「どんな関係がいいんだ?」
「先輩。私たちってどういう間柄なんでしょうね?」
後輩がこっちを向くような気配がする。
俺は閉じていた目の片方だけを少し開けて彼女を盗み見る。
「先輩後輩じゃないのか?」
「それ以外だと?」
何が不満なのか。でもそれ以外の間柄ってなかなかないぞ?
片方開けた目をもう一度閉じて脳みその回転を良くできないか試してみる。
「……昼寝仲間」
「……何も言い返せないのが悔しいです……」
ナイス俺の脳みそ。予想の斜め上の回答もやればできるじゃないか。
すると周りの精霊が俺を睨んできた。目を閉じていても感じるほどの圧力だ。
うっすらと目を開けて後輩の顔色を確認してみる。
うわぁ……そんなに怒らないで……。
「例えば私と先輩の今の関係を友達に説明するとしたらどうやって言いますか?」
「そうだな……」
ただの先輩後輩ってわけでもないし、彼氏彼女でもない。しかも相手はこの学校ではかなり有名な美少女だ。それを例えば
修はともかく悠真は大のゴシップ好きだ。
困った問題だ……。
「お嬢様と執事、とか?」
「先輩は執事って柄ではないです」
ある意味酷いことを言ってくれる。後輩の言葉が氷のナイフとなって脇腹に突き刺さった。
そんなに尽くすタイプに見えないのだろうか? だとしたら心外だ。
「じゃあ親と子」
「誰が子供ですか! 却下です!」
いい感じに俺の庇護下にあるし、後輩も甘えてくるしでちょうどいいと思ったのだが……。
まあ確かに彼女も童顔ではあるが子供ってわけではないだろう。怒って当然だ。
……しかし思いつかないものだ。俺と後輩の関係はそんなに複雑じゃないと思うんだけど、言葉にしようとするとなかなか難しい。
けれど彼女はそれを促してくる。この無理難題に近い質問の答えを求めている。
彼女は頭が悪いわけではない。答えのない問題を出すほど意地悪でもない。つまり――
「どんな関係がいいんだ?」
「へっ? わ、私がですか?」
「そう。何かお前の中には答えがあるんだろ?」
すると後輩は精霊たちと一緒に赤くなって、目を伏せ、黙り込んでしまった。
ビンゴ、かな。でもそのリアクションは予想していなかった。
「ごめん、俺じゃその答えにはたどり着けない。だから教えてくれないか?」
「……一回だけですよ?」
「わかった」
念のため俺たちの周りを魔力の薄い膜で覆って風邪を遮断してみる。聞き逃すわけにはいかないからだ。
後輩が微かに顔を上げて、目を合わせずに口を開いた。
「……義理の兄妹みたいだなって思いまして……」
「どうしてそう思ったんだ?」
「兄妹ならこういうことしても普通だと思って……」
後輩が俺の腕に頭を寄せて、俺に寄りかかってきた。確かに兄妹ならどんなに近くても許されるだろう。
「それに……」
「それに?」
瞬間、周りの精霊たちが燃えるように熱くなり、真っ赤に染まった。
その衝撃で魔力の膜が吹っ飛んでしまった。
「やっぱり何でもないですっ!」
「本当に?」
「もう聞かないでくださいっ」
そう言って後輩は体を離して、そっぽを向いてしまった。
この時後輩が何を言おうとしていたのか、俺には知る由もなかった。
~ ~ ~ ~ ~
私は何を考えていた? 私と先輩が兄妹? それで何を言おうとしていた?
そんなこと言えるはずがない。だってこの気持ちは今の先輩にはきっと伝わらない。
だから胸の中にそっと仕舞っておくことにしよう。
兄妹だったらよかったのに、とは何度か考えた。でも本当の兄妹だとどうしてもできないことがある。それができるから私は義理の兄妹がよかった。なぜなら――
――義理の兄妹なら結婚できるから。
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