第22話 日本の青空を仰いで笑う

「男女の間にだって、純粋な愛はありますよ。


結婚や子作りばかりを目的にしているわけじゃない」


胸を張って主張するルカの顔には笑みが浮かんでいた。


「愛し合う者が一緒にいたいっていうのは、性別関わらず


自然の感情ですよ。


例えばですね、最初はどんなきっかけで出会ったとしても、


相手が他の人を好きだったとしても、


もう自分が好きになってしまったら、もうどうでもいいわけ


ですよ」


この人、何を言っているの? 私はぽかんとしてルカの顔を見た。


「僕はマミさんを好きになってしまった。


これは男女の純粋な愛に昇華できると思いますよ。


結婚や子供っていうのはその結果、というか経過に過ぎない


んだな」


ロベルトも笑いを浮かべて、ルカと私の顔を見比べた。


「えっ、何それ!」


私は頬がさっと赤くなった。


ロベルトは私たちを見て笑い出した。


「なんだ、そういうことか。 ・・・


男女の愛は不純だ、なんて言ったつもりはなかったよ。


気を悪くさせたなら、謝る」


「いや・・・ あ、あの・・・」


言葉が出てこない私の、手を取ってルカは立ち上がった。


「それじゃ、そういうことで!」


戸惑っている私に、ルカはこれで決まりだ、と目配せした。


「おめでとう、がんばってくれ」


喫茶室の重いカーテンを開けてホールに出て行く


私たちの背中に、ロベルトの声援が聞こえた。



私には新しい発見があった。


恋愛なら、いつも自分から行動を起こしていた肉食な私。


でも、たまには男性にリードされるのも気持ちいいのね!




・・・・




「へえ、それからどうしたの」

休暇明けの日、私は文子と、職場が入っているビルの屋上でランチを食べた。


「日本の五月晴れってやっぱり気持ちいいな」


「もー、ごまかさないでよ」


 空に向けて軽く伸びをした私を、文子の好奇心に光る眼が覗き込んだ。


「だから、マー君とはそれから何の連絡もないの。空港まで送ってくれたのもルカだったし」



「そっかあ・・・ まあ彼も色々あるんだろうね。そのロベルトとかって男に遠慮しているってのもあるだろし」


「そうよね。マー君にとってはローマ生活のためにも、勉強のためにも、ロベルトと一緒にやっていくというのが、一番いい選択だと思うのよ」


「冷静だ。大人の女ね、真美って」


うん ・・・ でも本当は、私、マー君に捨てられたのよ。彼には別に好きな人ができたの。それも、すごく好きな人。こんなんじゃ私も諦めるしかないじゃない。


「で、そのルカとかいうイタリア人は? 転んでもただじゃ起きないのは、さすがね」


「・・・ うん。そうだね。 実は、彼もうすぐ日本に来るのよ」


「えー!!」


文子は派手にのけぞって見せた。


でも本当なのだ。ルカは、最後の日、夜遅くまでスペイン広場周辺の観光に付き合わせ、帰国後も、メールやメッセンジャーでずっと連絡を取り合っている。


彼はとても筆マメで、ほとんど毎日のようにメッセージをくれる。


日本に行きたいというのは、実は彼が前々から持っていた希望で、東京の大学に留学できることになりそうなのだ。


「じゃ、まずは真美に会いに来るのね」


「そういうことになるかな」


日本で会うルカ、どこか変わっているかな。


「男って環境で変わるもんだもの、私たちの関係だって、どう発展していくか、わかりはしないわ」


文子も頭上に広がる青空を仰いだ。



「いいじゃない。未来のことなんて誰にもわからない。でもこれはまるで諺ね。一男去ってまた一男」


私は微笑んだ。さあ、午後も仕事、仕事。


(終)

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ローマの部屋 ~ 溺愛草食男子はゲイでした 栗原咲蓉子 @kuriharasayoko

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