たった今、読み終えたところなのですが、この思いをどう伝えたらいいものか……!
ジャンルはホラー。
間違いなく面白く、間違いなく恐ろしく、間違いなく心に刻まれ――むしろ、切り刻まれ喰まれるような心地すらします。
謎の殺人事件及び怪死事件に共通する、とある臓器提供者。
その臓器提供者を調べる内に明らかとなる、とある島の存在。
今はなき島に脈々と受け継がれていた、とある神にまつわる悍ましき因習。
真実が徐々に明らかになるにつれ、自分の内部まで侵食されていくような感覚に見舞われました。
個人的な意見ではありますが、最も恐ろしいのは『自分を失うこと』ではないかと私は思います。
愛する者を失うのは、とても怖い。しかしその人を愛する想いと怖いと感じる気持ちは、自分あってこそ。
記憶であれ、肉体であれ、命であれ、『今ある自分が失せ消える』というのはこの上ない恐怖です。
けれど、それら全てが奪われていく。無意味だと嘲笑わんばかりに取り込まれ、失われていく。
そういった無慈悲なモノを作り上げた存在は、我々と同じ『自分』を持つ人間達であり、『自分達』が守りたいもののために誰かの『自分』を奪うしかなかったのだと思うと、迫りくる恐ろしさと悍ましさにも、やりきれなさとやるせなさを感じずにはいられませんでした。
恐怖と絶望、陰惨と無情に満ちた中、それでも『自分』が『自分』であると確認でき、自分を自分たらしめるものは、ほかでもない、自分がよく知る誰かへの想い。凄絶な状況にあるからこそ、その想いがより際立って胸に迫ります。
取り留めのないレビューとなりましたが、ホラー好きの皆様、是非是非読んでください!
自分が本当に自分なのか、誰かが混じっていないか……この何とも不気味な感覚を共に味わい、一緒に『一つ』となってほしいです。
物を買うにはお金が必要なように。
人を育てるには時間が必要なように。
願いや奇跡を求めるならば必ずや代償が付きまとう。
楽して助かる命はないように、タダで叶えられる願いなどない。
贄というのはもっとも効率的で最適な支払いという代償である。
後払いか、先払いか、望んでなかったかは別として……
この作品の恐ろしいところは、読み進めていくうちにジワジワと、そう例えるなら逃げ場のない密室に足元から水が溜まっていくような恐怖が文体から醸し出されている点である。
何気ない発言、自然な行動が、狂気と恐怖にリンクしているのだから恐ろしい。
かといって謎の解が各話ごとに積み上げられていく形で引き込んでくるから、恐怖があろうと読み進めてしまうまでの引力がある。
そして何よりも最後が恐ろしい。
そうだ、臓器とて器、流れるものこそ力。
器はただ流れるものの力を受けて動いているだけに過ぎない。
誰が言ったか、いのち、ちから、は血の<ち>が含まれていると。
血こそ根源であると。
ある探偵事務所に、一人の探偵がいた。そこに、殺人者と視界を共有することが出来る少年が転がり込んできた。その少年は、移植手術を受けた角膜のドナーだった。そして少年は、いつか自分も殺人者になることに怯えていた。実際、角膜移植を受けてから、殺人衝動があったらしい。探偵と少年は、レシピエントからドナーにその性格や性質、衝動などが移転する症例から、他のドナーにもあたりをつけてみる。ところがその同じレシピエントから移植を受けたドナーたちは皆……。
そして四年半が過ぎ、探偵の娘が少年を訪ねてくる。死んだ父の遺品を取り戻し、父の悲惨な死の謎を解くためだ。少年もこれに協力し、レシピエントの出生や少年の親族を調べ始める。やがて、始まりは小さな島の島民が行っていた悍ましい慣習だと判明し、その島に乗り込む。そこに祀られたいたものは、姑獲鳥から派生したと思われるトリにまつわる異形だった。その異形を祀ることで、島民たちは厄災を逃れ、力を手にしていた。しかし、それには対価が必要だった。
少年の親族に隠された秘密。
そしてかつて島を脱出し、島を焼いて神を殺そうとした少女。
全てが明らかになった時、信仰の皮を被った呪いが見えてくる。
今、貴方は、生肉を食べたいと思いすか?
思った時には、もう、遅いかもしれません。
是非、御一読下さい。
最初から最後まで夢中で読み耽りました。
移植手術を受けた人間が、知らない記憶によって殺人衝動に目覚め、人智を越えた力で凄絶な死を遂げる。
何が起きているのか、何に襲われているのか、息をもつかせぬ展開に、読む手が止まりませんでした。
メインの二人、椎羅と絵莉が非常に魅力的です。
事件に巻き込まれて死んだ父親の追っていた謎を引き継いだ絵莉と。
彼の死に際の言葉に従い、絵莉を危険から遠ざけようとする椎羅。
行動派で世間ずれした感じの絵莉も、ドライでコミュニケーションが下手な椎羅も、抱える闇の深いこと。
一人の男の遺志によって繋がった二人の距離感が、ものすごく好みでした。
移植者たちの視界を共有できる椎羅の目を使って異常現象を追ううち、ある島で崇められていたモノの存在が見えてきます。
人の尊厳を踏み躙るような悍ましい因習。かつてそこで何が行われていたのか、明かされる衝撃の真実。
読了後も、胸の中に恐ろしいものが巣喰っているような感覚が抜けません。私も何か移植された気分です……
非常に面白かったです。
リーダビリティの高い文章もさすが。文字を追っているだけで楽しかったです。
とても充実した読書時間でした!