ストーカー女のストーカー(15)◯放課後ゲーム◯

◯放課後ゲーム◯ Side:八切キリヤ



 一日の授業が終わった放課後。

 家に帰る生徒や部活に向かう生徒が教室から出て行く中で、俺はクラスメイトの麟太郎と一雄の三人で教室に残っていた。


「さてと、それじゃあ今回のゲームはなんじゃろなん!」


「なん!」


「……」


 変な掛け声とともに麟太郎がスマホをタップし、画面上に映ったルーレットが回り出す。

 麟太郎と一雄が顔を近づけてその結果を待つ中、俺は椅子の背もたれに身を預けながら遠目で眺めていた。

 俺達が何をしているかと言えば、放課後に遊ぶためのゲーム決めだ。

 帰宅部三人の俺達は、放課後の自由な時間をよく色んなゲームで遊んでいる。

 ゲームの内容は、カードやボードなどのテーブルゲームに、アーケードやスマホなどの電子ゲーム、制限しりとりや古今東西などの言葉遊び、バスケやサッカーなどのスポーツと種類は様々。

 三人それぞれでやりたいゲームを一つ提案し、どれを遊ぶかはルーレットで決めて行うことになっている。

 一雄は電子ゲーム、麟太郎はスポーツを提案することが多く。

 その傾向はそのまま、それぞれの好きなゲームの表れだ。

 ちなみに俺は一雄と同じで、電子ゲームが好きだ。

 だが、一雄から提案することが多いため、俺からはほとんど提案しないようにしている。

 俺まで電子ゲームを提案してしまうと、放課後に遊ぶゲームが電子ゲームばかりになりかねない。

 それでも楽しいかもしれないが、できるならいろんなゲームを遊んでみたい。

 だから、俺が提案するのはテーブルゲームが多くなっている。

 スマホの画面上で回っていたルーレットの速度が落ちていき、……止まった。

 ルーレットの選択肢にある『バスケ』『ポーカー』『格ゲー(対戦格闘ゲーム)』の三つから選ばれたのは、『格ゲー』であった。


「今回のゲームは、『格ゲー』に決まり〜」


「ヤッター、イェーイ!」


「……」


 麟太郎がルーレットで決まったゲーム内容を口にし、一雄が喜びの声を上げる。

 自分の提案したゲームが選ばれて、嬉しいのだろう。


「それでやるのはPGと箱、どっちでやる? PGなら一雄の家になっちゃうけど」


「どっちでもいいよ。キリヤはどっちがいい?」


「俺は箱の方がいいな」


 一雄の問いに、俺は悩まずそう答える。

 『PG』と『箱』というのは、俺たちが呼んでいるゲームの略称だ。

 『PG』というのはPlay Groundプレイグラウンドを略した家庭用ゲーム機のことで、『箱』というのはゲームセンターなどに置かれているアーケードゲーム機のことである。

 三人の中でPGを持っているのは一雄だけなので、PGで遊ぶ場合は一雄の家でやることになり、箱で遊ぶ場合は当然ゲームセンターだ。


「それじゃあ早速、ゲームセンターにレッツゴー!」


「ゴー!」


「…………」


 鞄を持って勢いよく椅子から立ち上がった二人の後に続いて、俺も鞄を持って立ち上がる。

 俺達はゲームセンターに向かうために、教室を後にした。

 

×××


 俺達がよく利用しているゲームセンターに足を踏み入れると、まず目に入るのが景品を掴んで取るクレーンゲームや綺麗に積み重なった景品を崩して落とすタワークラッシュなどのプライズゲーム機だ。

 一雄がお気に入りのぬいぐるみに目を奪われ、目的を忘れてそちらに行こうとするのを止めながら、ゲームセンターの奥の方に進んでいく。

 そして、プライズゲームの区画エリアを通り抜ければ、目的のものがあるアーケードゲームの区画。

 箱がずらりと並んで置かれ、シューティングゲーム、ミュージックゲーム、横スクロールアクションゲームなど、様々な種類のゲームがある。

 そんな中で、俺たちは背中合わせで置かれた箱の前に立ち止まる。

 シンプルな白の外装、大きな四角い画面、レバーが一つとボタンが六つのコントロールパネル。

 画面にはゲームのプレイムービーが流れており、学ランの男キャラとセーラ服の女キャラが殴り蹴り合い闘っている。

 ゲームの設定ストーリーとしては、それぞれの学校で喧嘩最強と噂されるキャラクター達が真の喧嘩最強は誰かを決める闘いが幕を開けたという、まあよくあるものである。

 ゲームのタイトルは、『School Fightスクールファイト』。

 それが今回、俺達が遊ぶ格ゲーだ。

 

