第24話 殺し屋と不死鳥の休日 その2

「なんで2人が一緒にいるの?」

「え、あのー」

 完全に未来が狼狽えている。

「勉強しにきたんだよ、ほらもうすぐ春休み明けのテストだろ?」

「確かにそうだけど、桐崎くんって普段から図書館で勉強するの?」

「あ、いや。今日は未来に勧められてさ」

「そうか、二人は幼馴染なんだったっけ」

 そういや、そんな設定だったな。

「そういう園田さんはなんで図書館に?」

「私は本を返しに来たんだけど」

 そういう彼女は重そうなトートバッグを抱えていた。

「本とか意外と読むんだね」

「意外って何?これでも学校では有数な読書家なんだけど」

 ふーんと、俺は返すと、そっちが聞いてきたのになんなの!その返事はって怒られた。

 話題がだいぶ逸れてきたようだ、この調子だとうまく切り抜けられそう。

「折角だし、私も一緒に勉強していこうかな」

「あ、そう…」

「ん?何か私がいたら不都合なことでもあるの?」

「いや、全くないけど」

 前言撤回。

 未来も心なしかがっかりしている雰囲気が出てる。


「ここをXに代入して…公式を当てはめたら、ほら上手くいったでしょ?」

「ああ、やっと理解できた気がするよ」

「それで、独露再保障条約が締結してビスマルク体制が整ったの」

「これでフランスを孤立させることができたのか」

「じゃあ次はこの問題なんだけど…」

「でも1890年にビスマルクが辞職した後は…」

「うん!ちょっと待って!」

 なんでこんな事になっているんだ。

 俺はテーブルの中央に座って一生懸命ノートを取っている。

 その右には未来が、世界史の教科書を片手に少し小声で説明してくる。

 そして左には園田さんが、数学のワークを片手に式を書きながら解説してくる。

「…あのさ、一緒に二つの教科なんて出来るわけないから」

「でも、2人同時に勉強を見てほしいって言ったのは桐崎くんの方だよ」

「うっ、そりゃだって…」

 2人でどっちが俺に教えるか、危うく喧嘩しそうになってたもの。

 図書館の司書さんも結構睨んでいたんだよ。

「やっぱり、私が先に教えるよ」

 数学の方が苦手なんでしょ?と彼女は迫ってくる。

「ああ、じゃあそっちをお願いしようかな…」

 と俺が未来の方を振り向くと、またお得意の上目遣いでこっちを見てきた。

 しかも、目に涙さえ浮かべていやがる。

 やばい、ものすごい負けそうだけど、ここで未来に頷いたらあの風紀委員はどういうだろうか。

 何か逆恨みしてまた、罰掃除をやらされたら困る。

「また、家で一緒に勉強したらいいから」

 俺が未来にしか聞こえないように伝えると、涙が一気に引いていつもの無表情に近い笑顔に戻った。

 ワークを広げた園田さんは満足そうな顔を見せる。

「じゃあ次の問題ね」

「ていうか、なんでそんなに俺に教えたがるの?」

「え、あー…だって、生徒の成績向上は生徒会の義務なんだから」

 成績の悪い人たちを見捨てるわけにはいかないからねと、彼女は胸を張って言った。

「そこまで悪いわけではないんだけど」

「いいの、手取り早い人から救出するものだから」

 あっそ、なんだか苛つかせる言い方する奴だ。


「それで今度は因数定理の方なんだけど…」

 園田さんはその後もペースを上げながら解説してくれる。

 さすが、生徒会役員のだけあって説明も分かりやすい。

 横の未来もしっかり頷きながら聞いている。

 ただ、腕に柔らかい感触が当たる。

 うん、これは多分アレなんだろうけど気にしたら終わりだ。

 雑念を振り払うのに必死で俺は結局、理解出来たか出来なかったのかよく分からないまま終わった。

「じゃあ、また家で復習しておいてね」

「はいはい」

 結局、1時間ぐらい演習をした後また本を借りて笑顔で園田さんは帰っていく。

 俺は若干やつれながらも笑顔で手を振った。

 園田さんが出て行く最後、未来の胸の方を凝視していたのは俺には知る由もなかったが。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る