第39話 襲撃
「ん〜〜っ、久々の外だわ」
「もうお姉さま、はしたないですよ」
青空の下、何時ものように大勢の騎士様に囲まれながら大きく背伸びをすると、隣にいるユフィが呆れ顔で注意してくる。
だって仕方ないじゃない、一週間も部屋に籠もりっきりだったのよ。
「ん〜〜っ、ったく、相変わらずだな」
私の護衛として身の回りウロチョロするようになったレクセルが、同じように大きく背伸びをしながら話しかけてくる。
「何よ、あなただって同じことしてるじゃない」
「俺は男だからいいんだよ。大体、お前が引き籠ってた関係で俺も雑務ばっかさせられてたんだから、こんくらい大目に見ろや」
男女差別はんたーい! 私だって好きで引き籠っていたわけじゃないわよ。
「ねぇ、レクセルがこんな事言ってるけど酷いと思わないユフィ?」
「えっ、レクセルって……お姉さまいつの間にレクセンテール様とそんな仲に?」
ん? ユフィにレクセルの酷さを分かってもらおうと話を振ったら、何故か少し焦ったような態度を見せてくる。
「いつの間にって……聖誕祭の後ぐらい?」
「あぁ、そうだな。いきなりこいつが俺のことをレクセルって呼び出したんだ。お陰で今じゃ親父や母親まで同じように呼び出しやがってよ」
「そうだったわよね。アシュタロテ家のパーティー以来、私すっかりレクセルのお母様と仲良くなっちゃったもの」
レクセルのお母様って、私のお母さんの同級生だったらしいのよね。お母さんの話で盛り上がってすっかり意気投合しちゃった。
「そんな……私とお母様の計画が……色気がないお姉さま事だからまだ大丈夫だと安心仕切っていたのに、まさか同じように礼儀作法がなっていないレクセンテール様とは盲点でした」
およよよ、と持っていた扇子で顔を隠しながら私にの胸にダイブしてくる通称爆裂料理人のユフィちゃん。
って、前も計画がどうのとか言ってたわよね。てか、今サラッと私とレクセルに酷い事言わなかった!?
「ちょっ、変な誤解しないでよね。私とレクセルはただの従兄妹よ。それにレクセルは礼儀作法がなってないかもしれないけど、私は日々素敵なレディに成長してるんだからね」
「……お前なぁ、素敵なレディとか言うんだったらもうちょっと王女様を見習えよ」
「わ、悪かったわね!」
そらぁ私はただの付け焼刃で、ユフィは本当の王女様だけどさ。
「うぅ、ユフィ。レクセルが虐めるよー」
「はいはい、お姉さまは何も悪くないですよー。よしよし」
今度は逆にユフィの胸に顔を埋めると、優しく頭を撫でてくれる。
「はぁ……もういいか? そろそろ行かないと遅れちまうぞ。」
「はーい」
「うふふ、はい」
まだ出会って三ヶ月程度だって言うのにすっかりユフィとも仲良くなってしまった。特にここ一週間は本当に一日中一緒に過ごしていたからね。寝る時も食事の時も入浴までも一緒だった。
ユフィの為なら聖女の代行も前向きに考えてもいいのかもしれない。まぁ、まだ半年以上も残っているんだしゆっくり考えればいいか。
「オイ、置いてくぞ」
「ごめんごめん、行こうユフィ」
「はい、お姉さま」
「……
清き白亜のベール纏て、豊穣の女神の代行者。その願い抱く未来の姿は、力なき人々の為に。我想う、希望は明日への力。我願う、幸福なる世界」
聖女の祈り。普段ならただ想いを込めて祈りを捧げるだけだが、丸一週間空いてしまった事と、この場所を血で汚してしまった為に、聖典と呼ばれる一節をユフィを含む聖女候補生全員で朗読する。
「はい、それじゃお祈りはこの辺にして草木のお手入れをしましょうか」
「「「「「はい、聖女様」」」」」
お祈りがひと段落し、神殿内の設けられた花壇のお手入れに入る。
この神殿内は滅多な事でないと無関係な人間は入る事が許されていない。その関係で神殿内の掃除や花壇のお手入れは私たち聖女候補生や巫女様の役目であり、修行の一環でもある。
まぁ、来た当時は私一人だけに押し付けられたけど、ラーナ王妃様に雷を落とされてからはレジーナ達も真面目にやるようになったんだとか。
逆に私は礼儀作法に時間を割かれたので最近はご無沙汰になっている。
「ねぇ、パパッと聖女の力を使っちゃダメかな」
「ダメに決まってるじゃないですか、そもそも聖女の力でどうやってお手入れするんですか?」
私の素敵な提案にユフィが呆れ顔で止めてくる。
「そこは草木の蔦を使って草むしりさせて、風を起こしてホコリを散らす、みたいな?」
「絶対ダメです! というか普通できませんから!」
うぅ、相変わらず頭が固いなぁ。
「全く、何バカな事言ってるのよ。サボってないで手伝いなさいよ」
「はいはーい」
草むしりの手が止まっていると、たまたま近くを通りかかったレジーナが私に注意してくる。
「もう、何時ものレジーナなら真っ先にサボるというのに、今日は聖女様が見ているからって真面目にやっちゃってさ」ブツブツ
「お姉さま、心の声がもれていらっしゃいますよ」
おっと、いけないいけない。こんな事じゃまたレクセルから嫌味を言われちゃうわね。
ガタッ
ん?
「ねぇ、ユフィ、今地面の下の方から物音がしなかった?」
「えっ、地面の下からですか? さぁ、聞こえませんでしたが」
「気のせいかなぁ、何か重たい石みたいな物が動く音が聞こえたんだけど……」
ん〜、隣にいるユフィが聞こえていないのなら気のせいか……っ!
