第7話 殺し屋と不死鳥とメイドの夜 その1

 シチューを食べながら俺はメイド服の2人に話しかけた。

「取り敢えず、叔母さんと連絡が取れるまでネットカフェとかで暮らしたらどう?」

「え〜、ミクっちと一緒に暮らしたい〜」

 アリスさんはのうのうと話す。

 お前の意見は聞いていないっつーの。

「そうは言っても、歳の近い男女が家族でもないのにひとつ屋根の下で暮らすのはどうかと思うんだけど」

 俺は突き放したように言った。

「私は?」

「お前は泣きじゃくって喚いたから仕方なく連れてきたんだろ?」

 アリスさんは口を膨らました。

「えぇ〜、そんなことないでしょ〜!」

 相変わらず能天気な奴だ。

「でも、正直1人で暮らすのは不安です。研究機関に見つかった時はどうしようもないですし、ネットカフェの方が危ないのではないのでしょうか」

 くっ!ぐうの音も出ない正論だ。

「未来さんはいいの?それで」

「ええ、全然大丈夫ですよ」

 彼女は何が問題なのか分からないとばかりに表情を変えない。

「……なら良いけどさ」

 俺がそう言うと、アリスさんと未来さんはハイタッチをした。

 なんだよ、その団結力。


「それじゃあ、お休み〜」

 シチューを食べ終わった後、アリスさんは隣の部屋に行ってしまった。

 一応、俺の前ではあんなにだらけ放題だった彼女でも、1人になるとパソコンに向かって依頼やデマなどの対応をしている。

 正直助かっている所も多い。

 まあ、俺も出来るんだけど、その仕事をとっちゃアリスさんはこの部屋に居られる理由が無くなるからな。

 さて、

「どうすんの?本当にここで暮らすつもり?」

 俺は食器を洗ってくれている未来さんに尋ねた。

「学校や友人にバレたら相当にヤバい事になるし、最悪退学になる事も有り得るんだよ?」

 俺達は高校生だ。普通に不純異性交遊などと言われても仕方がない。

「そこの点については大丈夫だと思います。今日みたいに帰る時間をずらしたり、他人に話さなければ良いだけの話です。幸い、ひかるさんも友人は多い方ではなさそうですし」

「今、しれっと酷いこと言わなかった?」

「そうですか?」

 彼女は首を傾げた。デリカシーがないのか、それともわざとか…

「あとは、正直スペースがそろそろ狭くなってきてるんだよな」

 アリスさんの部屋は物が散乱しているし、所詮高校生が不審がられない程度に借りれる広さしか無い。

「寝る場所なら大丈夫ですよ、押入れで寝ましょうか?」

「いや、ドラ○もんじゃないんだから…」

 流石にそれは気が引ける。

「いいよ、未来さんはベッドで寝なよ、疲れているだろ?俺はこたつで寝ることにするから」

「あ、ありがとうございます」

 未来さんは深々とお辞儀した。

「あと、『未来さん』ってのを直してくれませんか?同級生なんですし」

 確かにと、俺は思った。

「でも、未来さんも敬語だよ」

「あ、そうですよね…

 じゃあこうしませんか?私が敬語を辞める代わりに、『未来』って呼んでくれませんか?」

 うぅ…本人は気づいてないのかもしれないけど、結構恥ずかしいよ。

 出会って2日の女子を呼び捨てで呼ぶのは。

 まあ、仕方がないか。

「分かった『未来』。その代わり、依頼人と殺し屋の関係である事に変わりはないからな」

 俺が苦笑いで答えると、彼女は今までに見せたことのない笑顔をした。

「うん、ひかるくん!」

「俺のことは君付けなんだな…」

「あ」

「いや、それでいいんだけどね」

 俺は慌てて静止した。俺のことも呼び捨てにされると完全に恋人同士になってしまう。

 同世代の異性となかなか関わりの無かった俺はどう接していいかわからなかった。

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