として二丁拳銃を装備する妹ちゃん。
射撃大好きになっちゃったのは想定外だけど、まぁ、これも運命だよね。
「さて僕も」
赤い金属手甲を装備。
少し待っていたら、エネミーの第一波が律儀に扉を開けて部屋に入ってきた。
「シンニュウシャ・・・・・・。サレ」「サレ」「サレ」
「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」
「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」「サレ」
去れ、だろうか?
大合唱である。
見た目は石剣と石盾持って鎧着た兵士の石像なのだけど。これ、本来は皇帝のお墓にあるやつでは?
なんか教科書で見たことあるぞ? 兵馬俑だっけ?
「兄さん。多くないです?」
「まだ言うほど」
「そですか」
「さて、やりますか」
「はい!」
「ヘイトフラッシュ!」
ヘイト(敵視)集めるアーツを音声ショトカで発動。
途端、僕の体が光り、次の瞬間には石像兵がワラワラ僕目掛けて突撃してくる。
「こいやおらぁ! ガードアップ! カットアップ! ドッジアップ!」
物理抵抗、魔法抵抗、回避率アップ!
妹ちゃんには指一本触れさせんぞ!
「「「サレエエエエエエエ」」」
おどろおどろしい声を上げながら突進してくる石像兵。
ドシンドシンと足音をたてていて、どうやらしっかり中身もつまっているらしい。
「漆の型!」
HP吸収系殴りアーツ「堅硬拳」はタンクロールには最適なアーツの一つ。
「そぉれ!」
どぉぉん、と鈍い音がして一撃で石像兵が吹っ飛んでいく。
「漆の型! 漆の型! 壱の型!」
吹き飛ばしはアーツ効果じゃなくてプレイヤーの経験だけど、この石像兵、意外と軽く吹っ飛ぶ。
「サレエエエエ」
わらわら寄ってくる一体が石剣を平らに持ち突くように走ってくる。
けれど、そんなの喰らってやるほど初心者じゃないし。
ヒラリと避けて腹にグーパン。吹っ飛ぶ石兵。
「爆破弾」
うしろから妹様の声が聞こえたと思ったら、パァンと破裂音がして、ドオオォォンと僕の正面が爆発した。
「相変わらずすげぇ威力」
石像兵は一掃された。
妹様の方に振り向けば、彼女は大砲を小脇に抱えていた。
うん。あの数ならやっぱりそっち使うよね。
「ありがと♪」
「どういたしまして♡」
むふーと喜びを見せる妹ちゃん。
やっぱりかわええ。
それから、無茶苦茶石像兵殲滅した。具体的に8ウェーブぐらい。
――――――――――――――――――――――――――――――
「まだ来るんですかね?」
いい加減疲れてきた僕と妹ちゃんである。
「そろそろ、奥に行きたいね」
この先に温泉が待ってるからまだ頑張れるけど、そろそろ辛い。
なんて思っていると。
「朕の家で騒いでおるのは何者か?」
やっと親玉の登場である。
でも、なんか、生きてない?
「えっと、ここの家主さん?」
「そうであるぞ。うぬらは野盗の類か?」
見るからに皇帝な服を着た人だった。
冠に、帯を締めるタイプのゆったりした衣服。
背が高く、美丈夫という言葉が似合う。
「兄さん、兄さん。あの方、生きてますよ!?」
妹様が僕の耳元まで寄ってきて囁きかけてくる。
「そだね。本人かな?」
「なぁ、うぬら。問いに答えよ」
「あ、はい。この遺跡に温泉があるって聞いて、入りに」
皇帝っぽいヒトは顎に手を当てて、何事か考え始め、すこし沈黙した。
「どうするんですか兄さん。これで皇帝陛下ご本人だったら大変不敬です」
「いや、でもとっくに退位してるし」
「そういう問題じゃないです」
そんな漫才みたいな遣り取りをしていると。
「ふむふむ、観光客であったか。だが、ここは萬暦帝たる朕の家。武具を持たぬ者の出入りは自由としておるが、武具を常時携帯しておる者には些か厳しめに対応すると決めておる」
あぁ、なるほど。装備をしちゃいけない系ダンジョンだったのね。
8ウェーブ戦闘とか普通じゃないもんね。
もうちょい調べれば情報手に入ったんだろうか?
