××男の一日(2)
習慣付いた流れで俺は201号室の部屋を出ると、ドアの鍵を閉める。
部屋を出る際に中から「いってらしゃーい」という声が聞こえたが、いつも通り無視だ。
「……おはよう」
挨拶を掛けられた方を振り向くと、そこにはミディアムヘアにうさ耳リボンが特徴的な女の子が立っていた。
彼女は俺が住むアパートの202号室の住人。
つまり、俺の部屋の隣に住む隣人。
そして、俺と同じ高校に通う女子高生。
俺は「おはよう」と挨拶を返すと、それ以上は言葉を交わすことなく歩き出す。
カツン、カツンと音を出すアパートの鉄骨階段を降り、道路に出て学校に向かう。
その間の会話は一切ないが、お互い気不味いなどとも感じない。
これがいつも通りだからだ。
俺とチリノはほとんど毎日、学校に行く際は一緒に登校している。
何故一緒に登校しているのかというと、その理由は隣人だから、同じ通学路だからと簡単に並べ立てることができるが、それだけではない。
ちなみに、間違っても俺とチリノが彼氏彼女の関係だからと言う理由ではないことを初めに伝えておく。
また、一緒に登校することになった理由には、互いに互いの希望があった訳でもないということも。
きっかけは昨年、俺とチリノが高校一年生の時。
彼女の遅刻・無断欠席が続き、出席日数がギリギリに陥ったからだ。
別にチリノは不良でも不真面目な人間でもない。
どちらかと言えば真面目な人間だ。
そんな彼女が出席日数がギリギリに陥るまで、遅刻・無断欠席を続けてしまった理由というと……
「……あ」
チリノが何かを見つけたような声を漏らし、足を止めた。
その目が見る先には、一つの
別に思わず声を漏らしてしまうような光景でもなければ、足を止めてしまうような光景でもない。
だが、彼女にとってはそれほどの光景だったらしい。
チリノはそのゴミの方へ駆け足で向かうと、それを拾い上げて近くにある自販機の横にあったゴミ箱に入れた。
『ゴミをゴミ箱に』
これをモットーとするチリノは、たとえ自分が出したゴミでなくとも、
だからなのか、チリノはいつでもどこでもゴミを拾い集めることができるように軍手・黒いゴミ袋・トングを常に持ち歩いている。
いつの間にかそれらの装備を万端にしたチリノが、また落ちているゴミを見つけてそれを拾いに行く。
いつものことなので特別気にかけることではないのだが、唯一気にかけなければいけないことが今はある。
「さっさと済ませろよ。
「……うん」
そう、こいつはいつもゴミ拾いに夢中になってしまい、自分が登校中だということを忘れてしまう。
これが、昨年チリノが遅刻・無断欠席を続けてしまった理由だ。
そして、俺がチリノと一緒に登校している理由は、彼女のクラス担任にこれ以上遅刻・無断欠席をチリノがしないよう、一緒に登校して欲しいと懇願されたからである。
何故俺なのかとチリノのクラス担任に聞けば、俺とチリノに面識があり、住むところが同じアパートであるからだという至極真っ当な理由であった。
むしろ俺に白羽の矢が立つのは、当然というものだ。
初めは面倒だから嫌だと断ったが、このまま遅刻・無断欠席をチリノが繰り返してしまうと進級できなくなってしまうという話を聞き、仕方なく了承した。
もちろん無償奉仕などということはなく、きちんと対価は貰ってだ。
これが俺がチリノと一緒に学校へ登校することになった
またゴミが落ちているのを見つけたのか、駆け足でそれを拾いに行くチリノを見て俺は考える。
いっそゴミが目に入らぬよう、目隠しでもさせて連れて行くべきか、と。
当然、そんなことをすれば周りから奇異の目にさらされ、目隠ししたチリノを連れ歩く俺は変人扱いされるだろう。
最悪、警察を呼ばれて補導される可能性もあり得る。
他にチリノのゴミ拾いを防ぐ案はないかと少し考えてみるが、結局妙案などを思い浮かぶことはなく、俺はこの後の通学路にゴミが落ちていないことを願うしかなかった。
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