魔弾
WAPが求めるウィッチアイドルの条件を満たしていないと聞かされた瞬間には、さすがの少女もその場にへたり込み、肩と視線を落とすと、
「あたしじゃ……ウィッチアイドルには、なれない……」
うわごとのように呟いた。
「WAPではね」
橘川蔵人はそこを強調するようにもう一度言った。
「あの、それって逆に言うと、『WAPでなければなれる』ってなりますよね?」
それまで黙っていた少年が口を挟んだ。
「そういうつもりで言ったんだけどね」
「え?」
ハッと顔を上げた少女は、すっくと立ち上がり、
「本当ですか?!」
「いいかい、今の魔力の話もそうだけど、それ以上に、これから見たり聞いたりすることは誰にも言ってはいけない。日本がひっくり返る話だからね。約束できるかい?」
橘川は目を細めると、声を低くして、そう念を押した。
少年と少女がほぼ同時にうなずく。
それを見て橘川も満足げにうなずくと、
「魔法については、どの程度知っているんだい?」
「WAPが作った歌とか踊り」
まず少女が答えた。
「Cランク以上の魔族が使う攻撃」
負けじと──かどうかはわからないが少年も答えた。
魔族が出現すると、その付近の住民には警戒警報が発令される。その際、魔族の警戒度はランクによって示される。
移動速度が遅く魔法も使わない魔族はEランク、魔法は使わないが移動速度が速い場合はD、魔弾などの単体魔法攻撃が使えるとCで、大量同時攻撃魔法がB,そして広範囲破壊魔法がAと、被害範囲や規模が大きくなるにつれランクが上がる。
また、ランクとは別に、何らかの理由で討伐ができないあるいは討伐し損ねた魔族は個体名が付けられ、その危険度に応じた順位がWAPのホームページ上で「魔族ランキング」として画像や動画付きで公開され警戒が促されている。
「他には?」
「男には使うことができない」
少年からその定説が出た途端、橘川は口元に笑みを浮かべた。
人差し指を立てテーブルに向ける橘川。
その先を視線で追う少年と少女。
そこには空になって転がる透明のペットボトルがあった。
橘川はさらに親指を立てると、
「ばん」
冗談でするように口で言ってみせる。
その瞬間──。
ぱこんっ!
軽快な音を立ててペットボトルは吹き飛び、壁やら天井やらに跳ね返ると少し離れた床に落ちた。
肩をすくませたまま言葉を失う少年少女。
そのペットボトルは、まるで道路に転がり車に押しつぶされたかのように胴体部分が大きくひしゃげ、ぱっくり口を開けていた。
「魔法ですか?!」
いち早く我に返った少女が目を輝かせて問いかける。
「そう」
橘川はうなずくと、
「イメージを明確にするために北欧の魔術を元にしているけど、性質は魔族が使う魔弾と同じだ。魔力を練っていないから弾は視認できなかっただろうけどね」
「男でも、使えるんですか?」
自信満々に出した答えを覆された少年が、少し恥ずかしそうな口調で問いかけた。
「実を言うと、今この国にある魔法は、性別に関係なく人が扱えるようなシロモノではないと俺は考えている」
それから橘川は声のトーンを落とすと、
「扱えるのは、魔族だけ──とね」
その重苦しい雰囲気に、少年と少女は息をのんだ。
「じゃ、じゃあ、今のは何かのトリックですか?」
少年の問いかけに、
「本物の魔法だよ」
キッパリそう言い切る橘川。
「なんか言ってることがメチャクチャじゃないですか? 魔法を使えるのは魔族だけとか、今のは本物の魔法だとか」
少女が顔に混乱の色を浮かべた。
そんな二人の様子を面白そうに眺めながら、橘川は左手首に巻かれた包帯をゆっくりとはずした。
もし腕時計をしていたなら、文字盤がくる位置に爪の大きさほどのサファイアのような青い半透明の石があった。
それはまるで皮膚を突き破って顔を覗かせているような痛々しさがある。
「これは『魔族石』というんだ」
橘川はその名称を口にした。
「「魔族?!」」
少年たちの驚きの声に橘川は満足すると、
「イメージしたのは俺だけど、使ったのはコイツさ」
種明かしをした。
それから、これがどういうモノなのかを話して聞かせた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます