激情の獣。その妙なる謀略劇。

かの政権交代劇、ことその後に続く改革は、教科書でも取り上げられるほどに著名だが、反面それを取り上げた作品はあまりに少ない。

本作はその一連の事件、すなわち乙巳の変と大化の改新の詳細と前後の事情を描いた意欲作ですが、何より象徴的なのはその登場人物のキャラクターでしょう。

その歪みと激しさにより雷獣になぞらえられる天才、葛城。彼の気性を恐れつつも、彼を天皇にせんと智略をふるう鎌。
現代においてはより有名な名で知られている彼らの、教科書の字面で追っていては決して知れない貌。
それは妖しくもどこか危うげで、ゆえにこそ強烈な魅力を持ち、馴染みの薄い世界に没入させてくれます。

時々差し挟まれる作者様によるこの時代に対する考察も、非常にわかりやすく、物語に深みを与えてくれます。

この時代のことを知らない人にも優しい、歴史物としても純粋に小説としても、引き込まれるほどの面白さがある、異色の傑作。

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雷獣の牙

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