(たぶん)ひねくれ(ている可愛い彼女との)ラブストーリー

桜庭かなめ

プロローグ『初恋』

『(たぶん)ひねくれ(ている可愛い彼女との)ラブストーリー』




 ――この人のことが大好きだ。



 高校生活初日に、俺・真宮颯介まみやそうすけはそんな想いを初めて抱いた。



 初めてその人を見たのは、新入生のクラス分けの紙が張り出されていた掲示板の前だった。

 ミディアムヘアの明るい茶髪がとても美しく、友人らしき女の子に見せた笑顔にキュンと来たのだ。これを一目惚れなのだと思った。


 彼女と同じクラスになるといいな。

 そう思いながら、校舎の中を迷いつつ1年3組の教室に行くと、何とそこには茶髪の彼女がいるではありませんか。


 遠くから眺めるのもいいけれど、やっぱり近い方がいいな。

 そう思いながら、割り振られた自分の席に座ると、何と右隣には茶髪の彼女がいるではありませんか。


 これは運命であると俺は確信した。そんな運命へと導かせてくれた神様に、これまでの人生の中で一番と言っていいくらいに感謝した。


「あなた、とても楽しそうな顔をしているね。高校に入学するのがそんなに楽しみだったの?」


 何と、茶髪の彼女が俺に声をかけてきてくれたではありませんか。神様、これもあなたの仕業なのですか。どこで何をお供えすればいいのですか。

 彼女は不敵な笑みを浮かべながら俺を見ていた。さっきとはまた違った笑顔だけれど可愛いな。ドキドキしてくる。


「楽しみだったよ。俺は真崎まさき高校が第1志望だったから、こうしてちゃんと入学できて嬉しいんだ」


 それも楽しい理由の一つだけれど、一番は一目惚れしたあなたと同じクラスであり、隣の席であり、こうして声をかけてきてくれたから……とは言えなかった。


「へえ、そうなんだ。確かに第1志望だと嬉しいよね。あたしもそうだけど」

「そうだったんだね」


 それでも、彼女は落ち着いた笑みを浮かべている。大人っぽく思えるな。


「ふふっ」


 茶髪の彼女の後ろの席に座っている女子生徒が上品に笑う。ショートヘアの黒髪ということもあってか、大和撫子というイメージが湧く。そういえば、黒髪の彼女……茶髪の彼女と一緒にクラス分けの紙を見ていたっけ。


「優那ちゃんだって、彼みたいに楽しそうにしていたじゃない。今日から高校生活が始まるって。でも、私と一緒のクラスになれるかどうか不安がってもいたし」

「そ、そうだったかなぁ? ただ、中学からの親友と一緒の方が高校生活をより楽しめるじゃない」

「うんうん、そうだね。私も優那ちゃんと一緒がいいなって思っていたから、こうして同じクラスになって嬉しいよ」

「……あ、あたしも嬉し……小春と一緒のクラスで安心しただけだから!」


 茶髪の彼女は頬を赤くし、照れくさそうな様子を見せる。

 なるほど、あのときに茶髪の彼女がとても嬉しそうにしていたのは、黒髪の彼女が中学からの親友だからだったのか。そのときの笑みを見て、俺は茶髪の彼女に恋をしたのだ。恋の神様は黒髪の彼女だったりして。


「そ、そうだ! 自己紹介しなくちゃだよね。忘れていたよ。あたし、大曲優那おおまがりゆうな。初めまして」

「初めまして、岡庭小春おかにわこはるです」

「大曲さんに、岡庭さんだね。初めまして。俺は真宮颯介。これからよろしくね」

「うん、よろしく、真宮君」

「よろしくね。ちなみに、私は優那ちゃんとは同じ中学の出身で、中学に入学してからずっと同じクラスなの。だから、今年で4年目だよ」

「しかも、大曲と岡庭っていう苗字の関係もあって、出席番号が連続するのも今年で4年目。段々と腐れ縁っていう言葉が似合ってきたよね」

「ふふっ、そうだね」


 2人の苗字を考えると、同じクラスになったら、ほぼ100%で出席番号が前後するか。腐れ縁と本人達は言っているけれど、4年連続で同じクラスになるとは相当な巡り合わせだと思う。岡庭さんが羨ましい。


「ねえ、真宮君。あたし達と連絡先を交換しようよ」

「もちろんいいよ。ありがとう」

「お礼を言われるほどのことじゃない気がするけどね。真宮君ってクールそうな見た目だけれど、中身は面白そうだね」

「そ、そうかな」


 そういえば、クールだとは何度か言われたことはあるけれど、面白いって言われたのはこれが初めてかもしれないな。自分のことをクールな人間だと思ったこともなければ、面白い人間だと思ったこともない。

 その後、俺は大曲さんと岡庭さんと連絡先を交換した。初めての恋に落ちてから30分も経っていないけれど、これはかなり調子がいいんじゃないだろうか。



 4月5日、木曜日。

 今日、俺は大曲優那さんのことが好きになった。大曲さんと恋人として付き合い、一緒に素敵な高校生活を送りたい。そんな大きな目標を掲げたのであった。

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