「よかった、誰も使ってなくて。それじゃあまずはそれぞれ馴らしてから、対戦開始ってことでOK?」


「「OK」」


 それぞれ『School Fightスクファイ』の箱の前に座り、対戦前の馴らしを始める。

 CPUを相手にお気に入りのキャラを操作して、パンチやキックの通常技、ガード、投げ、コマンド入力による必殺技など、レバーとボタンを使って繰り出していく。

 そうやって、操作感を思い出していると、麟太郎が話しかけてきた。


「そういえばさぁ、キィちゃん」


「ん?」


「今日は珍しく机で昼寝してることが多かったけど、そんな眠かったの?」


「昼休みもずっと寝てたもんね。俺達が声かけても起きなかったし。ぶっちゃけ、気付いてた?」


「気付いてたけど、眠いから無理シカトした」


「あ、やっぱり気付いてたんだ」


「何、夜ふかしでもしたの?」


「……」


 朝も同じことを聞かれたな。

 一雄の問いに、朝のチリノとの会話を思い出す。


「まあ、そんなとこ」


「それでよく授業中は居眠りしなかったよね。特に古典の授業とか」


「あの先生の声ってやけに眠たくなるよねー」


「ゆったりとした抑揚のない声で、しかもやたら小さいから、時間が経つごとにどんどんどんどん眠くなってくるよね」


「居眠りしても怒らないから、余計に気が緩んじゃうよ。うるさくすると怒るけど」


「あんな眠たくなるような声とは真逆で、怒った時の声量は馬鹿デカいなんて、どこでギャップ見せてるんだよって話だよ」


「あれには本当にビックリした。心臓が飛び出るかと思ったもん」


「ビックリして、机の上で飛び起きてたもんな。アホ面丸出しだったぞ」


「うぇ!?」


「口から涎まで垂らしちゃってたもんね。あれはカメラに残したかったぁ」


「なっ!?」


「俺達以外にも気付いた奴は、笑いを堪えてたよな」


「えっ!?」


「先生が怒ってるタイミングじゃなかったら、みんな爆笑してたね」


「…………」


 俺と麟太郎からの言葉に、顔を赤くして固まる一雄。

 何か言おうとして口をパクパクと動かしているが、一向に言葉は出てこない。

 これまた授業中に飛び起きた時とタメを張るぐらいのアホ面である。

 すかさず麟太郎がスマホを使い、パシャリと写真を撮ってアホ面を保存していた。

 今度はシャッターチャンスを逃さなかったようだ。

 そして、『You Lose』という音が一雄のプレイしている箱から聞こえてきて、麟太郎が思わず「ふっ」と吹き出した。


「うっ、うるさいわ!」


 一雄の口からやっと出てきた言葉はそれだけで、笑いの後押しをするだけだった。


 ひとしきり笑ったのをきっかけにそれぞれ慣らしを終えたということで、お待ちかねの対戦を――と行く前に、決めることがある。


「負けた人は、変顔を晒すという罰ゲームを提案する」


 恨めしい目を俺達に向けながら、一雄がそう口にする。


「あらら、怒らせちゃったぽい」


「事実を口にしただけだけどな」


「ねー」


「許すマジ!」

 

 俺達に揶揄われたたことで、大変お冠な様子の一雄。

 仕返しに、俺達の変顔をご所望のようだ。

 一雄が提案した通り、対戦前に決めることとは負けた時の罰ゲームをどうするかである。

 罰ゲームなんてなくてもゲームは楽しめるが、罰ゲームがある方がゲームを何倍も楽しめるというもの。

 俺達がゲームをする時は、何かしら罰ゲームを決めてから行うのがルールだ。

 そして、三人の中でビリ欠だった一人が罰ゲームを受けることになっている。

 

