第1話-9
―― 09 ――
「おなかいっぱいですぅぅ」
食べすぎたのか卓の上にぐでーんと上半身乗っけて伸びてる僕の妹ちゃん。かわいすぎかっ・・・・・・。
「おいしかったねぇ」
僕と妹ちゃんが霊廟に戻ってきた時には、もう夕方と言っていい時間帯で、周囲も暗くなって来ていたんだけど、霊廟広場は雑伎団公演夜の部って感じの様相で、混沌を窮めていた。
塀の傍に綺麗に整列している石灯籠に灯がともり、広場の中央から四方に渡された紐に垂れ下がるいくつもの紙提灯が煌々と赤い光を放ち、そこかしこで極彩色の衣服を身にまとったヒトビトが大道芸を披露している。なんとも異国情緒あふれる情景が目の前に。
そして、そんな情景を傍目に飲食を楽しむ観光客。それでも酔った客が問題を起こさないのは給仕をしているヒトがあからさまに剣を刷いていて、しかも使い慣れてる風の強面ばかりだからだ。
あれ、ぜったい極道とかマフィアとかそっち系のお兄様方だよね? 日本だと祭りの出店はそっち系の人がやることがあるらしいけど、大陸の文化だと給仕やるのが普通なのだろうか?
この時の僕はまだ知らなかったのだ。この街自体、そっち系の組織が維持運営していて、組織の本拠地がこの霊廟だということを。
「はい~~」
伸びたままだけど顔をちゃんとこちらに向けてお返事してくれる妹ちゃんはとっても良い子だと思う。
せっかくなので隣に座る妹ちゃんの頭をさわさわ優しく撫でる。
「えへへ。兄さんに撫でられるの好き」
ズキューン。その時僕の体に電流奔る。
いやぁ、反則級なかわいさだわ。ちゅっちゅしたい。
・・・・・・自制、自省。
「しばらくごろごろしてたいです」
妹ちゃんのおねがいだもの。お兄ちゃん幾らでも叶える!
ふにゃんふにゃんになってる妹ちゃんの頭をなでりこなでりこ。至福っ。
猫みたいにごろごろ喉鳴らさないかなと妹ちゃんを微笑みながら眺める。
「いいわぁ。貴方達いつまでも愛でてられるわぁ」
ビクッ! 突然声かけられるとか予想外すぎる! しかもなんか声の感じからしてオネエ系のヒトでは!?
初めてだよ! いろんなオンゲやってきたけどオネエ系は初遭遇だ! 都市伝説とかじゃなかったんだ!
「ふわっ!?」
いつの間にか、向かいの席に推定オネエのヒトが座っている。その姿を確認した僕は思わず声を上げてしまった。
だって、そこにいたのは僕より一回りは大きな、それはもう鍛え抜かれた筋肉を纏った、そして雄々しい角が額に一本生えている、“一つ目の鬼”(NPC)だったのだ。
「あらぁ? 貴方、
「あ、はい。驚いてごめんなさい」
誰だって、己の容姿を驚かれたら傷つく。気にしてないって言われたとしても、その傷は残る。
「良いのよぅ。人類ってのは自分と差異のある存在を見るとどうしても恐怖してしまう生き物だから。本能なのよぅ。それに、ワタシは鬼人の中でも珍しい“青肌”だもの。ワタシの姿、怖いでしょう? それが“正しいのよ”?」
なんかもう、その発言だけで、僕はこのヒトが尊敬に値する方なのだと感じられた。
「兄さん兄さん」
いつの間にか、妹様は身を起こしていた。ちょっと毛が逆立っているのは興奮しているのか、警戒しているのか。
「彼の瞳を見てほしいです。とっても優しい感じです」
言われて、僕は相向かいの鬼人さんの瞳を見つめた。不快じゃないだろうか、とも思ったけれど、この鬼人さんは笑って受け入れてくれる気がする。現に、なんか厳めしい顔付きをしているけど、どこか笑っている気がする。
これは・・・・・・、笑顔が恐くて勘違いされるタイプのヒトでは?
