第36話 殺し屋と1人目の同業者 その3

 『鉄の処女』と名乗った彼女は直ぐに間合いを取り、両手にナイフを握った。

 やはり、投擲が武器なのだろう。

 俺は左手の銃を彼女に構えて、引き金を引く。

 と、そんな悠長な事はさせてくれないようだ。

 さっきまで握っていたナイフがもう既に目の前まで飛んできた。

「っと」

 右に素早く身体をスライドさせて避ける。

 しかし、その避けた先にもナイフが来ていた。

 俺は右手のナイフで弾き飛ばす。

 おかしい、あのランドセル女は俺が避ける前ではナイフを投げる動作すら無かったのだ。

 投げたのは避けようとした瞬間なのだろう。

 恐らく彼女は俺の動きを読もうとはしていない。

 読む必要がないのだ。

「おー!じゃあこれはどうかな?」

 今度は両手を使い、二本のナイフが飛んでくる。

 っていうか、こいつの凄いところ毎回投擲する場所が違うところだ。

 投げながら円周上で移動している。

 俺が避けるまでの間に、だ。

 しかも、それでいて投げる方向も完璧だ。

 これはかなり強敵だな。


「ひかるくん、大丈夫でしょうか?」

 私はアリスさんに心配そうに聞きます。

「この前まで戦っていた人たちより、なんか強そうじゃないですか」

「まあ、聞く限りではね」

 アリスさんはポテチを箸でつまみながらパソコンを操作しています。

「でも、未来ちゃんが来る前はひかるも結構無茶やっていたのよ。

 どうみたって彼より強い敵と戦うこともあったし、それでもここまでやってきた。

 だから、今回も大丈夫よ」

「そうですか」

 少し安心しました。

 今日ひかるくんが出ていった時、いつもより顔が強張っていました。

「それ、その変態に会うのが余程嫌だったんじゃない?」

「そうかもしれませんね」

 私は笑いながら返します。

「アリスさんは、そのランドセルの変態について何か知っていますか?」

「うーん、今それを調べているんだけど、結構有名らしいよ」

 まあ、もしいつもその格好なら目立つ事この上ないですよね。

「どうやら、裏では『7人の暗殺者』として伝説混じりに言われているらしいよ」

「暗殺者が目立って良いんですかね?」

「そりゃ、その人にもポリシーがあるんでしょ」

 その格好をしないと力が出ないとか、とアリスさんはナイフを投げる素振りを見せながら言います。

「まあ、ひかるを信じて待ってたら」

 アリスさんはひかるくんのことを絶対的に信用しているようです。

 私もそのうち人を信じられるようになれたら、と考えてしまいます。

「分かりました、でも、もしひかるくんのいない時に研究所の人が来たらどうしましょう」

「その時は私が戦うから大丈夫だよ」

「……」

「その目は信用していないな?」

 昔は私だってすごかったんだぞ!といばるアリスさんでした。

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