「俺はいいよ、罰ゲームが変顔でも。キィちゃんはどう?」


「ああ、いいんじゃないか」


「よっしゃ!」


 じゃんけんで順番を決めて、お待ちかねの対戦へ。

 第一戦は、一雄VS俺だ。


「ふっふっふ、その無表情な顔をブサイク顔に変えてやるからな。覚悟しろよ、八切」


「お前こそ、変顔なんていう罰ゲームにしたことを後悔しろよ」


 やる気満々、打ち負かす気満々な一雄。

 こちらもやる気満々とはいかなくても、変顔を晒すなんていう罰ゲームは真っ平御免なので、迎え打つ気は満々である。

 お互いに背中合わせの箱に座り、お金を入れてプレイヤー同士の対戦モードを選択。

 お互いに操作するキャラクターを選び、待機画面へ。


『Round1……Ready――Fight!』


「くたばれー!」


「……」


 対戦開始の合図してすぐに、一雄が操作するキャラクターが突っ込んでくる。

 一雄が選んだのは、見た目は小柄な身体に頭に付けたバンダナが特徴的で、攻撃力は低いが素早い動きでヒット&アウェイを得意とするスピードキャラだ。

 その素早さでこちらとの距離を一瞬で詰め、攻撃を繰り出してくる。

 俺はそれを余裕を持ってガードで防ぐ。

 ヒット&アウェイを得意としているキャラのくせに、まったく後退せずに攻撃を繰り出してくる一雄。

 攻撃は最大の防御とでも言わんばかりの猛攻撃だ。

 攻撃速度も素早いのでそういうプレーもできるキャラだし、鈍足なキャラだったら効果的な行動かもしれないが、こちらの使用しているキャラの性能を考えると悪手である。

 スピードに秀でた一雄のキャラに対して、俺は技が多彩で様々な場面を柔軟な対応で乗り切ることができるオールラウンダーキャラ。

 見た目は、学ランの中にパーカーを着込み、フードとマスクで顔を隠しているのが特徴的だ。

 このキャラなら、今の状況を対応するのに最適な技を持っている。

 一雄の攻撃にタイミングを合わせて、あるコマンドを打ち込めば――


「あっ、くそっ」


 ガードカウンターが発動し、一雄のキャラが怯む。

 それをキッカケに、次はこちらが攻勢に出る。

 コンボを決めてダメージを稼ぎ、一雄がガードで防ごうとした所を掴みで無効化、続けてダメージを与えていく。


「こんにゃろっ」


 一雄も反撃してくるが、俺はそれを読んでまたガードカウンターを発動して、さっきと同じようにコンボを決めていき体力を削っていく。

 ガチャガチャガチャと、コントロールパネルを激しく動かしている音が一雄の方から聞こえてくる。

 どうにかしてこちらの攻撃パターンから抜け出そうとしているのだろう。

 だが、どんなに足掻いても抜け出すことはさせない。


『K.O.』


 そのまま一雄の体力を削り切り、1ラウンド目の勝負は俺の勝利となった。

 『School Fight』の対戦は、3ラウンドで先に二勝した方の勝利のため、次の2ラウンド目を勝負を取れば俺の勝ちである。


『Round2……Ready――Fight!』


 2ラウンド目の勝負が始まって、また一雄が開始直後にこちらに向かって突っ込んできた。

 学習していないのかと呆れつつ、一雄の攻撃をガードして先程のようにガードカウンターを発動するタイミングを狙い待つ。

 そして、何回かの攻撃後に俺がタイミングを合わせてガードカウンターを決めようとすると、一雄が攻撃するのを止めて後ろに下がり距離を空けてきた。


「……!」


 予想に反した動きに、俺のガードカウンターが空振りする。

 ガードカウンターは、相手の攻撃に対してタイミングよく発動すれば相手を怯ませることができる強技だが、その反面で空振りした場合は硬直が発生し、相手に大きな隙を晒してしまうという弱点がある。


