間話綴

間話 妹の想いと願い

 ―― 間話 ――


「ふにゃああぁぁ~~・・・・・・」


 お風呂はいいものです。

 

 《華の群島》に来て、こうやってなにも気にせずにお風呂に入れるようになったのが私にとって一番の収獲だったかもしれません。


 最初、「旅に出る」と兄さんに告げられた時はどうなるかと思っていましたけど、なかなか悪くありません。


 それにしても《華の群島》に着いてからの兄さんは楽しそうです。


 寡黙で、必要な事以外発言しない意固地なヒトだったとは到底信じられない変化です。


 “ヒトが変わったんじゃないか”と思うほどです。でも、私は今の兄さんの方が好きです。


 故郷に居た時とは違って今の兄さんは私のことを大切に思っていると言動で表してくれて安心できるから。


 頭なでなでしてくれたり、ぎゅって抱きしめてくれたり、「かわいい、かわいい」って言ってくれて、とても満たされる感じ。


 ちょっと過剰では? って思う時もあるけど。故郷の時よりは断然マシです。


 故郷の時の兄さんは口で言わなくても背中を見て解れ、というヒトでした。


 それでいて、私の考えてることなんかわからんってヒトで。


 言葉を使って意思疎通を図れば簡単に済ませられるのに兄さんは厭がった。


 自分が全て差配して、幸せにしてやるから黙って“俺”の背中を見ながら付いてこいって。


 私は籠の中で暮らす愛玩動物となんらかわりがなくて。


 だからあの日。


「俺の相方と成って、共について来てくれないだろうか?」


 と[天意の指輪]を差し出す兄さんが別人に見えました。


 「付いてこい」という命令ではなく、私に一緒に来る意志があるかちゃんと尋ねてくれた。


 それだけで感動してしまったのだから私はチョロいのかもしれません。


 でも、いいんです。


 結果として、兄さんは私を好いてくれていて、ちゃんと好きって口にしてくれるようになったから。


 もしかしたら、兄さんも故郷では我慢を強いられていたのかも、なんて思ったりも今はします。


 獣人セリオニアたるもの斯くの如く生きねばならない、みたいな強制が有ったのかもしれません。


「ふぅ~・・・・・・」


 ちらりと兄さんを傍目に窺えば、兄さんは[天意の施し]を眺めながらブツブツ何事か呟いていました。


 ・・・・・・天意。天帝様の意志。


 この指輪をしてから、兄さんと私は[執行者]という特別な存在になってしまいました。


 特別と言っても、良い意味なんかじゃありません。


 こんなことを思うと天罰が降るかもしれませんが、私にはどうしても、これが良いものには思えません。


 指輪を嵌めた瞬間、勝手に増えた知識。


 その時、私は天帝様に弄られて何か得体の知れないモノを植え付けられたんじゃないかと邪推してしまいました。


 そして、それは半分ぐらい正解でした。


 正確には植え付けられたんじゃなく、つくりかえられてしまっていたのです。


 私も兄さんも、もう簡単には死ねません。


 死ぬ程肉体が傷付くと魂魄まで傷付かないように勝手に引き剥がされてしまう魂魄。


 引き剥がされている内に勝手に修復される肉体。


 兄さんと私が選択できるのは“何処で復活するか”だけです。


 不死の[執行者]を用意して、天帝様はいったい何をさせたいのか。


 思うだけでも恐怖に体が震えます。


 だから、私は考えるのを止めて、兄さんに丸投げすることにしたのです。


 兄さん。心の弱い私を許して・・・・・・。


 今の私は何時兄さんが私にえっちな手技を披露してくれるのかwkwkしながら待ってるだけの頭の緩い小娘で。


 しばらくは。しばらくはそんな感じですごさせてください。


 どうか、どうか、御願い致します・・・・・・・・・・・・。

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