第17話 続、何でこうなった……

「何だろうね、これ……」

「何でしょうか、これ……」


 私とラッテがここへ来てから約一ヶ月、候補生に与えられた休日を利用し一度ソルティアルへ戻る事を決めた私たちは、外出許可をメイド長のアドニアさんから頂き、乗り合い馬車が集まる市民街へ向かう為に正門へと向かった。

 本来お城で働く人たちが出入りするのは東門と西門と決められているが、アドニアさんに乗り合い馬車で帰る事を告げると、『それじゃ遠いので馬車をご用意しますね』と言われ、荷物もあったので有り難くご好意を受ける事になったのだが、何故か待ち構えていたのは馬車ではなく騎士団の一個小隊、約50名。

 いや、確かに馬車の姿もみえるんだけれど、それ以前に何故騎士団? あっ、馬車の窓からユフィが手を振ってるや。


 ……分かるだろうかこの気持ち、目の前にズラリと並ぶ騎士様達から一斉に敬礼をされ、馬車の扉は私たちが到着したタイミングで開かれまさにウェルカム状態。一瞬願いを込めて私たちの後ろに誰かいるんじゃないだろうかと、ラッテと同時に振り向いてしまうこの気持ちが。

 私じゃなくてもダッシュで逃げたい気分になってしまうだろう、いやラッテなんて既に逃げようしたので必死で阻止したんだからね!


「ティナ様、お荷物をお預かりします」

 別の馬車前で待機されていたメイドさん達が、未だ硬直から抜け出せない私たちに業を煮やしたのか、持っていた荷物を奪い私をユフィが待つ豪華な馬車へ、ラッテを自分たちが乗る馬車へと誘導していく。

 って、ラッテはそっちなの!?


「いや、ちょっと待って、何でこんな事になってるの? これって乗り合い馬車の集合場所に送るってレベルじゃないよね? てか何でユフィがいるのよ」

 ユフィの前でようやく正気を取り戻した私は矢継ぎ早に質問を繰り出す。

 この場合軽く混乱しているのは大目に見て欲しい、だって目の前に映る光景全てが意味不明、さっきの話では乗り合い馬車の集合場所まで送ってくれるって話だったはず(……だよね?)。それなのに何でこうなった!?


「お母様が娘をよろしくね、とおっしゃっていました」

 ユフィが首を可愛く傾げながら何かをほざきやがりました。

 いやいやいや、そんなに可愛く言われても流石にこの状況には騙されませんよ。その前に答えになってないよね!


「……ごめん、状況がよくわかんないんだけど」

 落ち着け私、こう言う時はどうするんだっけ。腹式呼吸? いやいや、あれは歌を上手く歌うための方法。ラマーズ法? 私は妊婦さんではない。そうだ、深呼吸、すぅ~~はぁ~~、よし。


「ユフィさん? まずはこの状況を説明して頂けると助かるのですが」

 何故今更ユフィをさん付けで呼んでいるかは私の心情を察してほしい。

 まずは心を落ち着かせ、この状況を整理するために現況であろうユフィに尋ねる。

「えっ? ご覧の通りティナが領地へ帰ると言っていたので、私もついて行こうとしているのですが?」

 ブフッ、今この小娘なんつった? さもこの状況を見てわかりませんか? 的に言われて誰が分かるのかと心の底から問いただしたい。

 そもそも私に付いてくる? いやいやいや、普通に考えて在りえないでしょ。こちらはリィナに会いたいが為に二泊三日の領地帰りだ。どこの世界に体の弱い王女様が、ごく当然のごとく付いてくると言うのだろうか。そもそも普通周りが止めるよね!


「と、とりあえず、何でって聞いてもいいかな」

 動揺しているのが自分でもハッキリと分かるが、仮にも相手は一国の王女様。いくら友達になったからといっても、無礼な行為は流石にまずいだろう。まずは情報を集めてご丁重にお断りしないと、三日間も騎士団に付き添われるなんて私の身が持ちそうにない。


「以前私がリィナちゃんに会いたいと言ったら、ティナが二つ返事でokって」

 あっ、そう言えばそんな事を言った気が……あの時はリィナの可愛さいを語っていたからすっかり気分がハイになっていたのよね。私は只の社交辞令のようなもんだと思っていたからすっかり忘れていたが、どうやらユフィは本気にしていたらしい。

 くぅーーー、バカバカ、過去の私のバカ!