「お姉さま? 急に立ち上がられてどうされ……! 何ですかこのマナは!」
「ユフィ気づいた? このマナ、何かを伝えようとしている」
急に室内に漂う歴代の聖女様や候補生達のマナが必死に語りかけようとしている。これって……警告?
「あなた達! 今すぐこの神殿から……」
「「「きゃーー」」」
聖女様が呼びかけるも突然黒い服を着た人間が室内に現れ、私たちの周りを取り囲む。
「何なのこれは、お城の騎士じゃないわよね」
「あ、あぁ」
隣にいるユフィに尋ねるも出てくる内容は言葉になっていない。だけど小さく一言だけ私の耳に届いてきた。
「あの時の黒ずくめ……」
!
ユフィの恐怖に染まった表情と今の言葉で黒ずくめの正体が頭に過る。
こいつが、こいつらがユフィを殺そうとしていた犯人だ。
「レジーナ、皆んな集まって。ライム、風の結界を」
聖女様を含む全員で一箇所に集まる。
風の精霊であるライムはそう長くない時間なら風を操る事が出来るので、風の結界を張っておけば近づく事は出来ないだろう。
後は
「いや、いや、私はまだ死にたくないわ、イヤーーー!」
「待ちなさいシャーロット! 今結界から出ちゃ」
ライムの風は一方からの侵入には強いが、内側からは我慢すれば抜け出す事が出来てしまう。
黒づくめ達が一気に突進してくる姿に恐怖を感じたシャーロットが、ライムの結界から飛び出すが、普段から運動らしきものをしていないご令嬢が結界の風圧に耐えられるはずもなく、弾き出されるように結界の外で倒れ込む。
「ライム風の結界を……」
「無理です、間に合いません」
「っ」
ライムの言う通り今結界を解くと、もう一度結界を貼り直すまでに全員が斬り殺される。せめて聖女様とユフィだけは何としてでも守らないと。
「お姉さま!」
ユフィが背後で叫ぶが、私は構わず結界を飛び出しシャーロットを抱き起こす。
『馬鹿者!』
頭の中で
(
『入口を見張っておった黒ずくめを扉に突き飛ばしておいた。すぐに異変に気付いて突入してくるはずだ』
(そう、だったら何とか……)
気を失ってしまったシャーロットを抱きかかえながら、
『すぐには無理だ、敵の数が多すぎる。今この神殿に籠城されたら簡単に突破することが出来ん』
そんな、黒ずくめはこれだけではないの?
今この部屋にいるのは6……いや7人。先ほど
如何に聖女の守護獣である
(
『分かった』
一度に何人もの人間を大地に繋ぎとめるのは無茶ではあるが、他に方法が思いつかない。風の結界のせいでユフィ達が何を叫んでいるかは聞こえないが、無理やり作った笑顔で安心するように伝えておく。
(やるわよ!)
『心得た!』
お母さん、歴代の聖女様に候補生の
「がっ」
「クソ、何が起こっている! がっ」
一人が吹っ飛ばされ、それを悠長に眺めていたもう一人が続いて吹き飛ばされる。
今! 私はすぐ様大地に干渉して緑の蔦で大地に二人を繋ぎとめるが、拘束から抜け出せないようにするためには力を使い続けなければならない。
(あと5人)
「何を手間取っている! 報告など後で適当に誤魔化せばいい。確実に息の根を止めろ」
僅かに浮き足立っていた黒ずくめ達が、隊長とおぼしき者の一声で再び私たちに近づいてくる。
(
「うぐっ」
近づき過ぎた一人を
「同時に掛かる」
隊長らしき者の言葉で四方向から黒ずくめが迫る。
「ぐっ」
「がっ」
姿を透明化している
『クソ』
「がはっ」
黒ずくめの一人が突き飛ばされる姿が目に映るが、もう一人は目の前で短剣を突き出すところ。
「貰った!」
目の前まで迫った黒ずくめの短剣がスローモーションとなって突き出される。
あぁ、今度こそ無理だ。シャーロットを庇いながら聖女の力を発動しつ続けているから身動きが取れない。
ごめんお父さん、友達を守りきれなかったよお母さん、最後まで不甲斐ないお姉ちゃんだったねリィナ。
「ご令嬢キーーーっク」
「へ?」
「ぐふっ」
突如目の前にあらわれた一人のご令嬢? の飛び蹴りで吹き飛ばされる黒ずくめ。この場に相応しくない声が飛び出すのは見逃してほしい。
「何諦めてるのよ!」
「レジーナ?」
「ほら早く、逃げ出そうとしてるじゃない」
「あ、うん」
レジーナに言われて慌てて残りの全員を大地に繋ぎとめる。
流石の黒ずくめも、全くの予想外からパンチラキックに対応が追いつかなかったのだろう。ダメージこそは少なそうだが、明らかに不意を突かれ吹っ飛ばされたようだ。
「敵はこれだけなの?」
「違うみたい、早く安全なところに移動しないと」
どうやらライムの力も限界だったようで風の結界が解け、地面に落ちそうなところをユフィが受け止める。
それにしてもまさかレジーナに助けられる日が来るとは。いろいろ突っ込みたい事もあるが、今は聖女様とユフィを安全なところに連れて行かないと。
「何て無茶をするんですか! 私、私、もう生きた心地がしなくて……」
ユフィは大粒の涙を流しながら私に抱きついてくる。
「ごめん、後でいっぱい叱ってくれていいから今は安全なところに……」
『……くっ…』
震える体で泣きつくユフィをなだめているとき、頭の中に
「
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