第1話-8
―― 08 ――
「落ち着きましたか兄さん」
「うん」
妹様をうしろから抱きかかえるようにして半身浴を続けている僕は至福の一時を過ごしていた。
照れているのか、妹の頬がさっきよりも朱い。
・・・・・・かわいい。(悶絶)
妹ちゃんは背が小さい。こうして抱きかかえると、妹ちゃんの頭が僕の胸板にフィットするぐらい小さい。
だから妹ちゃんを視界に入れようとするとどうしても見下ろす形になる。
おむねの北半球に目がいってしまうのは不可抗力! 水滴が胸元に落ちて、おっぱいを伝うのをガン見してしまうのも致し方なし!
僕、おっぱいこんなに大好きだったんだな、ってちょっと自分でもどうかとは思うんだけど。
妹様がステキすぎるんだからしょうがないじゃん! ないじゃん ないじゃん(心のエコー)
「幸せじゃ~」
人肌のぬくもりと、やわらかさ。だっこしても受け入れてくれる妹様に僕は感動していた。
それと同時に、えろいことしたい、という思いも沸き上がってきていた。
でも、まだ初日である。ずいぶん長い時間プレイしている気がするけど、初日に変わりはない。
なんか、システムとか、現状とか考えると、本番行為に及んだとしてもBANされないのでは疑惑が僕の中で出てきているけど、確かではない。システム上できるかもわからない。・・・・・・なんかできちゃいそうな気がするけども。
そもそも、そもそもなのだが、僕はえろいことしたいと思ってると同時に本番行為に忌避感を持っている。
これはもうどうしようもない。そういうふうに育ってしまったのだ。どうにもならない。
だから僕のこの気持ちは、ただひたすらにずっと触れていたい、という欲求に近い。それで、相手が気持ちよくなってくれれば最高だと思っている。なんというか歪んでしまったなにかなのだ。だからしかたない。
「兄さん? なに凹んでるんです?」
声をかけられてハッとした。
「幸せって言った次の瞬間には凹んでるって情緒不安定すぎません?」
僕は苦笑せずにはいられなかった。全くその通りだと思った。
「凹んでるついでに、嫌な予感がしてるクエストタブ見ようか」
「ん~それも大事そうですけど、そろそろなにか食べたいです」
そういえば空腹度が減っているんだった。番台で冷えた飲み物とか買えないかな?
「よし、何か食べいこうか」
「はい」
そう言って、抱擁を解いて、湯船から上がった瞬間、どろんと煙が全身を覆って、初期装備の民族衣装に戻った。
どうやら湯船から出ると入浴状態が強制的に解除されるらしい。
逆に言えば、湯船にいる限り入浴アイコンを押さなければ入浴状態が維持できるということだ。
それと、入浴状態が解除されたからか、視界の端にいくつもログが流れていった。
― 成就を達成しました ―
― 成就を達成しました ―
― 成就を達成しました ―
― 成就を達成しました ―
― 満願成就しました ―
気にはなったけど、まずは空腹度回復しないとそろそろ危険値な気がする。
空腹度が零になるとどうなるのかわからないけど、たぶん良いことはないだろうから。
あとで、ちゃんとヘルプ読んでおかなくちゃ。
「いこっか」
妹ちゃんを連れて、浴場から出て番台婆ちゃんに近づく。
「なんか買える?」
婆ちゃんに向かって話しかけると、珍しいものでも見た、という表情をされた。あんまり話しかけられないのだろうか?
「そうさねぇ、飲み物は各種取り揃えているよ。あと温泉水を瓶に汲んで持ってくれば温泉の粉に加工してあげることができるよ。お代はいただくけどね」
「温泉の粉?」
「知らんかや? 《華の群島》には各地に温泉、人工浴場がある。で、人工浴場にはただの水を湧かしただけの手抜き浴場も多いのさ。そういう湯場に温泉の粉を入れてやれば温泉の効力が得られるって寸法さ。《華の群島》の浴場は基本的に沸かしたお湯をどばどば入れて、だばだば排水していく造りだから30分もすれば完全に新しいお湯に入れ替わっちまう。だからみんな気にせず温泉の粉を使う」
「なるほど。瓶はここで買えるの?」
「勿論じゃよ。1瓶十胴じゃ。折角だから1本くれてやるから、ここの湯を汲んでくるといい。ここの湯は生命力が徐々に回復する優れた湯じゃ。持っておいて損はないぞ?」
そう言って、瓶を渡してきたので素直に受け取るとログが追加された。
― クエストを受注しました ―
あ、うん、やっぱりそうだよね。そしてクエストウィンドウもポップアップした。
[サブクエスト]番台婆のお節介
お節介な婆様のいうことを聞いて温泉の粉を作ろう。
善縁値+10
【再生の温泉粉(ランク:黄)】×1
【新月貨獲得券(ランク:青)】×1
おぉ? 善縁値、クエストで上がるんだ? と、いうことは悪障値あがるクエストもあるな。
それに新月貨もクエスト入手なのか。もしや集めやすいアイテムの部類なのかな?
