第2話-3

 ―― 14 ――


「この店には良いものしかないよ!」


 日が空高く浮いている。お日様の場所からしてたぶんもうお昼過ぎだろう。なにか食べるのもいいかもしれない。

 買い物目当てで大通りを歩いていると商人の客引きの声があちらこちらから響いてくる。


 若干、その文言ホントに客引き? と疑問に思うものもあるけれど。


「兄さん、行商屋さんとスクロール屋さんだけで良いんですか?」


 僕の腕に絡みついて歩く妹様かわいい。

 お風呂上がりだからなのかいつもよりあったかい。


「ぬくいわぁ~。好き」


「相変わらず突然ですね。そして全く答えになってません」


 週末市が終わった初期街は最初見たときとはだいぶ違って落ち着いた雰囲気の街だった。


 手を繋いだ人間のお母さんと子供がゆっくり歩きながらお話してたり。

 亭仔脚の歩道部分に出てきて客引きしている翼人(腕と脇の間が翼みたいになってる人種)のお兄さんがいたり。

 なんか車道のど真ん中でカバディみたいな動きしてる餓鬼みたいな見た目した子鬼がいたり。

 鬱憤晴らしでもしたのか、横たえて積み上がっているチンピラの山に腰掛けて煙管一服してる竜人のお姉さんがいたり。

 子供達をぽんぽんお手玉にしてきゃいきゃい遊んであげてる無表情で手足がゴテゴテな機械なのに胴体は幼い女体でしかもマイクロビキニな機人の美少女がいたり。


 落ち着いた・・・・・・おちついた? これはカオスと形容するのではないのか?

 まぁ、わりと平和で平凡な街なのだ。

 唯一難点なのは街そのものがでかすぎることだけど。


 そんなことを思いながら屋根付き歩道を歩いていると、女の子の声がするりと耳朶を撫でた。


「魂の導きに従いなさい」


 それはとても不思議な感覚だった。


 耳で聞いた、と言うよりも心に直接語りかけられたという変な感じ。


 この感触は“2回目”だ。


 視界を声の方に向ければ、予想通りの人物が居た。


「こんにちは魂魄屋さん」


 自称8歳、身長132センチの少女が軒下の暗がりに居る。

 あんどんの様な(実際あんどんのように淡く灯っている)四角いキャリーケースに腰掛け、感情を示さない瞳がこちらを覗っている。

 カボチャパンツのような下衣に子供ブラのようなふわっとした上衣の上から大きなストールを羽織った服装は初めて見た時、それ本当に外出用? と疑問に思ったものだ。本人曰く「ないしょ」だそうだ。

 髪型がバッとまとめてグルッとくくってサッと簪で止めてるだけというのは本人談。


「こんにちは新人お風呂好きさんと妹さん」


 この落ち着いていて大人びた声音が僕の困惑を深くさせる。

 だってこの声どうしたって8歳児のそれじゃない!

 雰囲気と声音がミステリアスな大人の女性なのに容姿が完全に8歳児という、チグハグ感マックスなこのNPCを僕は大層重要な伏線を持ったキャラなのだろうと思っている。思っているのだけど。


「二度目ましてね」


 そう、このNPCと遭遇したのはたった2回。1回目はチュートリアルクエストで暴漢に絡まれているのを助けた時。

 その時に魂魄屋という商売をしていると聞いて、こんな声音で意味深なこと喋るから重要NPCだと思ったのに探しても会えない。

 ぐるっと街を探索したのだけど陰も姿もなかったのが魂魄屋さんだった。


「今日もステキです」


 妹様がハートを飛ばしながら魂魄屋さんを見ていた。

 一目見たときから大層お気に入りらしい。理由は知らん。

 けっして嫉妬しているわけではない。えぇしてませんとも!


「あら? 魂が少し穢れているわ。魄は無事、というか作り直されたみたいだけれど」


 何を言っているのかわからなすぎて首を傾げた。ちらりと横を覗えば妹様も「?」を浮かべている。


「天帝様も杜撰なことをするのね。シャの神は本当にお許しになっているのかしら?」


 おぉん? なんか重要なこと言われてる気がするんだけど!? でも何言ってるか全然理解できない!


「二人ともこれを呑みなさい」


 どこから出したのか、魂魄屋さんの掌の上には丸薬が二粒載っていた。

 とりあえず凝視してアイテム情報を見たい。


【??????(ランク:赤)】

????????????

???????????

????????????


 なにこれぇ~。

 なんもわからんとか予想外すぎる。


「さぁ、呑みなさい」


 ずずいっと差し出される丸薬。


「いただきます」


「あっ」


 妹様がなんのためらいもなく呑んでしまわれた。


「しゃあない」


 妹が呑んだのに僕が呑まないとかありえるだろうか、いやない(反語)


 ・・・・・・。

 ・・・・・・・・・・・・。

 うん、とくになんもおこらん。


「死に戻ったら、たまに呑みに来なさい」


 ん? いや貴女意図して会えないじゃん・・・・・・。


「あ、いなくなっちゃいました」


 そして何の脈絡もなく姿が消えるの止めてもらえますぅ?

 なんなのその強キャラムーブ。


「・・・・・・買い物、いこっか」


「そうですね」


 なんかドッと疲れたけど、無意味じゃなかったと信じたい。

 もうホントなんなのあのこ。


 それから行商人の爺様の所で【新人執行者の大籠手】を売り払い【新人執行者の手甲】を買い、その足でスクロール屋さんへ。

 色々買い足し、レッツラ熟練上げ!!


 ・・・・・・の前にご飯食べよ。空腹度思ったより減ってた。

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