第4話 領主様からの頼み
目が覚めたら見慣れない天井だった。
あれ? 私どうしたんだっけ?
やけにフワフワの布団に包まれ、できる事ならこのまま二度寝に突入したい気分だが、それ以上に邪魔をしているのが空腹の感覚。しかも何処からか知らないが美味しそうな香りが漂ってくる。
「気がついたかしら?」
急に声をかけられベットの隣を振り向くと、そこには少し離れた場所でテーブルつかれている一人の綺麗な女性。その隣には年若いメイドさんらしき女性が一人立っている。
よく見ればベットの端で大判のストールを肩から掛けられ、しがみ付くように眠るリィナの姿と、その隣で寄り添うように眠るライムの姿。
「二人ともいい子ね。リィナちゃんはずっと側を離れなうようにしていたし、ライムちゃんは必死に体力回復の奇跡を使っていたから疲れちゃったみたいね。
さっきまで頑張って起きていたのだけれど、眠っちゃってね。ベットに運ぶのも忍びないからこのままにしておいたの」
どうやら二人には随分心配をかけたようだ。それにしてもライムの姿を目にしても、驚くどころか私の家族として見ている節が感じられる。もしライムをお金目当てで誘拐するなら、私たちが眠っている間に連れ去っているだろうから、多分悪い人ではないのだろうけど。
「あの、ここはどこなんでしょう?」
気持ちを切り替え改めて部屋の中を見渡す。
高価な物はほとんどないが、ベットもテーブルもかなりしっかりした作りになっているところから、ここが平民が暮らす家ではないことはわかる。
「心配しないで私はエステラ、ここは私の家よ」
分かりきっていた事ではあるが、やはりここはこの女性はお屋敷なんだろう。
それにしても私は一体どれだけ寝ていたんだ?
「体の方はどう? 念のために医師にも見てもらったんだけれど」
「あ、はい。大丈夫です」
体を動かしならが確かめてみる。そもそも只の空腹なのでライムに体力回復の奇跡をかけて貰えたのなら大丈夫なはずだ。
「そう、よかったわ。丸一日寝ていたんだから心配したわよ」
「丸一日!?」
慌てて窓から外を見てみると、天気は私が倒れる前とさほど変わっていない。
「しばらく良く寝れてなかったんじゃない? 頑張るのはいいけど、あなたが倒れたら妹が心配するのは分かっているでしょ」
どうやら思っていた以上に気が張り詰めていたのかもしれない。私のせいでリィナにまでひもじい思いをさせてしまって、ここ最近眠れなかったのは本当だ。
「……すみません」
私はただ小さくなって謝るしかできなかった。
「反省したのなら今後注意しなさい。あと、二人なら心配しなくても大丈夫よ」
「その、ありがとうございます。助けて頂いたんですよね?」
改めて気を失う前の事を思い出す。
確かリィナを連れて街に出て、香草焼きの匂いにつられたんだっけ。そのあとに暴走馬車を止めて、怪しい男性に騙されかけたところを
「って、領主様!?」
「あら、クラウスがどうしたの?」
「えっ?」
呼び捨て? って、もしかしてこの人!
「クラウスは私の旦那様よ、気を失ったあなたを連れてきたのも彼なんだけれど、覚えていないかしら?」
な、なんて事に……私これから牢屋に入れられちゃうんだ。うんうん、もしかして何かの実験に使われてこのまま死んじゃうんだ。ごめんねリィナ、不甲斐ないお姉ちゃんで。
ぐぅ〜〜
「……」
きゃぁーーー、なんでこのシリアスな場面でお腹が鳴るのよ!
自分でも顔が真っ赤になっているのがわかる。穴があったら隠れたいって言葉を、まさに今体験している気分だよー。
「ふふ、ごめんなさいね。ラッテ、すぐにティナさんのお食事を用意してあげて」
「畏まりました奥様」
ラッテと呼ばれたメイドさん、年齢は私とおなぐくらいかな? エステラさんに頼まれ私の食事を取りに一旦部屋から出て行かれる。
「あの、ご好意は大変うれしいのですが、今の私にお返しできる事は何もないんですが」
「そんな事は気になくてもいいのよ。ただ、後でクラウスの話しを聞いて欲しいの」
「話し、ですか?」
ん〜、領主様の話しか。やっぱりさっき見せた聖女の力に関係するのかなぁ。
私はいままで生まれた街を離れた事がない。だから聖女の力なんて街を出れば使える人は大勢いるものだと思っていたが、先ほど街の人たちの反応からそれは違うのでは? と考えを改めかけていたのだ。
だって私とお母さんが癒しの力使える事は近所の人たちなら皆んな知っていたし、今まで騒がれた事なんて一度もなかった。寧ろ『昨日から腰が痛くてねぇ』『それじゃ痛みを和らげる癒しの奇跡をかけちゃいますね』的な軽い感じだった。
この聖女の力と呼ばれている現象は、聖女様の血が流れていないと使えないと言われているが、初代聖女様が何処かの世界から召喚? されてから1000年以上も経過しているんだ。いくら初代が王子様と結婚されたからと言っても、今じゃ平民でも時々この力が使える者が現れると、何かの本で読んだ事がある。だから決して珍しいものじゃないんだと思い込んでいた。
でもこれがもし非常に珍しい力だったら、領地を預かる領主様なら欲しがっても不思議ではない。聖女の血が流れていると言っても全員が全員この力が現れるわけでもないんだから。
