第40話 殺し屋と2人目の同業者 その2

 結局、始業時間3分前になって園田さんは扉を開けて入ってきた。

 いつもの凛とした感じではなく、本当に焦って来たみたいだ。

「おはよう…ございます…」

 息を切らしながら、彼女は挨拶をする。

 一斉にみんなの目線が彼女に集中したが、そんな事お構いなしに彼女は着席し筆記用具やらノートやらを取り出す。

 真面目なのはいいが、少しゆとりを持った方が良いんじゃないかと、俺でも少し心配する。

「何で園田さんの事をじっと見ているんですか?」

 前の席の未来からじっと睨まれる。

「いや、別に見てた訳じゃないさ」

 俺がぼうっとしていた時の視線の先に偶々園田さんがいただけだ、と弁明する。

「あんまり女の子をじろじろ見ない方が良いですよ」

 変な誤解を生みます、と未来。

 最近なんか園田さんの話になると未来が変に絡んでくる。

 なにか女子同士で一悶着あったのだろうか…

 そう思いながら漫画を読んでいると、また前の方から声が飛んできた。

「桐崎くん!シャツのボタンを止めなさい!新学期から緩みすぎです!」

「うるさいなぁ、まだお前風紀委員じゃないだろ?」

「一個人の生徒だとしても、学校の学ぶ環境を整えるため、注意をしあうというのは、当然の役目なのですよ」

 朝から元気な事だ。

「了解了解、止めますよー」

「あともう一つ訂正させてもらいますが」

 園田さんは口を止めなかった。

「私、今年は風紀委員になるつもりはありません、生徒会長に立候補するからです!」

「……」

 彼女の大声は周りのざわめきを一気に静かにさせるほどの力を持っていた。

 俺なんかの心配は不必要のようだな。


 今日もなにやら、今年は受験やら3年生の自覚を持って行動しろやらホームルームがあったり、クラス委員を決めたり、窓ガラスが割れたり(急に石が飛んできたのである。幸い落下位置が席と席の間だったため大した怪我人は居なかったが、担任はどうしていいのか分からず、行動不能に陥っていた。いつも通りの園田さんの冷静な対応により、なんとかパニックにならずに済んだようだ)色々あって放課後を迎えた。

 因みに、今回で中学校から通じて11回連続の役職無しを手に入れた。

 どんなにクラスが静まっても決して自分から手を挙げず、最悪ジャンケンになっても俺の動体視力は証明されている通り、一般人の出してくる手なんてすぐに解るため必ず抜けられるのだ。

 なんて、自慢をしていても虚しいだけなので、現実に戻ろう。

「ひかる、今日メシ行こうぜ」

 カバンに荷物を詰めてすぐに帰ろうとしていた時に涼輝が話しかけてきた。

「良いよ、その代わりサシは嫌だから他にも誰か誘えよ」

 男2人で遊ぶなんて、気持ち悪い。

「うーん、じゃあ未来ちゃんどう?」

「え」

 急に話を振られて戸惑う未来。

 と、スマホに連絡が入る。

 未来からどうしますか?と来ていた。

 影の方をみると、彼女の右手が高速でスマホを操作している。

 画面を見ずにSNSやるなよ…、もし誤爆したらどうするんだ。

「まあ、本人がいいなら俺はいいよ」

 俺は特に表情を変えずに答える。

「良いですよ、今日は予定もありませんし」

「じゃあ決定ー!」

 涼輝はノリノリだ。

 とても、昨日女を振ったやつには思えない。

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