「見惚れちゃいましたか?」
胡坐をかいてフェンスにもたれかかり、後輩と並んで昼食を摂る。
後輩はちょこんと横座りをして、いちごサンドにかぶりついている。
「んん~~!」
彼女は嬉しそうに口角を上げる。どうやらお気に召したようだ。これは明日も明後日もいちごサンドだな。
こいつは凝り性というかハマるとそればかりになる。
この前は子猫に入れ込んで携帯のフォルダを保存した子猫の画像でいっぱいにしていたし、前の前はリボンが気に入ったらしく毎日のように髪を結うのに使っていた。
しかも飽きがやってこない。ある程度は冷めるが完全に冷え切ったりはしない。
その証拠に今のこいつの髪にはリボンが付いている。ハーフアップ――というやつだったか?――の飾りに青いリボンが使われている。
いきなり後輩が振り向いて首をかしげて俺を見上げる。
「どうしたんですか? さっきから私を見て。何か付いてますか?」
「俺、そんなに見てたか?」
「はい、先輩の視線を横から感じてました」
見ていたのか……。反省。
でもこいつは見ていて飽きないからな。表情はコロコロ変わるし、可愛いし。
だが今は……
「黙り込んでどうしたんですか? 私に見惚れちゃいました?」
「いや、頬にクリームが付いてると思って」
「え、ちょっと早く言ってくださいよ!」
ちょっと残念だ。
慌てて頬に触りだす後輩。
慌てる様子もいいのだが、そんなに慌てるとクリームに触った時に伸ばしてしまうだろう。
「俺が取るからいいよ」
「ありがとうございます」
後輩は顔を触っている手を止めて、大人しく顔をこちらに向けて目を閉じた。
一瞬、本当に見惚れてしまった。
流石学校一の美少女。目を閉じるだけでも絵になる。
でも中身は猫だ。気まぐれにいろんな表情を見せるちょっと可愛い子猫だ。
そう言い聞かせてゆっくりと手を伸ばしていく。
指先が頬に触れ、クリームをすくい取って離れる。
「取れたぞ」
「ありがとうございます」
目を開けて、また首をかしげる後輩。
その目は俺の指を見ていた。
「そのクリーム、どうします?」
「紙とかは持ってないよな?」
「残念ながら。ハンカチはありますけど」
そう言って後輩は首を振る。
そりゃそうだよな。俺もハンカチは持ってるけどティッシュは持ち歩いていない。
その時はさっきの後輩の可愛さにやられていたのだと思う。だからあんな行動をとってしまったのだ。
「まあいっか」
そう言って俺はクリームのついた指を口の中に入れた。
甘い。こういう甘ったるいのはあんまり好きじゃない。いちごあっての生クリームだな。
すると後輩の顔がみるみるうちに赤くなってきた。
「な、な、何をして……」
「何って、クリームを食べただけだが?」
「だって、それ、私に付いてたやつ……」
数秒考えてやっと気付く。
……そうか、これじゃあやってることが恋人同士みたいじゃないか。
みたい、と言うよりそのままだ。完全にシチュエーションが一致している。
それに気付いて、つられて俺の顔も熱くなっていく。
いくら仲がいいとはいえ恋人となると気恥ずかしい。第一、こいつと俺が付き合うなどあり得ない。考えられない。
「わ、悪いっ、謝るから」
慌てて頭を下げる。不快な思いをさせたかもしれない。
許してほしい。その一心だった。
重い沈黙が続いた。
「仕方ないですね。先輩のばーか……」
顔を上げて後輩を見る。
彼女は斜め下を向いて目を合わせてくれない。
でも長い髪から覗く頬はさっきよりもさらに赤く染まって見えた。
多分許してもらえたんだと思う。良かった。
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