「ということで、そこな虎人。朕の至高の湯に入りたければ、朕が報償を与えるに値する武を見せよ。朕が誇る従者との一騎打ちで美事なる武闘を演じるのだ」
あ、一騎打ちはまずい。タンクは火力が出ないんですよ。
「さて、居るな?」
「ここに」
「えっ?」
いつのまにか、皇帝っぽい人の三歩斜め後ろにクラシカルなエプロンドレスを纏った狐面のヒトが立っていた。
銀髪だから、大陸西部のヒトだろうか? 体型的に女性だけど、ヒトではなさそう。
「さて、朕に忠節を誓う第一の従者よ。あのものと演武せよ」
「かしこまりましてございます」
「兄さん? 大丈夫です? とっても強そうですよ?」
「まぁ、なんとか?」
「さて、お客様、主人の命に従い、ちょーぜつめんどーですが、お相手いたします」
あ、このメイドさんもしや毒舌系?
「はい、よろしくおね、っえ!?」
言い終わる前にメイドさんが光速で僕の懐に入ってきてアッパーを撃ってきた。
「ぬおっ!?」
体が勝手に動いてアッパーを回避。
オートドッジが発動したらしい。50%ひけたの運がいい。
「あら。めんどうな。一撃で落ちて下さればよかったのに」
これはやばい。火力系殴りスタイルだ。
普通に戦ったらどうあがいても勝てるビジョンがない。
こういうのはしかたないね。僕も鬼になろう。
「ヘイトフラッシュ!」
「むっ!」
突然の発光でメイドさんの目が眩んだのを確認して、足払い。
「きゃっ」
あ、意外とかわいい声。
まぁ、気にせずそのまま腕を捻って押し倒し関節破壊。
ボキりと骨の折れた音がする。
そのままもう片方の腕も骨折させる。
「あああぁぁぁぁ」
メイドさんが叫ぶけど気にせず両足もいこう。
「そこまで!」
「ん?」
皇帝っぽいヒトから制止の声。
「うぬ、朕の言葉聞いてた?」
あ、なんか軽い。というか呆れてる?
「え? 一騎打ちでは?」
「武を演じよ。と申した。誰が速攻で寝技に持ち込んで部位破壊すると思うてか」
「あ」
そういうのはちゃんと告げてくれないですかね? え? 言った?
「まぁ、技の否定はせんがな。もう少し華々しく戦うと思うておったぞ」
「兄さん・・・・・・」
「えっと」
「いつまで寝技かけてるんです! 離れて! 離れて!」
あ、はい。妹ちゃんを怒らせるのはよくない。
サッとメイドさんから離れた。
「ないですわー。殴り合いで勝てないって思った瞬間、部位破壊に切り替えるとかホント無いですわー」
メイドさんの批難が刺さる。
というか、メイドさんもう骨折治ってない? なんなの?
「まぁ、よい。殺さずに制圧できる技は賞賛に値する。褒美を与えよう。ということで、付いてまいれ」
「ありがとございます!」
「ありがとうございます!」
僕と妹様は皇帝っぽいヒトに感謝を告げて、温泉まで案内してもらった。
「おぉ! おぉ?」
地下温泉はなんていうか、凄かった。全面鏡ばりだ。いみがわからん。
「兄さん兄さん! 早く入りましょう!」
あ、うん。妹様はもう入浴しか頭にないね。
「どうだ。朕が当代一の建築家に造らせた浴室は凄かろう?」
「なんで鏡張り?」
皇帝っぽいヒトに訊ねる。
「美女に囲まれて入っている所を想像してみるがよい。鏡のおかげで更に倍々で美女が増えるのだ」
このヒトばかだ。でもそれもいいな。
「湯もこの地でしか湧かぬ特別製だぞ。ぜひ持ち帰ると良い。では存分に楽しむが良いぞ」
「あざます!」
皇帝っぽいヒトはそれだけ言ってどこかへ言ってしまった。
さて、とりあえずインベから空瓶取り出して汲んでみる。
【長寿の温泉水】(ランク:緑)
HP+5万を付与する温泉水。最大持続時間は20分入浴で2時間。
消費期限 2時間59分
これ、効果なかなかやばくない?
「3時間かぁ・・・・・・。間に合うかなぁ」
「なんです?」
妹ちゃんが覗き込んでくる。
「ここから3時間で街まで戻れると思う?」
「ギリギリではないですか? だから温泉水を温泉粉にできる機器買いましょうってあれほど」
「ぐぬぬ。でも高すぎだし・・・・・・」
「もぅ。お金貯めて絶対買いますよ」
「うん」
「さて、入りましょう」
「そうだね」
そうして、僕達は長寿の湯を存分に堪能した。
※ ※ ※
この物語は、僕と妹ちゃんが各地の湯場を堪能しながらいちゃいちゃするだけのゆるーいゲームプレイ記録、のはず・・・・・・。
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