文字から身の内に食い入り、心破り掴む、獣達の牙

物語の舞台は、歴史に疎い私でも知っている大化の改新。
教科書にはほんの僅かな情報が記載されたのみでしたが、それでも皇子が時の権力者を打ち倒すという革命に心が躍ったのを今も鮮明に覚えています。

見下すな、と見上げるばかりだった青年、葛城。
彼はその時、沓を履かせてくれた鎌なる人物によってその夢を叶える一歩を踏み出します。

けれどもこれは、魔法使いにガラスの靴を与えられ、不遇から抜け出し幸せを掴むシンデレラストーリーではありません。
御伽話のような優しさも都合の良さもない、人が獣となり世を喰らい破り、我々が生きる『今』に繋がる生々しい創世の物語なのです。

敢えて淡々とした文章で綴られておりますが、王となる器をただいたずらに持て余していた葛城が、雷獣の本性を剥き出して咆哮する様は圧巻!

また彼の素質を見抜き、己が履かせた靴で王の道を歩ませんと策を巡らせる鎌もまた獣。

他にも葛城を取り巻く者達が、呼応するように獣に目覚めていく姿には鳥肌立つほどの狂気と狂喜に震えました。

一人の人間が、どのように王と成るのか。
一人の人間を、どのように王と成すのか。

王とは?
国とは?
民とは?
普段我々が気にも留めずに通り過ぎている『国家』というもののの存在をしかと突き付けられ、雷に打たれ獣に牙突き立てられるような心地を覚える、珠玉の歴史小説です。

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