第23話 長い一日の始まり
「ティナ様、このアクセサリーなんて如何でしょうか?」
「ん〜、如何って言われてもよくわからないわ。ラッテがいいならこれでいいわよ」
聖女候補生として私に割り当てられた自室、来た当時から変わらない部屋だが、今はベットからチェスト、浴槽周りまで真新しい物に取り替えられ、建物の周りには常に警護の兵が見回っている異様な状態に変わっているが、ユフィの隣の部屋に比べればなかり快適な生活を送れている。
いやね、実際ユフィの隣の部屋へって話も出てだんだけれど、断固として拒否させてもらったら、こんな状態になってしまったのよ。
「もう、今日はティナ様の社交界デビューなんですよ。もっと真剣に選んでくださいよ」
全て丸投げにしていたら何故かラッテに叱られる。
「王妃様からユフィーリア様の装飾は好きに使ってよいと言われてますので、ドレス合うアクセサリーを見繕って参りましょうか?」
「いえ結構です!」
私付きのメイドさんとんでもない提案をしてくるが、ここは断固として拒否させてもらおう。
私が持って来ているドレスや装飾品は全てエステラ様に頂いた物やお借りしている物ばかり、これだけでも相当お高いだろう事が分かるというのに、ユフィが持っている装飾品は更にこの上いく事は間違いない。
そんな物を付けて目立ってしまったらどうするのよ、今日の私は柱の陰に隠れるって決めてるんだから!
「ごめんねライム、今日ばかりはお留守番お願いね」
いつもならポケットに隠れているライムだけれど、今日着ているドレスには身を隠せる場所がないのでお留守番をしてもらう事になっている。
「気にしないでくださいティナちゃん、
同じ精霊同士、ライムは
まぁ今日は国内の有力貴族はおろか、他国からの使者も大勢集まるパーティーらしいので警護も万全、存在が知らされていない
それにしても名前を言えないにしろ、聖獣である
「それではティナ様、そろそろ会場の方へ」
メイドさんに促され渋々部屋の外へと足を運ぶ。
この部屋の建物はお城の一角に建てられているから、会場となるお城の正面フロアに行くには一旦外へと出なければならない。ならないんだけれど……
「なにこれ?」
建物の外に用意された場違いの豪華な馬車に、乗り口までの間にひかれた赤い絨毯。更に護衛と思われる騎士様その数約10名。
「こちらからでしたらお靴が汚れてしまいますので」
と軽くとんでもない事を言ってくるメイドさん。
いやいやいや、距離があるとはいえ歩いても十分行ける距離だよね。しかもお城の敷地内だと言うのに護衛はいらないよね!
「うっ、急にお腹が」
「ささ、どうぞ馬車の中に」
お腹を押さえてメイドさんに苦しい事をアピールする私。
「あの、お腹が」
「この場合、王妃様に報告した上、医師を呼び出して大変な騒ぎになりますがよろしいですか?」
うっ……
笑顔でサラリと怖い事を口にするメイドさん。最近お世話をしてくれるメイドさんズまで私の扱いに慣れてきた気がするのだけれど。
結局言われるがまま豪華な馬車に乗り込む私。一瞬王家の家紋が馬車に刻印されているのが見えたが、多分気のせいだろう。
すみません、馬車が玄関前に到着した際トンデモナイ騒ぎになりました。
「あの方はどなたなんですの? 先ほど王家の家紋が入った馬車から出て来られましたが」
「さぁ、見ないお方ですわね。お若いようですから何処か高貴な家柄のご令嬢かしら」
「……」
大勢の人から遠巻きに見つめられ、好き勝手な言葉が私の耳に入ってくる。
帰りたい、めっちゃ帰りたい。
ハッキリ言ってここって完全アウェイなわけですよ。知り合いなんてクラウス様とエステラ様しかいない上、お二人は子爵として挨拶回りが忙しいから私と話している時間なんてないんです。
だったらユフィのところに行けばいいじゃないと思うかもしれないが、相手は一国の王女様、平々凡々の私がユフィの近くに行けば更に目立ってしまうのは分かりきっている。今日ばかりはユフィに申し訳ないが近寄らず、ここは当初の予定通り柱の陰に隠れさせてもらう。
「あら、誰かと思えば馬小屋担当の子じゃない。いくら聖女候補生は参加を認められているからって、よくもまぁこんなところまで出てこれたものね」
背後から声を掛けてきたのはこの場で一番聞きたくない人物、悪役令嬢筆頭レジーナさん。+2名
ちっ、一番会いたくないと思っていた連中に見つかってしまった。
この三人は全員お城暮らしだからね、真っ先に揃って入場していてもおかしくない。
「ごきげんようレジーナさんと他二名」
嫌だ嫌だと言っても見つかってしまってはしかたがない。気を取り直してここ一週間の練習通り、スカートの端をつまみカーテシーで優雅に挨拶をする。
幸いまだ叔母の姿は見えないようだ。
「ちょっ、他二名って私達のことですの!?」
「まぁ、なんて失礼な子なの!」
練習通りに挨拶したって言うのに何が気に入らなかったのか、悪役令嬢AさんとBさんが私に向けて文句を言ってくる。
「だって名前聞いた事なかったですよね?」
もしかして名乗られた事があったかもしれないが、私の記憶にないんだから仕方がない。
「あ、あなたもしかして今まで私たちの名前を知らなかったんですの!?」
「はい、だって話しかけるなって言われたので」
「「……」」
何故かお互い顔を合わせて無言になってしまうAさんとBさん。
「シャーロットですわ。覚えておきなさい」
「私はクリスティーナ、以前名乗ったはずですわよ」
ん〜、名前が長い。とても覚えきれる自信がないや。
「えっとAさんとBさんですね、覚えました」
「って、全然覚えてないわよ! 何よそのAさんとBさんって」
何が気に入らないのか、尚も食い下がってくる悪役令嬢AさんとBさん。
ただの脇役が我儘だなぁ、私としては覚えやすくていいと思うんだけれど。
「わかりました、シャーウッドさんクリステルさん」
「シャーロットですわ、あなたふざけているんですの!」
「クリスティーナだと言ってるでしょ」
ん〜、結構真面目に言ったんだけれどなぁ。
「そう言えばレジーナさん、ルキナ様ってご存知ですか?」
このまま話していても納得してもらえそうにないので、この機に気になっていた事を訪ねてみる。
「ルキナ様? えぇ知っているわよユースランド侯爵様のお嬢様よね、それがどうしたの?」
なんだかんだと言っても、私の問いに答えてくれるレジーナさん。実は結構いい人だったりする?
