私の中を、雷が走った。

葛城と鎌――中大兄皇子と中臣鎌足の名で誰もが学び知る二人の出会いを、これほど鮮やかに描き出した作品が過去にあっただろうか。

――見下ろすな、俺を。

葛城を、蘇我入鹿の誅殺へと駆り立てた強き思い。
大化の改新を為し、新たな時代を築き上げた彼の聡明さと、激しさ。

それを作者は、獣と称した――雷電を纏った獣であると。

獣に王の器を見出した鎌は、その牙を恐れつつも御し、時に手に余らせながら、忠臣であり続けた。

鎌もまた、烈々たる獣だった。

そして、葛城に従うもう一匹の獣――猫。

本作は史実だけでなく、作者による個人的考察と創作を大いに含んでいる。
しかし、まさしくこのような事があったのではないか、と錯覚するほどに登場人物たちは生き生きと物語を紡いでいく。

遠く知らぬ時代と嫌厭されることなかれ。
教科書をさらっただけでは決して伺い知る事のできない、思惑と激情の交錯がそこにはある。

獣らが目指した、新たなる国の形。
その目でしかと見られたし。

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