第1話-7

―― 07 ――


「あああぁぁぁぁぁきもちいいんじゃぁぁぁぁぁぁ」


 僕は大の字になって湯船にぷかぷか浮いていた。

 折角こんなに大きなお風呂につかっているんだから存分に寛がないと損だよネ。

 そう! だから! 断じて! 妹ちゃんの全裸が見られなくて! ふてくされているわけではない!!


「兄さん、完全に迷惑客です」


 僕の頭の横に座って半身浴を楽しんでる妹様から抗議文が届いた。知ったことじゃないやい。


 それにしても、わざわざこの位置にいる妹様あざとい。

 反則だと思う。

 タオル越しとはいえ、下から見上げる豊かなおっぱい、これはこれでよき。

 ちょっと上気して朱くなってる頬とか、濡れ髪とか、ちょーえろいね!

 こういう作り込みするんなら全裸モード実装しといてよ!


「いや、まてよ?」


 システム設定で年齢制限付いてるとかないだろうか。こんなエロい作り込みをしている開発なのだ。全裸モードぐらい実装しているのではないか。そう思い至ってウィンドウを開いた。


 思えば僕、まだこのゲームのシステムウィンドウちゃんと確認してない。

 というか、キャラクリに熱を入れすぎたせいでゲームのシステム自体あんまり把握してない。

 僕、無計画すぎでは?


「ちょっと色々確認するから、好きにしてていいよ」


「はぁい」


 かわいらしくお返事した妹様がなんか僕の髪で遊び始めたけど今はかまえないのじゃ。すまぬ。

 とにもかくにも色々と確認しなければいけない。

 とりあえずシステムウィンドウの初期画面に意識を移す。

 上方に色々切り替えタブが有るけど三段もあるので後回し。とりあえず今出てる画面の確認からだ。


 ――[キャラクターウィンドウ]――


生命力HP 1000/1000 気力ST 100/100

空腹度HUN 47/100 清潔度CLE 100/100

成長点AP 0


武防具

武器 なし

腕輪 なし 腕輪 なし 耳飾 なし 耳飾 なし 首飾 なし


戦装

頭部 なし 顔面 なし

下着 なし 肌着 なし

上衣 なし 下衣 使い古された民族衣装:獣人(ランク:白)

手套 なし 足靴 なし

浴衣 使い慣れた布(ランク:白) 坐騎 なし


[能力]アビリティ

膂力STR 1 体力VIT 1

知力INT 1 精神SPI 1

機敏DEX 5 幸運LUK 1


物理攻撃ATK 100

物理抵抗DEF 0.1%

魔法攻撃MATK 100

魔法抵抗MDEF 0.1%

爆撃率CRA 5%

爆撃倍率CMA 100%

回避率ARA 5%


[行使称号]旅人

[公會]なし

[寄魂]媽祖廟

[善縁値]0

[悪障値]0


――――――――――――――――――――――――――――――


 えっと、待って?

 HP、STはいいや。たぶん予想通りの数値だし。

 このゲーム、清潔度だけじゃなくて空腹度もあるのね。お風呂出たらなんか食べよう。

 うん、まぁ、これもVRMMOならごくまれに見るし、まだわかる。

 でもな成長点AP、お前はなんだ。

 TRPGかなんかか?

 能力値がアビリティって名称だからアビリティポイントの略か? でもどうやって取得するんだ?

 だってこのゲーム、“レベルが無いんだぞ?”

 そう、衝撃の事実。このゲーム、MMORPGのくせしてレベル制じゃない。だって、レベル表記、どこにも無い・・・・・・。


「まぢかぁ・・・・・・。レベル無いってことはスキル制? やったことないわ・・・・・」


 最古のMMOの一角と呼ばれるゲームのシステムであるスキル制。莫大な時間を使ったレベル上げなどが無い事から初心者とガチ勢の差があまり出ない、と謳われて広告されるタイプだ。

 だが、それは宣伝になる謳い文句ではない。だって、オンゲをやるやつっていうのは一定層、「俺ツエ-!」を体験して囃し立てられたい奴らだから。そう言う層を顧客にできない時点で宣伝としては落ちる。

 しかも、レベル制より遙かに簡単に数値上限に至れてしまうため、飽きて止めてしまう層も多い。

 だから、このシステムによほど思い入れがない限り、ゲーム会社は作ろうとしない。収益と開発費用が釣り合わないから。

 そんな感じなので、完全スキル制MMOは絶対数が少なくて、僕は触ったことがない。


「ま、いっか。ガチ勢志望じゃないし」


 むしろレベリングしなくて済むんだからその分、妹様といちゃいちゃしたり、温泉巡りしたりしよう。

 我ながらいい考え。

 というか、このゲームの入浴すでにお気に入りなんじゃが!

