第13話 殺し屋と不死鳥とメイドの夜 その4

 家に帰った俺たちを待っていたのは、なんか怒っているアリスさんだった。

 いつものメイド服姿、何故か箒を持って仁王立ちしている姿は、まるでお母さんみたいだ。

 俺のお母さんなんて既に忘れているけど。

「こんな夜中まで、男女2人で何してたの!」

「アリスさんが知る必要なんてないです!」

「いやいや、未来までそんな台詞まで吐くな。俺たちは反抗期の子供じゃない」

 俺は素通りしようとして、その手を阻まれた。

「一応ちゃんと説明して、何があったのか大体想像はつくけどさー」

 アリスさんは意外と真面目モードでこっちを見てきた。

「分かったから取り敢えずその箒を降ろしてくれ、危ない」

「はーい、じゃあどうぞこちらへ」

 そう言われて俺が見たのは、暖かいお茶がセットされたこたつだった。

 なんでこんな事に力入れているんだ…

 だったら普段のご飯をちゃんと作れ、駄メイド。


 俺はお茶を啜りながら、一部始終を話した。

 もっとも、自転車のあのくだりは省略したが。

「やっぱりそんな事だろうと思ったー、ビックリしたんだよ?

 喉が渇いたからお茶飲もうとしたら2人ともいなくなってるんだもん」

「悪かったよ」

「今度から置き手紙でもしておいてね」

 さっきの話聞いてたのかな、その置き手紙で俺は急いで家を出たんだよ?

「じゃあ事情も分かったので私は部屋に戻りますー」

 そう言ってアリスさんは自分の部屋に向かっていった。

「ちゃんと寝なよ?初日からあんまりイチャイチャすると身体が持たないよ?」

「しねーよ!こっちは予定外の戦闘で疲れてるっつーの!」

 俺は怒鳴り散らしながら扉が閉まるのを見送った。

 さて、汗もかいたのでシャワーぐらい浴びてくるか。

「今度はちゃんと鍵閉めて、インターホン鳴らされてもとるなよ」

「分かったよ」

 未来は静かに手を振った。

 うーん、なんか調子が狂うな。


「そういや、未来は汗大丈夫?」

「うん、私は寝てただけだから」

 よく考えてみると、あんな寒い中なんで寝つけていたんだろう彼女は。

 俺は布団を出してきて、寝る準備をした。

 こたつは少し隅に寄せて、出来るだけ離す。

 そうじゃないと俺も思春期真っ只中だ、変な気を起こしたらやばい。

 未来も手伝おうとしてくれたが、下手に押し入れを開けて凶器が出てきたら片付けがかえって面倒臭い。

 俺は少し窮屈だけど、こたつの中で丸くなって寝ようとした。

「ねえ、ひかるくん」

 ふと横を見ると黙ってこっちを見ている。

 俺は顔が赤くなり思わず顔を逸らした。

「ど、どうした?」

「いや、えっと

 やっぱり敬語に戻してもいい?」

「うん!全然いいよ!」

 即答した。

 これ以上、恥ずかしい思いはあんまりしたくない。

「そんなにハッキリ言わなくても…」

 なんか悲しそうだな。

「いや、ちゃんと依頼人と殺し屋の関係は崩したらダメだなって今回のことで思って…」

「それは大丈夫だ、これはちゃんと仕事の一部だから」

 とはいえ、こんなに一緒いる事なんてないけど。

「それなら…良かったです」

 少し悲しそうな声だったが、気のせいだろう。

「それじゃおやすみ」

「はい、おやすみなさい」

 その夜は狭いこたつの中でも関わらず、直ぐに寝つけた。

 身体は正直だ。

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