第34話 殺し屋と1人目の同業者 その1
「それでどうなったんですか?」
未来はお茶をお盆に持ちながら聞いてくる。
まだ仕舞うには肌寒いコタツにお盆を置くと、そのまま向かいの座布団に座った。
「その変態さんからは逃げ切れた訳なんですよね」
「変態さんって言われたらその通りなんだろうな、あんな格好は正直二度と見たくない」
想像しただけで鳥肌が立ってくる。
「それでも、格好以外にも異様なところがあったし、唯の露出狂って訳じゃなさそうだ」
「でもナイフ投げについては、特に目立った様子はなかったんでしょ」
「確かに、瞬間的な殺気もあったから俺は見切ることができた」
普通の小学生もいたし、周りに被害が及ぶ可能性もあったから掴んだけど、かなり危なかったんだよな。
「だけども、あの殺気はむしろ俺の実力を見るためにわざと出したのかもしれない」
「どうしてそんなことが言えるんですか?」
「なんか、目立った様子が無いのが逆におかしいんだよ。ナイフの投げ方なんて、癖が出るはずなんだ。至近距離だとしても回転の速さとか、描く放物線とかはわかる。
でも、全然感じなかったんだ。
恐らく、相当の手練れだぞ」
未来は相変わらず無表情に、でも真剣な目で見つめる。
「で、その後は?向かい合って嘔吐してからどうなったんですか?」
「吐いてねぇよ、気持ち悪くはなったけど通学路でそんなことしたら目立つじゃないか」
「充分目立ってます、その人のせいで」
そう言われた所で気がついた。
気持ち悪いほどの異様性に。
「そうだ、こんな白昼の街でなんで誰も見ていなかったんだ」
普通なら、いや普通じゃなくてもあんな人間を放っておくなんでありえない。
騒ついていてもおかしくない、いやもし近くの人に正義感が少しでもあったら通報されているはずだ。
「見えていなかったのでしょうか」
「そんなバカな」
と言ったものの、そう考えると納得がつく。
街の人に認識されない力、もしくは特定の人間に見せる力。
どっちにしても、これは間違いなく人間業じゃない。
『研究所』のものか?
不死の研究をやっているのだから、これくらい造作もないことなのかもしれない。
考えれば考えるほど、相手の全貌が見えなくなる。
「やめておけばよかった…」
「?どうかしたんですか?」
「どうかしたも、今はずっとどうかしてるよ」
「いや、そういうことを聞いているのではなくて」
「ああごめんごめん」
変なことを言ってしまったから未来を困惑させてしまった。
「じゃなくて、俺はあの時約束をしてしまったんだ」
「どんなことですか?」
「決闘を行うということ」
「一昔前の漫画ですか?」
「うるせー、だってあんな場所で戦いたくなかったんだよ」
狭い所で、しかも敵は未知数、おまけに獲物は緊急用の小型ナイフと右手に取ったものだけ。
あの場面では逃げるのが得策だ。
「それにしても、よく相手もそれを受け入れましたね」
「ああ、自信があるんだろうな」
何にせよ、本気で殺らないと殺られる戦いになるはずだ。
「そういや、決闘場所と時間はどうするんですか?」
「桜内公園、明日の23時からだ」
「小学生が外にいていい時間じゃないですね」
「あれは、どう考えたって小学生じゃねぇよ」
まあ、高校生でもだめなんだけどな。
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