 だって、とってもきもちいい。

 タオルで入浴だけが不満点。なんか改善できるかちゃんと探そう。ちゃんと。


「ほんと、開発さんなんか用意しといておくれ(必死)」


 さって、あとは・・・・・・、このゲーム初期能力値オール1なのね。機敏だけ5なのは獣人の種族補正かな?

 というかDEXを機敏って訳してるからかAGIが無ぇ。爆撃はクリティカルのことだろうから、DEXあげるだけでクリティカル回避戦士になれるのこれ? 数値見る限りDEX参照でしょ? この二項目。

 それにしても爆撃倍率てどういうことよ。これ可変値なの? ダメージホルダー目指すなら爆撃倍率盛るのが最適解なの?


「これはバランス調整おじさん、働いてない感じなのでは?」


 まぁ、ダメインフレが起きても楽しければいいのだ。僕は開発を信じる。とりあえず1回やらかすまでは信じておく。


 装備は・・・・・・、ようわからん。初期装備は【使い古された民族衣装:獣人(ランク:白)】だけだし。

 そもそもこの装備、なんも強化値とか補正付いてないんだけど、もしや服飾関連はホントに着飾るためだけに存在してるのか?

 なんかUI的にも腕輪耳飾首飾の各種アクセサリが防具扱いっぽいし。

 想像以上に思い切ったことしてる感じのゲームだぞ、これ。

 でも、たぶんレア度を表してるランク:白は大陸半島系ゲームでよく使われるやつだよなぁ。


 蛇足だけど、よくあるランク表は、白<黄<緑<青<紫<赤とレア度が上がる。白が一般で赤が神話級なんて名称になることが多い。

 たぶんこのゲームもそんな感じのランク付けだろう。


「それにしても、この数値は嫌な予感がする・・・・・・」


 善縁値、悪障値を見て感じる。これ、どっちかの数値が偏るとやばいやつでは?

 偏ると一部入れない街があるとか、受けられなくなるクエストがあるとか、そういうギミックな気がしてならない。

 そうでないことを願おう。これ系の数値管理はクソ面倒くさいと相場が決まっているのだ。


「落ち着こう。タブも確認しないと」


 ウィンドウ上方、3段になっているタブに目をやる。


――――――――――――――――――――――――――――――

[角色]キャラクター [技能]スキル [技術]アーツ [地図]マップ [行嚢]インベントリ [倉庫]ディポ /

[収蔵]コレクション [成就]アチーブメント [称号]タイトルシップ [関係]フレンド [公會]ギルド [戦団]パーティー /

[任務]クエスト [副本]ダンジョン [郵箱]プレゼント [商城]モール [設定]システム [解説]ヘルプ /


 うん、多い。もう少しツリー状にできなかったのだろうか。それとも試行錯誤の末これが一番評判がよかったのだろうか。

 とりあえず、凄く嫌な予感がするタブがあるけれど、それは置いておいて、[設定]システムタブに年齢制限フィルタが無いか探す。


「・・・・・・あった、・・・・・・けどこれ」


 そもそもフィルタかかってない・・・・・・。

 つまり、タオルはデフォ!?

 マジでいってんのか開発ぅぅ・・・・・・。


 年齢制限フィルタは一応エログロを回避するためのフィルタっぽい。細かく設定できるみたいだけど今は全部オフになっている。

 あと、世にも珍しい生理的嫌悪フィルタなんてものがあった。生理的に見たくない生物をフィルタがけして別の生物に見せる機能だ。

 なかなか良さそうなのでいくつかチェックを入れておく。僕にだって視界に入れたくない生き物ぐらいいるんです。


「あと可能性があるのは・・・・・・課金アイテムぐらい?」


 [商城]モールタブを開いてお目当てのものがないか探る。なんかモール用通貨が三つもあるのだけど、これは・・・・・・。

 満月貨、半月貨、新月貨の3通貨?

 満月貨がリアルマネーで買える通貨で?

 半月貨が満月貨使用のキャッシュバックで付いてくる通貨?