「その方って今会場内におられますか?」
「会場内に? まだいらっしゃらないみたいね」
辺りを見渡しご丁寧に教えてくれる。
ん〜、王妃様が注意するように言っていたので近づかないようにしたいのだが、顔がわからない状態ではどうしようもない。
「ルキナ様がどうしたのよ」
「いえ、少し気になることがありましたので……」
まさか王妃様から注意しろと言われたからとは言えず、なんて誤魔化そうかと口ごもっていると、背後に人が近寄ってくる気配を感じる。
「レジーナ、こんなところにいたのね。陛下達のところへご挨拶にいくわよ」
この声、そして目の前のレジーナの反応から背後の人物は
「お久しぶりですお父様、お母様」
マズイ、ひじょぉーにマズイ。幸い私が後ろを向いているお陰と、ドレスに身を包んでいるお陰で私だとは気付かれていないようだが、今この場で鉢合わせなんて、この先いい事なんて一つも思いつかない。
ここは速攻退避させてもらおう。
「そ、それじゃ私はこの辺で失礼しますわ。おほほほ」
声色を変え、静かにこの場から立ち去る私。
見なさい、我ながら最高の演技でしょ!
「何処行くんですかティナ、まだ私たちの話は終わっていませんわよ」
「そうよ、人の名前を間違えて覚えておくなんて許さないわよ」
お、おバカぁーーーー!!
悪役令嬢AさんとBさん地雷とも言うべき私の名前を呼んでしまう。なんでこんな時に限って人の名前を覚えてるよぉ!!
「ティナ? ちょっと待ちなさいあなた」
立ち去ろうとしているところを叔母に腕を掴まれ引き寄せられてしまう。
「お母様、どうなさったのですか?」
何も知らないレジーナが不思議そうに訪ねている。
叔母は尚も顔を向けない私の腕を強く握り、無理やり振り向かせるよう強引に引き寄せた。
あぁ、私の人生これでおしまいだよぉーー。
グキッ
「イタッ」
強引に引き寄せられたせいと、不慣れなヒールのせいでバランスを崩しそうになるが、あわててもう片方の足で踏ん張る事ができたので人前で倒れると言う醜態は晒さずにすむ。だけど今の痛みは……
「あなたやっぱり……なんでこんなところにいるのよ! すぐにここから立ち去りなさい!」
私の顔を見るなり怒りの形相を向けてくる叔母、その隣には状況を理解したのか、叔父の顔がみるみる怒りの表情に変わっていく。
「お母様、ティナの事をご存知なんですか?」
何も聞かされていないレジーナの一言が、さらに叔母の怒りに油を注ぐ。
「レジーナはしばらく何処かへ行ってなさい、さぁ今すぐここから追い出してあげるわ。ついてきなさい!」
レジーナ達を払いのけ、強引に私を外へと連れ出そうとする叔母。思わず引きずられるように引っ張られてしまい自然と足が前へと進むが、その時足を一歩踏み込んだ際に全身を駆け巡る痛みでバランスを崩してしまい、スカートの裾を踏みつけながらその場で倒れこんでしまう。
いきなりに倒れてしまった事で何事かと周りから注目されてしまうが、慣れないヒールと倒れた際に打ち付けた痛みで急には立ち上がれない。
やっぱりさっきの痛み、足を挫いていたんだ。見れば倒れる際にスカートの裾を踏んずけてしまったせいで、わずかにレースと生地の部分が破れてしまっている。
「何をしているのよ、早く立ち上がりなさい!」
流石にこの状況は叔母にとっても都合が悪いのだろう。周りの目を気にして一刻も早くこの場から私を連れ出そうと、掴んでいる腕を強引に引っ張り上げ私を立ち上がらそうとそうとする。だけど立ち上がろうにも叔母からの強引な力の負荷と、片足の踏ん張りがきかない事で上手く立ち上がれない。
「何をのんきに見ているのよベルナード、あなたも手伝いなさい」
「あ、あぁ、わかった」
叔父が叔母に促され、二人掛かりで私を無理やり起こそうとする。だけどその時会場内に一人の男性の声が響き渡った。
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