概要
その時期には、決まって、獣が現れる。
雷のように降り立ったその獣は、天の智を喰らい、地の武を破る。
乙巳の変、大化改新、現代においても誰もが知るところであるそれらの事変のまさに当事者である男の生涯を、史実と創作を交えて描く歴史ファンタジー。
おすすめレビュー
新着おすすめレビュー
- ★★★ Excellent!!!獣が王になるとは
獣が最初の真の日本の天皇となる歴史小説です。
獣が成した新たな国創りが内面から描かれています。
飛鳥時代7世紀、日本の大きな変換点である乙巳の変、大化の改新、壬申の乱を経て、ようやく世の中は安定する直前までを描いた歴史小説である。この時期は日本が国としての基礎が形成され、天皇という最高権威が生まれたことにより、その後の日本が成長していくことになる。
「第一部 天の智」は後の天智天皇の話である。天智天皇は百人一首で「秋の田の かりほの庵の苫をあらみ わが衣手は露にぬれつつ」が選ばれており、民衆の生活や気持ちをある程度理解していると思っていたので、獣は葛城なのか疑問を抱…続きを読む - ★★★ Excellent!!!私の中を、雷が走った。
葛城と鎌――中大兄皇子と中臣鎌足の名で誰もが学び知る二人の出会いを、これほど鮮やかに描き出した作品が過去にあっただろうか。
――見下ろすな、俺を。
葛城を、蘇我入鹿の誅殺へと駆り立てた強き思い。
大化の改新を為し、新たな時代を築き上げた彼の聡明さと、激しさ。
それを作者は、獣と称した――雷電を纏った獣であると。
獣に王の器を見出した鎌は、その牙を恐れつつも御し、時に手に余らせながら、忠臣であり続けた。
鎌もまた、烈々たる獣だった。
そして、葛城に従うもう一匹の獣――猫。
本作は史実だけでなく、作者による個人的考察と創作を大いに含んでいる。
しかし、まさしくこのような事があったの…続きを読む - ★★★ Excellent!!!文字から身の内に食い入り、心破り掴む、獣達の牙
物語の舞台は、歴史に疎い私でも知っている大化の改新。
教科書にはほんの僅かな情報が記載されたのみでしたが、それでも皇子が時の権力者を打ち倒すという革命に心が躍ったのを今も鮮明に覚えています。
見下すな、と見上げるばかりだった青年、葛城。
彼はその時、沓を履かせてくれた鎌なる人物によってその夢を叶える一歩を踏み出します。
けれどもこれは、魔法使いにガラスの靴を与えられ、不遇から抜け出し幸せを掴むシンデレラストーリーではありません。
御伽話のような優しさも都合の良さもない、人が獣となり世を喰らい破り、我々が生きる『今』に繋がる生々しい創世の物語なのです。
敢えて淡々とした文章で綴られており…続きを読む - ★★★ Excellent!!!激情の獣。その妙なる謀略劇。
かの政権交代劇、ことその後に続く改革は、教科書でも取り上げられるほどに著名だが、反面それを取り上げた作品はあまりに少ない。
本作はその一連の事件、すなわち乙巳の変と大化の改新の詳細と前後の事情を描いた意欲作ですが、何より象徴的なのはその登場人物のキャラクターでしょう。
その歪みと激しさにより雷獣になぞらえられる天才、葛城。彼の気性を恐れつつも、彼を天皇にせんと智略をふるう鎌。
現代においてはより有名な名で知られている彼らの、教科書の字面で追っていては決して知れない貌。
それは妖しくもどこか危うげで、ゆえにこそ強烈な魅力を持ち、馴染みの薄い世界に没入させてくれます。
時々差し挟まれる作者…続きを読む