くすぶりくゆらし燃えたあと

 複雑な因果が絡み合う秀逸な恐怖推理小説。真理を追求するつもりが、真理の原因そのものにいつの間にか取り込まれていく様子が巧みな筆致で描き抜かれている。

 臓器移植は生命倫理の観点から常に論争の種になる。ものの本によれば、レシピエント(受け取った側)は自分では処理できない感謝の念を持て余し、ついには罪悪感すら抱く場合がごくまれにあるという。むろん、それは単純な善悪の話ではない。他人が賢しげに介入していい話でもない。ただ、実態が明快なようでいて常にぼやけてしまう割り切られなさはそれ自体がある種の怪物だ。

 絵莉は途中から主人公を引き継いだ形になるが、本作はある意味で彼女の半生を描いた記録にもなるだろう。彼女もまた、自分の父から精神的な意味で人生を『移植(!)』されたのかもしれない。

 必読本作。

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