第42話 殺し屋と2人目の同業者 その4

 注文が終わり、席に座っても2人はまだ言い争いをしていた。

「大体、サッカー部はあれだけグラウンドの使用権など優遇されているのに、まだ部費の請求をするわけなの?」

「うるせぇ、ボールとかゴールネットの修繕もあるし、遠征だってしてるんだ。自腹切ってる時もあんだからな」

「大概の運動部は自費で遠征してますー」

「そんなもん県内とかばっかだからだろ!俺たちは泊まりもあるし金が嵩んでるんだ!」

「じゃあ、あなた達だって県内に留まればいいじゃない」

 いつのまにか個人同士の張り合いではなく所属の話になってる。

「それだけ練習してるならさぞかし結果は素晴らしいものなんでしょうね」

「くっ」

 涼輝が言い返せなくなっている。

 流石に可哀想になり援軍を投入しようか。

「はい、これでも食べて落ち着きましょうか」

「あ、ああ」

「そうですね、こんなところで話し合っていても埒が明かないわ」

 2人とも椅子に座り直し、頼んでおいたものをとった。


「ていうか、大体において園田さんって生徒会にも入ってないし予算の事なんて言える立場じゃないと思うけど」

 一息ついたところで、俺は話題を再開させる。

 これ以上険悪になるのは嫌だし、正直さっさと帰りたいんだけど、明日になって煩く言われるのは火を見るよりも明らかだ。

 だったら、この場で解決しようという算段だ。

「風紀委員は先生との交流が多いんです、なので信頼や情報など色んなものが手に入りやすいの」

 実際、歴代の生徒会長は風紀委員からの成り上がりが多いのよ、と彼女は自慢げに語る。

「勿論、生徒への気配りも忘れてないし、私が当選するのは必然っていうわけ」

 なる程、もうこの人は生徒会長になった気でいる訳だ。

「あっそ、で今のうちに反乱分子を潰しに来たってのか?」

「そうじゃないわ、さっきまでの予算の話は売り言葉に買い言葉って感じよ」

「それなら、私たちに相談したいって言ってたのは何のことなんですか?」

 未来に言われて思い出す。

 そうだ、俺たち3人に相談事があるって言われて渋々ここまで彼女を連れてきたんだった。


「実は私が今日学校に遅れた件なんだけど」

 未来が目だけをこっちに向けた。

 いや、園田さんの話題じゃなくてお前の行動に驚くわ。

 とりあえず、知らない振りをしておく。

 そっか、殺人事件があったって事を未来は知っているだけで、現場は見てない訳だ。

 まあ、俺の犯行っていうのは気付いているんだろうけど。

「なんか、公園で人が殺されてたってやつ?」

「そう、ホームルームでも先生が言っていたでしょう」

「ああ、確かに言っていたな。あの情けなさそうな先生が」

「桐崎くん!一言多いです」

「はははっ、怒られてやんのー」

「先生に助けられるばかりではなく先生を助けられる生徒でいるべきです。あの人は確かに頼りないですが、思っても口にしないように!」

「お前も口にしてるじゃねぇか」

 こいつ、言ってる事支離滅裂としてるぞ。

 そういうと、園田さんは咳払いをして続けた。

「現場で高校生ぐらいの男性を見たという証言があったのです」

「マジかよ」

 あのパーカーは真っ黒で夜中には全然見えないから、バレないはずなのに。

「何か知らないですか?」

「「「いいや、全く」」」

 3人同時に発言した。

 4人全員で目を合わせた。

「なッんッでッ…ハモるかなww」

 涼輝は笑いを堪えきれていない。

「全く、貴方たちに聞いた私がバカでしたわ」

 なんとなく知ってそうだからちょっと期待してたのに、と園田さんは呟く。

 怖ぇよ刑事の娘の勘。

 バリバリ当たってるんじゃねぇか。

「はい、それなら用はもうねぇだろ」

 さっさと帰りな、と追い払おうとする涼輝。

「嫌です、どうせ来たのだからもう少し休みます」

 と、彼女は涼輝の分のポテトをつまみ食いした。

 口喧嘩が再開したのは言うまでもない。

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