第24話 登場、最強軍団

「何をしている!」

 突如会場内に響き渡る男性の声。モーゼの杖のごとく私たちとその男性の間にいた人たちが左右に分かれ、一本の道が出来上がる。


「ラフィン様だ」

「ユフィーリア様もいらっしゃるぞ」

 周辺に集まっていた人たちからいろんな話し声が聞こえてくる。こちらに向かって来るのはユフィとその隣に立つ一人の若い男性。

 一瞬ユフィを警護する騎士様かと思ったが、貴族特有のブロンドの髪に白を基調にした鮮やかなスーツ。周りの話し声からこの男性がラフィンという名前だとは分かるが、貴族社会に疎い私にはこの人が誰なのか全くわからない。

 王女であるユフィと一緒にいるぐらいだから、恐らく高貴な身分のご子息だとは思うが……。



「ベルナード、これは何の騒ぎだ!」

 若い男性、ラフィン様が叔父に向かって怒りの言葉を発せられる。


「も、申し訳ございませんラフィン様。これには訳が……」

「訳だと? その訳とはなんだ!」

 口ごもる叔父に畳み掛けるよう問いかけをするラフィン様。すると叔父の隣にいた叔母が前に出て。

「ラフィン様、どうかお怒りをお沈めください。実はこの場に相応しくない者がおりましたおで追い返そうとしておりました」

 動揺する叔父に変わって叔母が状況を説明しようとする。

 あれ? このラフィン様ってもしかして叔母さんよりも爵位が上のひと?


 叔母はこれでも貴族階級の上から二つ目の爵位である侯爵家の人間。叔父の事はよく知らないが、叔母側で私の実家であるフランシュヴェルグの名を名乗っているのなら、恐らく階級はもっと下なんだろう。

 一人不思議に思っていると、ラフィン様の隣にいたユフィが倒れている私の元へ来て耳打ちをしてくる。

(大丈夫ですかお姉さま?)

(ごめんね、ちょっと足を挫いたみたいなのよ)

 小声で会話を交わし、ユフィの肩を借りて何とか立ち上がる。

 やはり先ほど無理やり引っ張られらせいで自分の両足で立つこともままならない。今は辛うじてユフィに支えられているが、ヒールを履いて片足だけで移動するのは難しいだろう。


 ユフィに癒しの奇跡を施してもらえれば解決するんだろうけど、こんな大勢の前で王女自ら聖女の力を使う事はいささか問題が出てしまう。

 これは聖女様に対しても言える事だが、国の象徴である王族や聖女様は常に人々に対して平等でなければならない。例えば誰か一人を助けた場合、私も私もと縋ってくる人が必ず出てくる。もちろん全員を治療するなんて事は不可能だし、怪我の治療で生活する人や医学の発展にも著しく影を落とす事になる。

 だから聖女様やユフィは余程の非常時以外は、人前で治療しないよう言われているらしい。


 それにしても困った、私たちが小声で会話する間もラフィン様と叔父たちの論戦が続いているが、これじゃ歩いて出ていくこともできない。




「それでこの有様か。だがお前が言うこの場に相応しくない者とは何処におるのだ」

 一瞬チラリと私を見られたラフィン様が、さも心配するなと言ってるように意味深な視線を送ってくる。


(ねぇユフィ、この人誰?)

 気になったら早速確認。向こうは私の事を知っているようだけれど、こちらは会った事もなければ貴族の知り合いなんて片手で足りる。

 幸い全員ラフィン様に注目が集まっているお陰で、誰も私たちの内緒話には気づかれていない。


(えっ、ご存知ないんですか? 私のお兄様ですよ)

 ブフッ

 ちょっとまって、王女であるユフィのお兄さんって事は……王子様!?

(大丈夫です。ここはお兄様に任せてください)

 いやいや、任せろと言われてもこれじゃ逆に目立ってしまう気がするんですが。

 だけど歩けない私は只々この場はラフィン様に任せるしか手立てがない。




「はい、実はこちらにおります娘は平民の身分で有りながら、場をわきまえずこのようなところまで来ておりました。それに気づいた私たちは騒ぎになる前に追い返そうとしたのですが、素直に言う事を聞かず抵抗されてしまいこのような事態に」

 ん〜、叔母さん達は私が聖女候補生って事は知らないだろうね。レジーナから私の名前が出るとも思えないし、こちらもワザワザ教えるような事はしていない。

 叔母にはフランシュベルグ家の血が流れているのを知っていると言っているので、もしかするとお金の都合をつけに無理やりパーティーへ乗り込んだとでも思っているのだろうか。