「心配しないで、ティナさんが話を聞いて嫌だと感じれば断ればいいから。もしクラウスがそれでも強要させるなら、私が全力で皆んなを守ってあげるわ」
「はぁ……」
あの
「オイオイ、ひでぇ言われようだな。俺だって嫌なもの無理強いするつもりなんてねぇよ」
そう言って部屋へ入られてきたのは気を失う前に一度見た
「ふふ、もしもの話よ。ティナさん、そういう事だから心配しないで。嫌なら嫌って言ってくれればいいから。さぁ、起きられるかしら?」
「あっ、はい。大丈夫です。ライムのおかげで体力だけは回復しましたから」
ベットからリィナ達を起こさないようそっと抜け出す。でも私だけ食事を頂いてもいいのだろうか? 二人とも私と同様に先日からほとんど食べてないはずだから。
「リィナちゃん達には自分達が倒れてはお姉さんが心配するって言って、食事をとらさせたから大丈夫よ」
「そうなんですか、何から何までありがとうございます」
領主様とエステラさんを前に一脚開いている椅子があり、その隣でラッテさんが待ち構えているところを見ると、そこに座れという意味であろう。
貴族の二人を前に身が引き締まる思いだが、漂ってくる美味しそうな臭いには勝てず渋々勧められた席へと座る。
「リィナちゃんから聞いたけれど、最近ほとんど食べてなかったんでしょ? まずは暖かいスープからお飲みなさい。お肉を食べるには少しお腹にものを入れてからの方がいいわ」
「お肉!?」
「ふははは、肉がそんなに珍しいか。まぁ食いながらでいい、俺の話を聞いてくれ」
うぅ、だってお肉なんてほとんど食べた事がないんだもの。
「それで嬢ちゃん、アンタ聖女の事をどれだけ知っている?」
領主様はご丁寧に私が食べ終わる頃を見計らって訪ねてこられた。
それまではこの領地の置かれた状況を聞かされていたが、話の内容と私がここ数日間で見た街の風景がピタリと重なり。私が気を失う前に見た街の人たちの反応からしても、この領主様が如何に領民の為に尽くし、愛されているかを伺う事が出来た。
「聖女様ですか? 王家に生まれた王女様がその席に着き、この国の象徴的な役職を背負う。ですよね?」
そんな事はこの国、アルタイル王国に住んでいれば誰だって知っている。
「あぁ、その考えで間違っちゃいねぇ。だけど今の聖女様はどなたがつかれているかは知っているかい?」
「今のですか? 確か現国王様の母君様、ですよね?」
学園で習った記憶では、今の聖女様のお子様には陛下とは別に王女様がおられたらしいけれど、その席を引き継がれる少し前にご病気で亡くなられてしまったんだとか。
「そうだ、今の聖女様は後継者の目処が立たず、二世代に渡ってその席を受け継がれている。そして現国王に男児と女児がそれぞれ一人づつおられ、いずれ王女様がその席を引き継がれる事になっている。そこまではわかるな?」
「はい、その辺りは学園の教養で教わりましたから」
私の記憶が正しければ王女様の年齢は私の一つ下、聖女様の席を受け継がれるのが確か18歳だったと思うので、3年後には新しい聖女様が誕生する予定になっているはずだ。
「思ったより中々学があるな」
「まぁ、お母さんに中等部まで通わせてもらいましたから」
「ほぉ、そいつは好都合だ。知識がある程度ある方が助かるってもんだ。っと、話が逸れてしまったな。それで話をもどすが、その王女様に少々問題があってな」
「問題ですか?」
「あぁ、王女様は幼少の頃よりお身体が悪くてな、余り激しい運動なんかはされた事がねぇんだ。まぁ、成人される頃にはお身体も出来上がって、健康になるだろうって言われているからそれほど心配はされてねぇんだが、問題はお年を召された聖女様なんだよ」
そういう事か、聖女の力と言われるこの力は使用者の体力が大きく影響してしまう。例えば今朝の私が空腹の状態で力を使い、気を失ってしまったのだってこれが大きく影響している。
決して空腹のせいで気を失ったのではないと、口を大にして否定したい。
そんな体力勝負のお仕事だ、お年を召された現役聖女様もお辛いだろうし、お身体が弱いとされる王女様も今すぐ引き継ぐのは現状では難しいだろう。しかも成人される頃には心配ないと言われていても、それがいつやってくるのかもわからないのだ。そんな時にもし聖女様がお身体でも崩されてしまえば取り返しのつかない事に成りかねない。
「つまりは私に聖女様の代行をやれと?」
「いや、半分正解で半分ハズレだ」
「半分ハズレ?」
あれ? この話の流れだとてっきりそう来るのかと思っていたけど、半分ハズレってどういう事?
「聖女様の代行ってところまではいいとこ行ってるんだが、俺もいきなりそんな大役をやれなんて言えねぇよ」
まぁ、それはそうだろう。最終的に決めるのは国王様か、現役の聖女様だろう。確かこの領地は子爵の爵位を与えられていると記憶しているので、とても王家に口が出せるとも思えない。
「それじゃ私に何をやれと?」
「一年間王都で聖女の修行についてもらいたいんだ」
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