第18話 殺し屋と詐欺師と暴力団 その3
発砲音はサイレンサーで消され、引き金を引く音と身体が倒れる音だけが部屋中に響く。
「これで5人目です、次でラストですね」
「ああ、流石に3日間で全員殺すのは骨が折れる」
なかなか連続で人を殺すことは少ないので、余り俺は持久力がないのである。
それでも、警察が大きく動く前に片付けないと面倒くさい事になるから、早く済ませないといけない。
死体を軽く漁って出てきた鍵を使い、扉を閉めた。
アパートを出て次の標的の書類をみる。
「これは相当報酬を払ってもらわないと割に合わないな」
「やっぱりビジネスなんですね」
「そりゃ当然だよ」
慈善事業で人殺しなんて真っ平御免だ。
それなりの労力と費用(弾丸をおろしている猫屋敷さんは一銭もまけてもらえない)がかかっているのだし、詐欺商売と比べたらまだ真っ当な仕事だと思う。
…殺し屋が真っ当なんて言われたら世も末だろうけど。
「それにしても、ひかるくんはやっぱり凄い人なんですね」
「どうしたんだよ急に」
面と向かって言われると流石に照れる。
「だって、こんな簡単に人を殺せるんですよね」
それはなんだ、技術的な意味か?精神的な意味か?
「いえ、どちらもです。両方備わってこの仕事が出来るんですから」
うーん、俺も最初からこんな感じじゃなかったんだけどな。
一通り書類に目を通し、頭に叩き込んだ。
ちなみに、東出さんからもらった名簿だけでは情報が少ないので、アリスさんに住所や家にいる時間などを調べてもらった。
俺も自分で凄いとは思うが、アリスさんも意外と縁の下の力持ちだ。
結局、俺だけでは殺し屋はまかなえない。
どんな仕事も1人では出来ないものなんだろう、それは詐欺も同じだ。
「それで、最後に親玉を潰すということですか」
「ああ、ちゃんと後悔してもらわないと」
最初にトップを殺してしまうと、散り散りになって皆殺しにするのが難しくなる。
下から徐々に追い詰めていくのが効率の良い連続殺人の方法だ。
恐らく終電であろう電車に乗って3駅目で降りる。
時刻的には既に翌日になっているだろう。
「さあ、もうひと頑張りだ」
俺は指を伸ばして軽く準備運動のようなものをしてから、最後のマンションに入る。
高層階に住んでいるらしい、どれだけ詐欺で稼いだのだろうか。
エレベーターでは監視カメラが厳重に置かれている場合が多いので、階段で上がる。
廊下で、もう一度標的の情報を確認し、深呼吸する。
光が漏れているので、思い切ってドアを開けた。
部屋には2人の男がいた。
おかしい、標的は確か一人暮らしのはず。
取り敢えず、冷静にならないと。
「どうも、いきなりすみません」
突然ですがあなたを殺しにまいりました、と俺は言った。
と同時に左ポケットから拳銃を取り出し、情報に沿って身体の細い方に向ける。
「やっぱり来たか、この殺し屋が」
「情報が漏れてたんですか」
「ああ、仲間の1人が最期に伝えてきたよ」
俺は感心したように、頷いた。
「それはそれは随分上司思いの部下ですこと。
それで、この人はボディガードですか?」
「その通りだ、只で殺される訳にはいかねぇからよ」
流石詐欺グループの親分だ、下っ端のチンピラとは違う。
それに、
「俺の本業はボディガードじゃねーからよぉ、返り討ちに殺してやるかもしれないぜ」
「同業者ですか」
当然、俺以外にも殺し屋は居る、殺しは俺の専売特許じゃない。
「さあ来いよ殺し屋さん、どっちが強いか腕試しでもしようじゃないか」
そんなに自信があるのならやってやろう。
『死神』の名が伊達じゃないことを見せてやる。
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