第14話 殺し屋と不死鳥の約束

 「という事があったんだよ猫兄さん」

「はー、それはそれはまた面白い話を持ってきたものだね」

 俺の前のスーツ男はニヤニヤしながらココアを啜った。

 彼の名は猫屋敷雅俊、通称 猫兄さん。

 僕が使っている毒薬や武器など色んなものを持ってきてくれる。

 品は良いし信頼も出来るが、如何せん びた一文まけてくれないのが玉に瑕だ。

 それに品物だけじゃなく、情報まで取り扱ってくれる。

 俺の唯一のサポートメンバーと言っても過言ではないのだ。

(アリスさんは一応サポートメンバーなのか?)

「どうだい?何か手がかりはあるか?」

 俺はここ最近に起きたことを一通り話した。

 彼なら研究所や不死の体について、少しでも知っているかも知れないと思ったのだが、

「うーん、あんまりそういう話は聞いた事がないな」

「そうか…」

 やっぱり無いのか、まあトップシークレットみたいな話だし、知らなくても無理はないが。

「でも取り敢えず今は君が、未来ちゃんをしっかり守ってあげるべきだ。

 今後も研究所の人達が彼女を襲うだろうし、ちゃんと見ていなきゃいけないよ?」

「…ああ、分かった」

 俺は強く頷き、コーヒーを飲んだ。

 これ以上、彼女を不幸にさせないと決めたんだ。

 そのために早く殺す手段を考えないと。

「それでも、依頼人に手を出しちゃあいけないよ?」

「するかよ!」

「ふーん、その割には顔が赤いよ?」

 そう言われて俺は顔に手を当てた。

「嘘だよー」

「……」

 俺は冷静になろうとして、カップを手に取った。

「いっつも思っているんだけどさ、良くそんな苦いもの飲めるよね」

「あ、ああ コーヒーの事か」

 そういえば、猫兄さんはココアばっかり飲んでる。

 しかも、角砂糖を3つ入れてもっと甘くしているから、俺にはとても飲める気がしない。

 因みに俺はブラック派。

 中学校の時にずっと大人ぶって飲んでいたのが、意外とハマったのである。

「ひかるくんは、もうちょっと人と甘く接する事を覚えないといけないよ?」

「だからってそんなにだだ甘にすることはないとは思うけどね」


 喫茶店を出ると、ちょうど向こうの方から未来が歩いてきた。

 手を振ると、あっちも気がついたようだ。

「そっか、眼鏡かけてたから分からないか」

 今は『桐崎ひかる』であって『死神 ライト』ではない。

「ああ、いえ 少し考え事をしていたもので」

 未来は軽く頭を下げる。

 俺はその頭に手をぽんぽんと当てた。

 ……甘くするってこんな感じか?

「!?」

 未来はびっくりしたような表情を浮かべてこっちをみた。

「ん?ああ、いやなんでもないよ」

「……そうですか」

 するとずっと俯いたまま歩き出した。

 そんなに下向いてると電柱とかにぶつかるぞ?

「ひかるくん、私はずっとこのままでもいいかもしれないと思えてきました」

「え?何言ってるの?」

 今度はこっちが驚く番だ。

「ひかるくんに守ってもらえば、ほかの人に迷惑をかけないし」

「それって俺に迷惑をかけるってことじゃ…」

 酷い考えだな。

「だから、私をずっと守っててくれませんか?」

 未来はこっちを見て、少し顔を赤らめた。

「俺は殺し屋だ、俺が受けた依頼は『お前を殺す』ことだ。だから、


 お前を俺以外に殺させない、お前を殺すまで離さない」


 俺だってプロだ。

 ただの高校生ではない、殺し屋稼業をやっているんだ。

 だから、依頼は精一杯取り掛かる。

 例えそれがどれだけ修羅場だとしても、

 例えそれがどれだけ長期戦だとしても、

 受けた依頼は確実に遂行する。

 これだけは誰にも譲れないプライドだ。

「……ありがとうございます」

 そう言うと彼女はまたうつむき加減に歩き出した。

 まあ、それでも自分の誇り以外に理由はあるのかもしれない。

 未来といると少しばかり気が狂うが、少し楽しくもある。

 彼女とならずっと一緒にいてもいいかもな。

 って、

(依頼人に手を出してはいけないって言われたばっかりだろ俺!)


 こうして殺し屋の俺と不死鳥の彼女の2人、いや2体の人外の物語は始まった。

 これは殺し、殺される物語である。

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