第43話 殺し屋と2人目の同業者 その5

 結局、涼輝と園田さんの口論は日が暮れるまで続いた。

 夜の8時ぐらいになった頃に、漸く園田さんが帰ると言い出した。

 家で夕ご飯を食べる予定だったはずなのに、思い切り追加注文を俺に頼んできたし。

 融通が効かない癖に、自分のことになるとやりたい放題するんだから、タチが悪い。

「暗いし送っていくよ」

 涼輝が未来の手を取って、帰ろうとする。

「いえ、大丈夫です」

 ひかるくんの家の方が近いから一緒に帰ります、と未来は少し嫌そうに手を振り解く。

 やーい、振られてやんの。

「けっ、なんだよお前ら付き合ってんの?」

「まっ、まさか…」

 涼輝の言動に急に食いつく園田さん。

 手を口に当て、俺を睨む。

「違うよな、未来」

「ええ、ただの幼馴染みですよ」

 未来と目配せして答える。

「怪しいな」

「ええ、絶対何かあるはずね」

「なんでそんなに睨むんだ」

 何にもないって言ってるだろ、と俺が言うと未来はそうですよ、と俺の腕を掴んだ。

 俺を含む3人の視線が一気に未来へと注がれる。

 元からのものか、取り繕っているのか分からない無表情で彼女は俺に寄り添い続ける。

「……」

「……」

「……何やってんだ未来、離れろ」

 一同が沈黙したのち、俺は未来を振り解いた。

「じゃあ、また明日」

 微妙な雰囲気の中、涼輝は1人駆け足で帰っていった。

「そうね、2人ともあまり遅くならないようにね」

 そう言うと、園田さんもこちらを頑なに見ようとせずに去っていった。

「……」

 これどうすりゃいいんだよ。


「全く、お前なにしてんの?」

「何って、腕に掴まっただけですけど」

 平然と口を開く未来。

 さっきのは絶対確信犯だ。

「涼輝はともかく、園田さんに変に疑われると面倒くさいだろ」

 そう言うと、未来は歩みを止めてこっちをキッと見た。

「なんでダメなんですか?ひかるくんは園田さんのことが好きなんですか?」

「違うわ!なんであんな偉そうな固い人を好きになるんだよ」

 あいつの父親は刑事だ、この前の殺しが事件として警察沙汰になると身動きが取れなくなる。

「そういう意味でしたか」

 ほっと肩を撫で下ろしたように未来は前を向いてまた歩き出した。

「大体において、何故そんな俺と恋人同士のように振る舞いたがるんだ」

 俺たちは殺し屋と依頼人というだけだ、と突き放す。

 今ではそんな関係も崩れかけてる気がする。

 思いっきり生活の中で馴染んでるし。

「いっそ、付き合えば変に怪しまれないのではないですか?」

 そう言いながら彼女は振り向いた。

 純粋な目が俺を気不味くさせる。

「いや、それは……」

 確かに妙案ではあるが、そうなってしまうと俺の感情が変わってしまうかもしれない。

 今のところ、こうやって依頼人としての一線は超えていないつもりだが、こうやって一緒に暮らすうちに、好きになってしまうかもしれない。

 そうなると、いざ殺し方を見つけたときに本当に殺せるのか分からなくなる。

 一度受けた依頼を破棄するなんて殺し屋失格だ。

「いいや、出来なーー」

 そう言いかけた瞬間だった。


 彼女は横から現れた車に撥ねられた。

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