 で、新月貨がクエスト報酬、アチーブメント報酬で手に入るゲーム内獲得通貨か・・・・・・。


 全裸で入浴できるなら課金も辞さない考えだけど、とりあえず新月貨のアイテムから見よう。お金は有限だもの。


「・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・!! これだ! これなガフ、gbbbbb」


 おぼれる! 死んじゃう! まって! たすけて!


「何してるんです兄さん」


 バランスを崩して溺死しかけた僕の頭をさっと持ち上げてくれる妹ちゃん、まじGJ。死ぬかと思った。


「ありがと。たすかった」


「どういたしまして」


 バランスを立て直してもっかい浮かび上がると、妹ちゃんはすっとタイミングよく手を放してくれた。


「さて、どうするか」


 新月貨でお目当てのものは買えるっぽいけど、そもそも新月貨がない。

 インベ、倉庫を見るも何も入っていなかった。望み薄だけど、プレボを開くと、なんかいっぱい色々届いていた。


「なにこれぇ」


 新規応援キャンペーン箱×5

 新人支援箱×1

 時間接続報酬箱×8

 一周年記念箱×1

 日本サーバー専用応援箱×1

 日本人新規ユーザー支援箱×1

 日本人新規成人ユーザーHENTAI箱×1


 明らかにネタなのが一個有るんですけどぉ?? でもこれに現物アイテム入ってる気がするゾゥ。

 とりあえず一括取得じゃ。ポチッとな。んでもってインベ開いて箱開封。一括開封は流石にないか。コードによっては意外と処理重くなってラグったりするしな。

 ぱかぱか箱を開けていく。

 インベ拡張と倉庫拡張のアイテムもあんじゃーん。

 ありがてぇありがてぇ。

 拡張しながらもっとぱかぱか箱開けて、全部開け終わるとインベの6枠あるタブの1枠が埋まった。1枠10×8の80種類か。

 けっこういろんなアイテムもらえるのなぁ。そしてお目当てのアイテムはプレイヤー用とパートナー用で2セット取得できていた。

 さすが開発、わかっているナ。


「じゃ、レッツ検証」


 さっきの反省を生かして立ち上がって自分の浴衣欄に【裸の王様浴衣(ランク:青)】をセット。

 タオルが消えて赤褌姿に変わった。


「よっし!」


 そして下着欄に【前張り(ランク:青)】をセット。

 赤褌が白いテープに変わった。


 もっこりしてるのにちゃんとテープでしっかり覆われていて、いったいどんな手品?


「よしよし!」


 欲を言えば【裸の王様下着】が実装されていればよかったのだけれど、流石になかった。残念。

 でも、前張りでも充分全裸感があるので及第点だ。存分に入浴ライフを満喫できる!


「妹様や、妹様や」


 言いながら妹ちゃんの方に視線を向けると、妹ちゃんは僕を凝視したまま固まっていた。


「おんや?」


 いや、これは僕の股間を凝視しているだけでは?


「妹ちゃんや」


 もっかい呼びかけると、ハッとして、妹様は我に返った。


「なんです兄さん。(股間ガン見継続中)」


「ペアルックしよ」


 沈黙の時間が訪れた。

 我ながらなかなかセクハラまがいなことしてるな、という自覚はあるけども、やっぱり、タオルつけて入浴するのは邪道だと思うのだ。せっかく開発スタッフが「限りなく全裸で入浴できるで」とアイテムを用意してくれているのだ。使わないのは無粋だと思う。


「・・・・・・」


「・・・・・・はぁ」


 溜息一つ吐いた後、妹様はウィンドウを操作し始めた。

 そして、タオルが消え、サラシと、褌が、消え、消えっ。


「ッ!!!」


 息が出来ない程すばらしい、とはこういうことなのだと、僕は初めて体験した。


 至高の女体美が目の前にある(個人的感想)。

 ほんのりと朱みがさした肌。

 ぴちょんと水滴したたる濡れ髪。

 全身の獣毛が濡れて体本来の曲線がわかる。

 そしてなにより綺麗な形をした大きなおっぱい。

 乳首は前張りで隠されているけど、充分に艶めかしい。

 獣人女性の基礎造形をした3Dグラフィックデザイナーに感謝のお布施がしたくなった。


「ありがとう。ありがとうっ!」


 感極まって僕は立ち膝になって、半身浴を続ける妹様をめいっぱい抱きしめた。


 そして、もはや誰に言っているのかわからなくなりながら、僕は感謝の言葉を呟き続けた。

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