「ま、とりあえず。婆ちゃん飲み物ちょーだい」
「はいはい、好きなの選びな」
そう言って婆ちゃんは左側の壁の方を指さした。
「ん?」
指さした方を確認すると、壁際にコンビニによくあるガラス張りの冷蔵棚が置いてあり、見慣れた牛乳瓶が陳列されている。
「マジか。どう考えても蒸気機関で再現できる代物じゃないんですけどぉ?」
「あれは道士の娘っ子が作ってる
「ぱおぺい?」
「仙人目指してる道士様が作る摩訶不思議な道具のことさね。ついでにいえばそれ作ったのはこの街で二番目に偉い娘っ子さ。廟に行けば「姐さん、姐さん」っていろんな人に群がられてるだろうから一目でわかるぞぃ」
なんというか僕、いろんなクエスト見逃してるのではなかろうか?
やっぱ基本に忠実であるべきなんだろう。具体的に言うと「RPGは街のNPC全員と会話しろ」ってやつだ。
VRゲーでそれをやろうとすると凄い労力だから、それをするのは検証班ぐらいなものなのだけど、そもそもこのゲームに検証班がいるのかすらわからない。だから、地道に街の探索をするしかないのだろう。
「道士様の名前、教えてもらえます?」
「震だよ。
おっと、これはフレーバー設定? それとも実際にシステム的なギミック組まれてたりする?
ちょっと情報が少なすぎてわからないから頭の片隅に置いておこう。
「兄さん兄さん。珈琲牛乳有りますよ?」
いつの間にか、妹様は冷蔵棚の前に移動して色々品定めしていた。自由だな! おい!
楽しそうにゆれる尻尾。機嫌良く鼻歌歌う妹ちゃん。頬が緩む。僕の妹最高かよ!
「僕それにするから一本持ってきてー」
「はぁい」
自分のも決まったのかぴょこぴょここちらに戻ってくる妹ちゃんがかわいい。
妹ちゃんが選んだのは、フルーツ牛乳? うん、良いチョイスだね。
「はい、婆ちゃんお勘定」
「まいどあり」
「はい兄さん」
「ありがと」
珈琲牛乳を受け取って、ちょっと凝視する。
【珈琲牛乳】(ランク:白)
生命力1%回復。空腹度+10回復。
消費期限 6時間58分
濃いよ! おいしいよ! 早めに飲んでね!
・・・・・・フレーバーテキスト適当すぎない?
「ま、いっか。いただきます」
ごくごく一気飲み。実際おいしい。
飲み終わると、瓶が新品同様に変わっていた。なにゆえ?
【空瓶】(ランク:白)
様々な物を入れて保管できる瓶。
あ、別アイテムになるのね。
「婆ちゃん、これいくらで引き取ってくれる?」
「瓶なら五銅だぁね」
瓶の利益五銅なんだ。一般大衆は銅貨で取引が一般的なんかな? 物価にもよるだろうけど。その辺も後で調べよ。
「引き取るかえ?」
「今回は持っとく」
「あいよ」
瓶はインベにしまって。しまっ・・・・・・。このゲームどうやってアイテムしまうん?
「何固まってるんです兄さん」
妹様の方に視線を移すと、瓶をウィンドウに押し当て、とぷん、と吸い込まれていった。
「え? それ、なんの疑問にも思わんの?」
「だって“天帝様”の施しなんですよ? 何でもありです。だから[天意の施し]って名称なんですし」
「おぉ? おぉ。なんかよくわかったようなわからないような?」
あれだろうか。中華系文明に慣れ親しんでるとすんなり納得がいくのだろうか?
「ま、いっか」
僕も同じように瓶をしまって。あ、空瓶2個スタックしてることになってる。インベントリはパートナーと共有なのね。意外とアイテム管理が大変なゲームな気がしてきたぞぅ。
ま、それはそれとして婆様からもらった瓶は持ったまま浴場に戻ってお湯を汲む。
【再生の温泉水】(ランク:白)
毎秒10%HP再生を付与する温泉水。最大持続時間は20分入浴で2時間。
消費期限 59分
あ、思ったより消費期限短い。汲んで1時間以内に加工かぁ。秘湯とかにも番台婆さん常駐してたりするんだろうか。
とりあえず、婆ちゃんに渡して加工してもらった。100銅かかった。結構高いのね。
― クエストをクリアしました ―
― 報酬はインベントリに自動付与されます ―
― 成就を達成しました ―
【再生の温泉粉】(ランク:黄)
浴場で使用すると毎秒10%HP再生を付与する温泉に変化。最大持続時間は20分入浴で2時間。
お、消費期限無い。もう少し作ってごうかなぁ。いや、でも結構高かったからお金稼いでからにしよう。
「兄さん、ご飯どうします?」
完全にはらぺこちゃんになっている妹様。まぁ、僕も珈琲牛乳飲んでから凄い何か食べたい欲が出てきたし妹様もそうに違いない。
「とりあえず霊廟に戻ってまだ何か食べる物残ってたらそれいただこうか」
「わかりました。では善は急げ、です」
そうして僕と妹様は番台婆に別れを告げて、いそいそ霊廟に戻った。
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