【終 章】夢はまだ終わらない ~卓真~
終.駆け抜けた道の先に
京介くんから例の子どもの件がうまく言ったことを聞き、安堵していたときだった。
「あ、あのっ、すみません!」
突然割りこんできた高校生くらいの少女が、顔をまっ赤にして訊いてくる。
「来年も、『まさかリズム』やりますか!?」
見覚えがある子だった。
おそらく
「そ、その予定だけど……」
「どうしたの? 未沙ちゃん」
戸惑いつつも答えた俺に続いて、京介くんも声をかける。
そうか、この子が熱血指導の相手なのかもしれない。
するとその少女――未沙ちゃんは、決死の告白をするかのような形相で、叫んだ。
「来年、わたしも出たいんですっ。わたし、歌手になりたくて……今はまだできないことが多いけど、絶対克服してみせますから……!!」
その声は当然周りにも響いていて、みんなざわつく。
なにしろここは、実行委員会のテントなのだ。
いるのはほとんどが実行委員。
そんな宣言を聞いて――嬉しくないわけがない!
「いいねー、待ってるよ!」
「京介くんの弟子が? そりゃあ期待できるっ」
「わいども頑張らねぇばな」
パチパチと、拍手する人もいた。
一方で――
「卓真ぁ~……」
「おいおい、なんで泣いてるんだっ?」
「だってぇ、いい話でねぇが。わいどが頑張ったかいあったってごとだべぇ?」
「……まぁな」
昌也は今、猛烈に感動しているらしい。
もちろん俺だってそうだ。
下北で音楽フェスをやりたいと立ちあがってから、たった四か月。
いろいろな問題を乗り越えて、ようやくここまできて――今、それが終わろうとしている。
そんななかで、「来年出たい」と言ってもらえたのは、今日という日を認めてもらえたということ。
俺たちが走ってきた道は間違いじゃなかったと、お墨つきをもらったようなものだ。
「しかも、子どもがへてくれだっていうのがまだ、いいよなぁ~」
「ああ……正直な意見だろうからな」
大人のように、しがらみがあるわけじゃない。
おまけに、勇気を振りしぼっての一言に見えたから、よけい俺たちの心に響いたのだろう。
あの子のためにも、立ちどまれない。
「――そうだ、これで終わりじゃないんだよな」
俺は思いなおす。
そもそもの俺たちの
『まさかリズム』を目標やモチベーションに繋げてもらうことで、地域を活性化させる。
音楽を好きな人が「私も」と気軽に手をあげられる場所をつくる。
みんなで、繋がる――。
そのためには、やはり続けなければ意味がない。
「んだ! しかも、毎年パワーアップしていがねぇば、下北の人すぐ飽ぎるしてなっ」
昌也の言葉に、みんな笑った。
当然自覚があるからだ。
そう――俺たちの夢も、パワーアップしなければならないのかもしれない。
地域が盛りあがるだけでなく、
ただの一住民には、大それた夢だ。
それでも――
職業や年齢を超えて、その一住民たちが集まることにより、生まれた熱量。
その熱量が生んだ『まさかリズム』は、言葉どおりみんなを巻きこみ――成功した、と言っていいだろう。
そして俺たちは、力を合わせて成し遂げることの楽しさを知ってしまった。
今までだって同種の経験はそれなりにあったものの、今回のは規模が違う。
しかもそれを一からつくりあげたのだから、みんな自信もつけていた。
もちろん反省すべき点は多々あれど、来年はもっとずっといいイベントになる――いや、いいイベントにする!
そんな決意が、誰の表情からも見てとれた。
「へば、ラストスパートだじゃ! みんな、もう少し頑張ってけ~」
「おー!」
「行ぐで」
「次で最後だな?」
昌也の掛け声に、おのおの返事をして散っていく。
俺も腕時計を確認しながら、ステージのほうへと向かった。
もうすぐ初めての『まさかリズム』が終わる。
十二時を目前にしたシンデレラはこんな気持ちだったのかもしれないと、おっさんらしからぬことを考えた。
だが、俺たちには明確な『次』がある。
俺たちの――わいどの夢は、まだ始まったばかりなのだから。
(了)
まさか×リズム!! 氷円 紫 @himaru
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