「で、ですがですねユフィさん、国王様や王妃様が……」

「お母様は先ほど言った通り、お父様もティナが側についているなら大丈夫だと言って騎士団を用意してくださったですよ」ニコッ

 こ、国王さまぁーーー。

 娘に甘いんじゃないかと思っていたが、まさかここまでとは。


「で、でもね、流石に周りが止めるんじゃないかなぁ? た、例えば聖女様や……そう、公爵様とかが」

 なにが『そう』なのかは知らないが、私の無い知識をフル活動させた結果、出て来たのが貴族の最高位である公爵様なんだから仕方が無い。

 私の両親を知っている王妃様と、娘に甘甘の国王様はともかく、聖女様や公爵様がおいそれと一国の王女様をそう容易く王都から出すとは考え難い。

 私はやれば出来る子! どう、これでチェックメイトよユフィ!!


「もちろん皆さんから許可は頂いておりますよ」

「へ?」

 自分でも思っていた以上の間の抜けた声が口から出る。

 例えるなら最後まで残していたショートケーキのイチゴを『残してるんだったら貰っていくね』と横取りされた気分。いや、あれは悲鳴になるか。


「お祖母様は気をつけて行ってらっしゃいと見送られましたし、公爵様達はお母さんが話をつけてくださいましたので」

「……」

 あ、あほかーーー!

 この国の上層部は全員アホばっかりなのか!!

 つい一ヶ月程前に襲われた王女様を私なんかに託すなよ! もしもの事があれば誰が責任取れるっていうのよぉー!

 ぜはぁー、ぜはぁー。


「ユフィ、まずは落ち着こうね」

「私は落ち着いておりますが?」

 フッ、この程度で私が折れると思ったら大間違いよ。


「ユフィ、あなたは肝心な事が抜けているわ」

「肝心な事ですか?」

「えぇ、あなたは一国の王女よ。そんな人物が突然ソルティアル領に行けばどうなるか、領主のクラウス様はさぞ大慌てで準備をなさるでしょうね。あなたはそんなクラウス様の姿を見たいって言うの!」

 ふははは! ソルティアルなんて小さな領地!(言い切った) 例え今から早馬を出したところで到底受け入れの準備なんて間に合うはずがない。

 どう、これで王手よ!


「既に封書で送っておりますよ? 受け入れの準備も整っていると昨日ご連絡も入っております」

 ク、クラウス様の裏切り者ぉーーー!!


「って、ちょっと待って。事前に行くことが決まっていたなら何で私が知らないのよ」

 私がユフィに帰ると話したのが5日前、今の話しじゃ翌日ぐらいにはソルティアル行きが決定していそうな感じだった。それじゃ何で私に話してくれないの?


「それはお母様が『ティナに言っちゃうと必ず逃げるから当日までは内緒にしておきなさい』って」

 お、王妃様ぁーーー!! なぜ私の行動がわかっちゃうのよぉーー!

 うぅ、なぜだろう、王妃様に勝てる気が全くしないのは。


「そうだ、リィナちゃんにお土産があるんです」

 ピクッ

「リィナにお土産?」

「はい、最近王都で人気のお菓子なんですが、チョコレート? という甘くて美味しい食べ物なんです。きっとこれならリィナちゃんは喜んでくれると思いますよ」

 リ、リィナが喜ぶ顔……くっ、こんな事では騙されないわよ。


「あと、お父様から最高級のお肉と、お母様からはティナとリィナちゃんのお揃いのドレス。メイド長のアドニアからは焦げ付かないフライパンセットも預かっております。どっちらもリィナちゃんが喜ぶだろうって」

 お、お肉。さ、最高級のお肉。リィナの可愛いドレス姿。そして焦げ付かないフライパンセット!


「なにしてるの、さぁ、急ぐわよ。可愛いリィナが待ってるんだから!」

 数分後、馬車の中で我にかえった私が頭を抱えていた事は言うまでもあるまい。


ーー Fin --


 って終わってないわよ!

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