「特別だよ」
女の子というのは本当に不思議なものだ。
男子にもいろいろな種類があるように女子にも人それぞれ個性があるのは知っている。
だが個性に関わらず女性は、特に成人前の女性は精霊に好かれる。
この現象は解明されておらず、魔法使いの三大難問のひとつに数えられている。
説は色々あるようだが。精霊は単純な欲求や感情に惹かれるだとか、無垢なものに惹かれるとか。
そんなわけで後輩の周りにも精霊が集まって、元気に泳ぎ回っている。
「先輩? 微妙に私に焦点が合ってないような気がするんですけど?」
「お前はすごいな……」
彼女の周りにはそこらの女子生徒の三倍くらいの数の精霊が浮いている。
そして精霊は近くの感情に同調して表情を変える。
つまり普段の三倍の疑いの目が向けられている。なかなか圧巻だ。背中に冷や汗をかきそうなくらいだ。
「何がすごいんですか? ちゃんと私を見てください!」
「ごめん、何でもないから」
「……何か怪しいです」
そう言われても、精霊のことを話してもわかってもらえるかわからないし、面倒だし。
まあ可愛い童顔に睨まれてもそんなに迫力がないのだが。
「わかった、ちゃんと目合わせるから」
「わかればいいんです……」
そう言うと後輩は俺の背中にもたれかかって、いちごサンドを取り出して食べ始めた。
「お前、これ好きなの?」
「はい、先輩の近くは好きです」
「……そうか」
なんだか恥ずかしい。こうも真っ直ぐに言われると調子が狂ってしまう。
俺だってもちろんこいつと一緒にいるのは好きだが、それは言えずに喉の奥に逃げてしまった。
精霊が強張ったように緊張している。
つまり誰かの感情を受けて緊張しているということで、俺は緊張していないから……。
「どうしたんだ? 肩に力入ってるぞ」
「いやっ、別に力なんか入ってないですよっ」
「嘘つけ」
精霊はさらに強張ってるし、言い方が乱暴になってるし、あまり背中に重みがないのですごくわかりやすい。
「何か証拠でもあるんですか?」
「全然食べてない」
人は普通緊張状態では食事をしない。現に後輩はいちごサンドを手に取ったままずっと俺と喋っている。
何をそんなに緊張しているのだろう? 別に取って食ったりはしないのだが。
「ちょっと聞きたいことがありまして……」
「文句でもリクエストでもどうぞ?」
「……先輩、私のことどう思ってますか?」
不安そうな視線が一気に背中を貫く。後輩の心臓が早鐘を打っている。
俺自身、後輩のことはただの後輩以上に思っている。ただそれがどういうものなのかと聞かれると、わからないとしか言えない。
友達以上だと思うし、もしかしたら家族以上に思っているかもしれない。
「ヘタレな先輩のことですから悩んでるんでしょう?」
「はい……」
「じゃあ質問を簡単にしてあげます」
「お願いします……」
すると後輩は力を抜いて、思い切り俺の背中に寄りかかってきた。
彼女の温かさが今は少し重い。どんな質問なのかと緊張してしまう。
「私のことが特別ですか?」
瞬間、俺の心臓は止まった。そう思えるくらい驚いた。
特別。その言葉があまりにもぴったりだと思った。曖昧だけど大事に思っている。
「特別だよ。多分誰よりも大切に思ってる」
「……それは反則ですっ」
「え? 何かダメだった?」
「こっち見ないでくださいっ、前見ててっ!」
「はい……」
精霊たちが恥ずかしさに身を染めて縮こまっていく。それで遅れて気付く。
もしかしてさっきのってまるで告白みたいじゃないか?
そう思った途端、俺の心臓までうるさく脈を打ち始めた。
「先輩」
「なんだ?」
「私も好きですよ」
喉までおかしくなって声も出なくなってしまった。
一体どうしてくれるんだ……。
この後食べた弁当は味がしなかったことを一応記しておく。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます