ストーカー女のストーカー(16)◯インタビューもどき◯
◯インタビューもどき◯ Side:八切キリヤ
パシャ、パシャ、パシャ、パシャ――。
カメラのシャッター音とフラッシュが焚かれ、インタビュー場面のような形で一雄の変顔を遠慮なくカメラに収める俺と麟太郎。
俺は黙ってスマホのカメラで撮影しているだけだが、麟太郎は撮りながらインタビュアーのように質問を投げかけている。
「今どんな気持ちですか、一雄さん」
「……」
「自ら提案した罰ゲームを自分で行うとはどういう心境なのでしょうか?」
「……」
「しかも、今回のゲームで格ゲーを提案したのも一雄さんだとか」
「……」
「自分が提案したゲームで負けて、自分が提案した罰ゲームをする羽目になって、さぞかし悔しいお気持ちだとお察しは致しますが……」
「……」
「何か一言コメントを頂いてもよろしいでしょうか?」
「……」
「……」
「…………ぅ」
「はい?」
「ぐやじぃでずっ!!」
パシャシャシャシャシャシャシャ――。
変顔のままコメントを返す一雄に、スマホの連写機能で激写する。
麟太郎の言葉を繰り返してしまうが、自分の提案したゲームで、自分の提案した罰ゲームをする羽目になるとは。
しかも、あれだけ俺達を負かす気満々だったというのに、なんとも惨めな男である。
まあ、同情なんて微塵も感じないが。
ちなみに、格ゲーの勝敗は俺が二勝〇敗、麟太郎が一勝一敗、一雄が〇勝二敗であった。
「はい、もういいよ。罰ゲーム終了でーす。お疲れ様でした」
「ぶっはぁぁっぁぁっぁぁぁぁぁっぁ」
麟太郎の罰ゲーム終了宣言で、一雄が勢いよく息を吐いて変顔を解く。
はぁはぁと息遣い荒く膝に手を付いているが、変顔中に息でも止めていたのだろうか。
「キィちゃん、撮った写真見せて」
「ん」
麟太郎にスマホの画面を向けて、撮影した一雄の変顔を見せていく。
「ぷはっ、この写真いいね。フラッシュの当たり方が最高なんだけど」
「ああ、多分ベストショットだな。あとでグループトークに載せとくわ」
「いいね、お願い」
「麟太郎の方は?」
「俺は動画で撮ってたからね。インタビュー含めて余さずばっちりよ」
「さすが」
麟太郎のサムズアップに、俺も同じようにサムズアップで返す。
「ちきしょう、次やる時はボコボコにしてやるからな……。覚えてろよ……」
「「楽しみにしとく(してるねぇ)」」
一雄が吐き捨てた言葉に、俺と麟太郎は適当に答えを返しておく。
俺達が覚えていたとしても、言ってる本人が覚えてなければ世話がない。
似たようなこと言葉を今まで何度も耳にしてきたので、もう聞き飽きてしまった俺と麟太郎である。
「それじゃあ勝負は終わりってことで、次はどうする?」
「はい! さっきお気に入りキャラのフィギュアあったから、それ取りたい!!」
さっきまであれだけ悔しがっていた人物とは思えないほど、元気な声でやりたい事を口にする一雄。
負けた後にうじうじ引きずらず、切り替えが早いところは一雄の数少ない長所である。
その反面、切り替えた後に大事なことを忘れてしまうという短所もあったりするが。
そんな一雄の希望通りに、お気に入りキャラのフィギュアとやらが景品になっているクレーンゲーム機で遊ぶことになった。
クレーンゲームにもいろんな種類のものがあるが、一雄がやろうとしているのは、並行に設置された二本のバーの上に置かれた箱物景品をクレーンで上手く動かし、二本のバーの間に落として手に入れるというものみたいだ。
確率で運良く一発ゲットできるものではない。
しかも、技術のいる上級者向けのクレーンゲームである。
「できるのか?」
「……できるかできないかじゃない、やるんだ」
「おっ、格好良いセリフ」
「まるで物語の主人公だな」
俺が口にしたワードに反応して、「主人公……」と小さく呟く一雄。
何やら口元をニマニマしている。
「取れるか取れないかじゃない、取るんだ」
「…………」
「…………」
「やれるかやれないかじゃない、やるんだ」
「うわぁ、味しめちゃったよ」
「主人公から
「俺が主人公。俺が勇者。囚われの姫を見事に救出してみせる。待ってろ、ミミにゃん!」
完全に主人公気分に酔ってる一雄がお金を入れて、クレーンゲームを始める。
景品は前に一雄が好きだと言っていたアニメのヒロインが、メイド服を着ているフィギュアのようだ。
一雄の部屋にも他に同じようなフィギュアが何個も置かれていたのだが、まだ足りないのだろうか。
正直、あれだけ集めてどうするのかという気はするが、それは一雄の勝手か。
調子に乗って、散財する羽目にならなければいいけど。
「よしよしよし……」
景品の状態を見ながら、一雄が呟く。
クレーンで少しずつ動かしてきた景品は、二本のバーに横向きで置かれていた状態から、二本のバーの間に引っ掛かりながら縦向きになっている状態であり、なかなか良い形まで持ってこれていた。
あとはもう少し景品を動かして、バーの間から落ちてくれれば景品ゲットだ。
「あとちょっとだね」
「そうだな」
「狙うとしたら奥の方だと思うけど、そのまま持ち上げていくかな?」
「いや、ただ持ち上げるだけじゃダメじゃないか」
「じゃあ、キィちゃんならどうする?」
「俺なら一回左右のどっちかに傾けるかな」
「……」
俺と麟太郎の言葉に反応することなく、景品を落とすことに集中している一雄。
お金を投入してクレーンを動かしていき、狙い通りに行くように左右と奥行きの位置調整を行っていく。
そして、降下したクレーンの左アームが景品を引っ掛けて上昇し、景品が右に傾いた。
俺がイメージしていた通りの形。
一雄も同じイメージをできていたようだ。
もう落ちる一歩手前。
よっぽど下手なミスをしなければ、取れたも同然だろう。
さらにお金を投入した一雄がクレーンを動かしていく。
あと一歩で取れると言った状況でも、一雄に油断しているところは見られない。
位置調整をミスらないように、真剣な表情でクレーンを凝視している。
「よしっ」
狙い通りの位置にクレーンを動かせたのか、一雄が声を上げた。
クレーンの右アームが景品の奥の面をなぞるように持ち上げていく。
そして、見事に景品はバーの間を落ちていった。
「うっしゃぁ!」
「おー」
「おめでとうー!」
パチパチパチパチパチパチ。
見事に景品を手に入れた一雄に、拍手を送る俺と麟太郎。
景品を手に取った一雄は、こちらに見せつけるように高々に掲げて嬉しそうに声を上げる。
「見たか、野郎ども! これが俺の実力だ!!」
「さっすが、ワンダフォー!」
「お見事」
「はっはっはー」
賞賛の言葉に、天狗のように鼻を伸ばして舞い上がる一雄。
その様子を麟太郎がスマホを取り出して、動画を撮り出す。
それを見て俺は麟太郎の目的を察し、同じようにスマホを取り出して、フラッシュ付きで写真を撮り始める。
「見事に姫を救い出し、今どんなお気持ちかコメントを頂いても宜しいでしょうか? 勇者一雄さん」
「うむ。姫を救うことができて、私はとても気分が良い。気分上々だ。今ならどんな質問も答えてやるぞ。はっはっはっ」
「……」
なんか偉そうな勇者だな……。
インタビューもどきを邪魔しないように、一雄の態度を見て思ったことは口には出さないまま、パシャ、パシャ、パシャと俺は撮影を続ける。
「勇者一雄さんはこれまで数々の姫を救い出して来たとお聞きしているのですが、今回で何人目の救出になるのでしょう?」
「うむ、二四人目と言ったところか」
「おぉ、そんなにも囚われの姫を救い出していたとは、さすが勇者様。さすゆうです、さすゆう」
「そうだろう、そうだろう。はっはっはっ」
麟太郎の言葉に分かりやすく煽てられて、嬉しそうに笑う一雄。
というか、少し前は一五〜六体ぐらいだったのに、もうそんなに増やしたのかよ。
前に一雄の家に行った時のことを思い出しながら、呆れてしまう。
「ちなみに、救った姫達は今どうしているんですか?」
「私の城で皆幸せに暮らしている」
「それはそれは、勇者様のお城に住まうことができるなんて、姫達もさぞ幸せなことでしょう。勇者様はどうですか? 姫達との暮らしは幸せですか?」
「勿論だとも。姫達のお陰で毎日が幸せで幸せで堪らん。この幸せをもっと膨らませるために、私は今後もどんどん囚われの姫を救っていこうと思う」
「おぉ、立派な心掛けです!」
「そうだろう、そうだろう。はっはっはっ」
「これは今後の勇者様のご活躍にも期待大ですねぇ」
「はっはっはっ」
「まさに貴方こそ勇者の中の勇者と言えるでしょうねぇ」
「はーはっはっ……ゲッホ、ゲホ、……ゲホゲホッ……」
「「……」」
高笑いのしすぎで、一雄が勢いよく咳き込む。
それを見て、何やってんだこいつはと呆れた目を向ける俺。
麟太郎は呆れながらも、「大丈夫ですか、勇者様」と言って背中をさすってあげる。
少しして一雄の咳が落ち着いてきたので、麟太郎は一旦咳払いを入れて口を開いた。
「そういえば、勇者様の件で最近小耳に挟んだことがあるのですが、お聞きしてもよろしいでしょうか?」
「……ん、何かな?」
「最近姫を増やしすぎて親から忠告が来たとの話を小耳に挟んだのですが、本当なのでしょうか?」
「……」
麟太郎の言葉に先程までにこやかだった一雄の顔がピシッと固まる。
「このままでは姫達が危ない、と勇者様が呟いていたようですが、その辺お聞かせ頂いても大丈夫でしょうか?」
「……」
顔は固まったまま、麟太郎の問いに返答できずにいる一雄。
にこやかに固まっていた顔は、少しずつ苦虫を噛み潰したような顔に変わっていく。
「もしもその話が本当なら、そろそろ姫の救出は止めておいた方がよろしいのではないでしょうか。お城にいる姫達のためにも」
「……」
「どうなのでしょうか、勇者様?」
「……」
苦渋の選択を迫られているかのように顔にしわを寄せ、「ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙ん゙……」と唸る一雄。
どんだけ悩むんだよと思っていると、突然カッと目を開いて口を開いた。
「むむっ、あっちから私の助けを求める姫の声が! 今いくぞ、姫よ!!」
「あっ、逃げた」
「……とんずらこく勇者とか、もう
「あはは、確かに」
笑いながら撮影をやめて、一雄を追いかけ始める麟太郎。
俺もスマホを仕舞って、跡を追っていく。
すると、見知った顔を見かけた俺は途中で足を止めた。
「……」
何故ここにいるのかと疑問に思いながら、どうするか少し考える。
そして、麟太郎に一言伝えた俺は足を進め、その顔に会いに行くことにした。
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