「うっしゃっ!」


 その隙を狙った一雄が急接近して来て、攻撃を仕掛けてきた。

 硬直が解けてない俺はその攻撃に何もできず、コンボを決められてダメージを稼がれてしまう。

 コンボが終わると、一雄はそのまま攻め立てることはなく、また後ろに下がり距離を空けてきた。

 一本目の時とは違う落ち着いた立ち回り。

 どうやら一本目を取られたことで、頭の熱が抜けてきたみたいだ。


 一雄は熱くなったり焦ったりすると、プレーが単調になってしまいがちだ。

 そうじゃない時は、フェイントや待ちなども織り交ぜた冷静なプレーができる奴だが、1ラウンド目の勝負は対戦前に俺と麟太郎に揶揄われたのが効いていたようである。

 別に狙ってやった訳じゃなかったが、そのおかげで楽に1ラウンド目を取ることができた。

 2ラウンド目もそのまま熱くなったままでいて欲しかったんだが、1ラウンド目を簡単に勝ちすぎてしまったようだ。

 もう少し接戦な勝負を演じていれば、一雄の熱が抜けることなく2ラウンド目も楽に勝てたかもしれない。

 ちょっと失敗だったな。


「……」


「……」


 距離を空けたまま、お互いに相手の様子を伺う待ち状態。

 ただ、様子を伺うと言っても何もせずに突っ立ているわけではなく、前進と後退を繰り返しながら間合いを調整し、仕掛けるか待つかの駆け引きを行っている状態だ。

 ……しかし、どちらも仕掛けることなく時間だけが流れて行く。

 先ほど一雄に稼がれたダメージを早く回収したいのだが、一雄のキャラの素早やさを考えると反撃を受ける可能性があるため迂闊に攻め込めない。

 できれば、一雄に先に仕掛けてもらい、こちらがそれに対応する形に持ち込みたい。

 だが、一向に仕掛けて来ない様子から、一雄も待ちを選んでいるようなので望む形にならない。

 ならば、無理矢理にでも一雄が待ちをできない状況にしてやろう。


 後方に下がって、一雄との間合いを一段と空ける。

 その行動に間合いを詰めるべきか待つべきか、迷いの素振りを見せる一雄に、俺は攻撃が絶対に届かない位置から、コマンドを打ち込んだ。

 そして、発動したのは遠距離からの投擲攻撃。

 俺のキャラはパチンコを取り出して、一雄のキャラに向かってパチンコ玉を射ち出した。

 それを一雄はガードで防ぎ、簡単に無効化する。

 ダメージは低いし、今のように簡単に防がれてしまうようなものだが、貴重な遠距離からの攻撃手段だし、相手の行動を多少阻害できる。

 なにより、相手への精神的な嫌がらせにもなる。

 一投目、二投目、三投目……、ひたすら射ち続ける。


「ちょっ、ずるいぞ八切!」


「どこが?」


「そのパチンコがだよ。男だったら正々堂々と拳で来いよ!」


「ごめん被る」


「なんでだよ!?」


「遠距離から一方的になぶる方が面白いから」


「こんの卑怯者が!」


「お前もやればいいだろ」


「このキャラ遠距離攻撃ないんだよっ」


「じゃあ、諦めてくれ」


「ふざけんなkおnおkうsおyあロgっ!!」


 箱の向こう側から一雄が叫んでいるが、後半は何を言っているのか全然聞き取れない。

 こちらへ向けた暴言なのは間違いないので、聞き取れなくても全然構わないが。

 こちらの遠距離攻撃に耐えられなくなった一雄が、ガードとジャンプを使ってこちらとの間合いを詰めに来た。

 狙い通りの展開である。

 あとは一雄が近づいてきた際の動きを読み、攻撃を決めるだけだ。

 攻撃が届く距離まであと少し。

 そのあと少しの距離を一雄はジャンプで埋めながら、攻撃モーションを入れてきた。

 ジャンプ中に斜め下への相手に当てるジャンプ攻撃。

 いくつか攻撃手段を予想していたが、それは悪手だろ。

 

 避けることもガードすることもできない空中で、こちらの隙を狙うわけでもないジャンプ攻撃なんて、煮るなり焼くなり好きにして下さいと言っているようなものである。

 間合いを詰めるのに必死すぎて、勢い余り判断ミスでもしたか。

 こちらとしては、有難いことである。

 俺はジャンプ中の一雄の下を潜り抜けて、すぐさま振り返る。

 そうすれば、着地後の無防備な背中を見せる一雄が目の前だ。

 その背中に向かって、遠慮なくコンボを決めさせて頂く。

 稼がれた分のダメージを回収し、それ以上のダメージも稼ぐ。

 

「くそっ」


 立て直しを図ろうとしたのか苦し紛れの攻撃をしてくる一雄だが、それを読んでガードカウンターを入れ、怯んだところにまたコンボを決めていく。

 体力ゲージがどんどん減っていき、一雄の焦りが大きくなっていくのが、キャラの動きから見えてくる。

 完全に流れはこちらのものだ。

 そのまま、俺の流れで試合は進んで行き――


『K.O. ――You Win』


 一雄VS俺の勝負は、二勝〇敗で俺のストレート勝ちとなった。

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