「そっちの子猫ちゃんは良い目をしているわね」
優しい声音だった。でも、妹様は不服なのかブスッとした表情になった。
「猫系の獣人に“子猫ちゃん”っていうのは誇りを貶める結構上位の侮辱です。貴方にそういう意識はないのかもしれませんけど」
なるほど。僕達の種族にはそういう文化があるのか。知っておかないとまずいなぁ。
「あらぁ、貴方達は子猫ちゃんよ。まだ“目覚めてすらいないじゃない”の。これで一人前扱いしていたらワタシの獣人の友人達にワタシがボコボコにされちゃうわ。貴方達獣人は何をするにしても手が出る方が早いヒトばっかりだし」
なんだろう。“目覚める”ってキャラ強化システム的なのがあるのだろうか?
今訊いても答えてはくれない気がした。まだアビリティもスキルもなんも上げてない初期状態なのだ。フラグが立ってないだろう。
ハッとする。もう何時間も遊んでるのに未だスキルを1すら上げてないのは迷走しすぎでは?
「むぅ。たしかに、郷のヒト達を思い出すと、正しい気がするです。半人前を一人前扱いするのは命が幾つ有っても足りないです」
え? なんなの? 獣人さんは蛮族かなにかなの? 見る目のない奴は死ねって? 恐すぎでは?
「ふふ。ちゃんとわかってるじゃない。自分の能力を自認できてる子は伸びるわ。それに貴方達、[執行者]よね?」
僕は首を傾げたのだけど、隣で妹様が頷いた。また、知らない設定が勝手に付与されてる・・・・・・。
「そっちの男の子は自覚がないのかしら? その指輪、[天意の指輪]でしょう?」
そういう名称だったんだ、この指輪。
「その指輪は天帝様が与えた試練なのよぅ。施しを与える換わりに数々の試練を与える。そして、その試練を達成していくと気がつけば人類を良い方向へと導いている天意の執行者。それがその指輪をしているヒト達」
「試練・・・・・・」
「執行者が良く口にするのは「クエスト」って言葉ね。それが試練らしいわ」
あ、なるほど。そうゆう落とし込みなのね。システムを世界観に落とし込むの大変だよね。
「自覚したかしら? ふふ、そうね。ワタシからクエストをあげるわ。貴方達、按摩に興味はあって?」
[キャンペーンクエスト]按摩師への道①
ドルンギョルから基礎の手解きを受けましょう。
善縁値+100
【見習い按摩士の衣装セット箱】×1
【成長薬(ランク:赤)】×1
【新月貨獲得券(ランク:青)】×5
― 受注しますか ―
キャンペーン、クエスト? これは、あれかな? TRPG的な意味のキャンペーンかな? 1回で終わらない連続するクエストってことだと思うんだけど。毎回この鬼人さんがクエストくれるんだろうか?
それにしても、報酬のレア度がおかしい。赤って普通最上級じゃないのん? このゲームだと違うの? どうなの?
後で判明するがレア度のランク付けは前述したとおり白黄緑青紫赤の順だった。最高ランクである。
というかこの【成長薬(ランク:赤)】は使用するとアビリティが上げられるAPに変換されるとっても大事なアイテムだった。
「それにしてもドルンっ」
「だめよ。“この地”でむやみやたらに名前を口にしたら。それもまだ教わっていない?」
急に息苦しくなって言葉が止まった。鬼人さんの威圧? そんなこともできるのね。
鬼人さんに向かって頷くと、息苦しさが消えた。
プレイヤーもこの技習得できたりするんですかね?
「それで、どう?」
「興味有ります!」
一瞬、何を訊かれているのかわからなかったけど、思い出せた。よかった。
「じゃ、これ持ってね」
スッと差し出された2枚の御札っぽい何かを僕と妹様は自然に受け取ると。
「起動」
「えっ?」
御札がなんなのか確認する暇もなく、即座になんか術っぽいのが展開されて、僕は妙な浮遊感に襲われた。
【簡易転移札(ランク:緑)】
消耗品
取得ロック・ロック解除不可・取引不可・分解不可
登録した場所に即座に移動できますが1回使ったら消失します。
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