「ダニエラ、まさかとは思うがティナの事を言っているわけではあるまいな?」

「えっ? ラフィン様それはどういう……」

「このたわけが!」

 いやいやいや、初めからこうなる事が分かっていただろうに、この王子様、中々の役者のようです。


「で、ですがこの娘はただの平民でございますよ? ですから私たちは追い出そうと……」

「この者は聖女候補生の一人で妹の命を救った恩人だぞ! それを知らずに追い出そうとは恥をしれ!」

 大げさに手振りで私を指し示し、大声でユフィの恩人だとほざきやがりました。

 って、何こんな大勢の前で目立つような事を言っちゃうのよ。ほら、急に私の方へ視線が移って来ちゃったじゃない。


「そ、そんなまさか。この子が聖女候補生? レジーナ、それは本当なの?」

「え、えぇ、そうですが……」

 叔母にとってはまさかの内容だったのだろう、レジーナに確認するも当人は何も聞かされていないようで完全に戸惑ってしまっている。


「も、申し訳ございません。何も知らなかったんです。まさかこの子が聖女候補生になっているなんて、私はただこの者が……」

 口ごもる叔母、まさか私が邪魔だったとは流石に言えないのだろう。だけど私の心を代弁する者が叔母の背後から現れる。


「邪魔だった、と言いたいのだろう」

 突如現れた初老の男性。その隣には優しそうな初老の女性が私の方を見て微笑みかけてくる。


「お、お父様!」

 って、やっぱりこの展開!? 叔母さんのお父さん、それってつまり私のお爺様じゃない。

「な、なぜお父様がここに、陛下に話があるからと出て行かれたんじゃ……」

「馬鹿者が、私が何も知らないとでも思っているのか!」

 ちょっ、何その意味深な言葉!? 国王様と話されてたって事も引っかかるが、王妃様ちゃんと約束守ってくださってますよね!


「ま、待ってくださいお父様、これには訳があるんです」

「黙れ、言い訳など聞きたくもない」

 お爺様の出現で益々追い込まれる叔母、それに対してお爺様は尚も畳み掛けるが、隣にいた初老の女姓に優しく遮られる。

「あなた、その辺になさっては? この子も怯えてるじゃないですか」

 そう言って私に優しく微笑みかけてくださるお婆さん。たぶんこの人が私のお婆様なんだろう。


「むむ」

 お祖母様に言い聞かせられ、私の方を見てくるお爺様。

「ダニエラ、あなたの口から聞かせて。この子が誰の子なのかを」

「っ!」

 味方になってくれるとでも思っていたのだろうか、一瞬和らいだ叔母の顔が再び強張り言葉を詰まらせる。

 ちょっとまってよ、それって私の事を知ってるって言ってるようなもんじゃない。


 先日クラウス様が言っていた事が本当なら、お爺様は亡くなったお母さんに爵位を譲るため、今尚現役を貫かれているという。それってつまり叔母さんには継がせたくない、何らかの理由が何かあるのではないだろうか。

 叔母からすれば私をクラリスの娘だと認めてしまえば、完全に爵位の継承を失う事を意味してしまう。こちらとしては熨斗のしを付けてお譲りしたい気分なのだが、今この場の雰囲気がそれを許してくれるとはとても思えない。下手すりゃ最終兵器、ラーナ王妃の登場で益々私が目立ってしまう。いや、もう手遅れな気もするけど。


「ダニエラ、どうしたの?」

 優しく問いかけるお婆様に叔母は「し、知りませんわ」と、この期に及んで惚けた答えを返すのみ。だけど

「あなたは先ほど言ったわよね、この子が平民の子なのだと。それは以前から知っているという意味ではないの?」

「答えろダニエラ、この子は誰の子なのだ」

「そ、それは……」

 お婆様とお爺様に追い詰められる叔母、叔父に関しては完全に委縮してしまっている。

 この状況でも大勢の注目を浴びていると言うのに、この上更に思わぬ人物が参戦する。


「ほぉ、面白そうな話ですなエルバート卿。私にもぜひ聞かせて頂いたい、この子が一体誰の子なのかを」

 現れたのは仕立ての良さそうな服を着た一人の男性。どことなく亡くなったお父さんに似ている気が……って!

「これはアシュタロテ 公爵」

 ってやっぱりお父さんの実家の人じゃない! 公爵様と呼ばれているんだから恐らくお父さんお兄さんにあたる人じゃないだろうか。


「あら、私も混ぜて貰ってもいいかしら? ラーナの娘を助けた子ならぜひ私も知りたいわ」

 更に現れたのは王妃様にどことなく似た女性って、たぶんこの人が先日聞いた王妃様のお姉さんなんだろう。それにしても王妃様をラーナと呼び、王女であるユフィを娘と呼ぶって、いくらなんでも失礼じゃないかなぁ。

「やはりイシュタルテ公爵も気になりますか」

 ブフッ、って、王妃様のお姉さんが公爵様!?

 確かに最初に生まれた子が爵位を継げるとはいえ、女性が公爵様ってどんだけ凄い人なのよ。


「ダニエラって言ったわよね、さぁ答えなさい。この期に及んで知らないとは言わせないわよ」

 同じ女性と言う事なのだろうか、シュタルテ公爵が代表で叔母さんに問いかける。

 王子様に王女様、お爺様にお婆様、その上貴族の頂点とも言える二大公爵様に囲まれては流石の私も同情してしまう。

 叔母も叔父も完全に委縮してしまってただただ脅えるだけ。レジーナに至っては状況が未だに分かっていないのかラフィン王子に向けて熱い視線を送り続け、悪役令嬢の二人は身を寄り添って震えあがっている。


「さぁ、答えなさい」

「そ、それは……」

 叔母は口ごもりながらもシュタルテ公爵のが放つ黒いオーラに我慢が出来ず

「ね、姉さんの……子供です」

 ついには大勢の前で話すのだった。

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