第20話 殺し屋と詐欺師と暴力団 その5
念の為、脈の確認をしてから後片付けに入る。
と、見渡して大事なことに気がついた。
「ッ!あいつどこに行った!」
標的の姿がない。
くそッ!俺としたことが戦闘にムキになって肝心な事を見落としていた。
部屋の中を探してみるも気配は全くない。
そもそもかなり狭い部屋なので、隠れられる場所もあまりないのだ。
最悪の展開だ。戦い始めてから時間はあまり経ってないから、そう遠くには逃げられることは無いと思う。
しかし、それは徒歩だった場合だ。
地上まで降りて車で逃走されたらもう為す術がない。
詐欺グループの親玉だ、それぐらい頭が回らないと務まらないだろう。
標的に逃げられるなんて、殺し屋としては1番やってはいけないことだ。
特に、今まで顔の割れてなかった俺だ。
ダメ元で玄関の扉を開ける。
すると、意外にも標的の姿があった。
どうやら最悪の事態だけは免れたらしい。
でも、それは『最悪』という部分だけだ。
彼は、未来を人質に取っていたのだ。
「おい死神、こいつは誰だ。お前の連れか?それとも赤の他人か?」
安物の包丁を未来の首に当てながら彼は喋る。
「お前らの戦い、見させてもらったよ。お陰で報酬を払わずに済んだぜ」
そのまま逃げても良かったんだがな、こいつがもしお前の仲間だったら厄介だからこうやって封じさせてもらった と彼は話し続ける。
「まあ、仲間だろうが他人だろうが見殺しにする訳には行かないよな?」
うーん…この場合どうすれば良いんだろうか?
下手に殺そうとナイフを振られても、どうせ未来は不死身の能力で回復するのだろう。
でも、そんな能力他人に見られるのは今後のことを考えるとリスクが高い。
地に落ちた血痕まで治るわけないし、(この前の公園の血液は後日処理した。後処理も殺し屋の仕事だ)何かしら俺達の痕跡が残るのはあまりよろしくない。
だけど、人質の解放の仕方ってどうすればいいんだ?
殺すのは得意でも殺させないのは苦手だ。
というか、今までやったことが無い。
俺は奥歯を噛み締める、振りをする。
取り敢えず、相手に行動を取らせないようにしないとな。
久しぶりにピンチだな、意外と楽な仕事だと思ってたんだけど。
「こいつを解放して欲しいならさぁ、お前の持っている凶器を渡してもらおうか」
えぇー、それは嫌だ。
普通に触られたくないよ。
ってあれ?
なんであなたがそこにいるの?
そいつは標的の肩をぽんぽんと触れる。
「ああ?なんだよいきn」
ゴフッっという声を出しながら標的は顔面をぶん殴られた。
「よくも、うちの組長に手ぇ出しやがったなゴラァ」
ぶん殴った彼は暴力団の役員、東出さんだった。
彼は右手の腕を巻くって指を鳴らす。
ふと見てみるとちょっと刀傷が見えた、噂は本当だったみたいだ。
「ありがとな、ここまでやってくれて」
あとは俺に任せてくれ、と彼は高笑いした。
「ええ、ありがとうございます」
いいところに来てくれたって感じだな。
いや、もしかしたらこの機会を伺ってたのか?
でも本来はこの部屋の中で殺すつもりだったんだけど。
「ほら、今からたっぷり落とし前払ってもらうからなぁ」
「ち、ちょっと待ってくれ!いや待ってください!お金ならいくらでも払いますからぁ!」
いや、なんで俺にしなくて東出さんには命乞いするの?
確かに初対面では彼の顔は怖かったけどさ、実力は(多分)俺の方が上だよ?
彼らはマンションの闇に消えていった。
あーあ、大人しく殺されておけば楽に死ねたのに。
こうして、詐欺グループの撲滅は意外にも呆気なく幕切れとなったのである。
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