第三話 ハンターギルド グレイハウンド
翌日、依頼人のマチェットを伴って前日約束を取り付けたギルドへと向かった。
「どのようなモンスターが出てくるか楽しみだな」
「ええ、狩猟したハンター曰くかなりの強敵だったそうなので期待は出来るでしょう」
ハンターギルドグレイハウンド、イリオスの街にいくつかあるギルドの中で所属しているハンターの数はそこまで多くはないものの歴戦の猛者が揃う少数精鋭のギルドだ。その実力から首長から直々にモンスターの討伐依頼をされることも多く、イリオスの街に住むハンターで彼らを知らぬ者はいない程有名である。
「お待ちしておりました。マオ・キャンベル様ですね」
「はい、それとこちらは私の依頼人のマチェット氏です」
出迎えてくれたのはハンターギルドらしからぬ美人受付嬢、普通のギルドであれば恐らくこうはいかないであろう。
「かなり儲けてるようだな」
「そのようで」
マチェットからの耳打ちにも素直に同意せざるを得ない。
「マスターは中でお待ちです」
二人が案内された部屋はまるで展示室のようであり、恐らく今まで狩ったのであろうモンスター達から得た戦利品が飾られていた。
「どうだ、見事なもんだろう」
「ええとても、それにしてもあなたがマスターだったのですね」
このギルドのマスター、それは前日酒場で話したあのハンターであった。
「はは、別に隠してたわけじゃねえんだがな。改めて自己紹介させてもらおう。俺がこのギルドグレイハウンドのマスター、ヴォルクだ。よろしくな」
「よろしくお願いします。こちらは私の依頼人で」
「鍛冶工房を営んでるマチェットと申します」
「ああ鍛冶工房マチェットか。評判は聞いている。俺も直接行った事はねえがうちのハンターが何度か世話になってるはずだ」
「ええ、その節はどうも」
「さて、早速本題に入ろうか」
案内された場所は解体用の作業場と言ったところだろうか。
中央に横たわっていたモンスターはそれまで見たこともない姿をしていた。
「こいつがブラヴェントゥス、またの名を黒い風だ」
「なるほどこいつはすげえや……」
「見て下さいあの尾、それに背部にも鋭い棘が」
「ああ、あの棘は非常に硬く武器にもなり盾にもなる。あれを剣で斬りつけても弾かれるし、他のモンスターが噛み付こうものなら串刺しになっちまうってわけよ」
「爪が非常に発達していますね」
「硬い岩壁にも引っ掛ける為にこうなったんだろうな」
「何よりこの色、この黒さ。暗がりでその姿を視認するのは困難でしょう」
「そう、そのうえ夜行性ゆえに一度見失うとまず見つけるのは不可能だ」
「いや本当によく狩れましたね……」
モンスターの解体の様子を見ながら早速商談に入った。
「それで、具体的にはいくら出せる?」
「今手元にあるのは素材の調達資金として受け取ったイリオス金貨が百枚」
「百枚か……こいつ丸々買うにはだいぶ足りねえな」
「そうでしょうね。これだけのモンスターとなるとうちの店でもその四倍……いや五倍の値は付けるでしょう」
「必要なのはあくまで防具一式分の素材なので全身買う必要はないでしょうな」
「なるほど、必要な分の素材を金貨で百枚か。それなら残りの素材はうちのハンター達で使えるわけだ」
「その通りです」
「ところでだ、あんたらに見せたい物がある」
ヴォルクはそう言うと何やら鍵の掛かった箱を取り出すとおもむろにそれを開けた。
中から取り出したのは成人の拳程の大きさもある宝石だった。
「なんて美しい……それに大きい」
「こいつはやつの額から採取した物だ。なぜこんな物があったのかは分からんが、もしかしたら暗闇で光に反射したこいつで獲物をおびき寄せたのかもしれねえな」
「もしそうだとしたらこの宝石は……」
「ああ、希少性から言っても相当の価値があるはずだ」
その輝きは見るものを惹き付ける魔性的な魅力を秘めていた。
「鍛冶屋の旦那が求める素材じゃあねえだろうが、素材屋の旦那はどうだい?」
「見た目もさることながらその特異な出自が揃えばこれを欲しがる貴族はいくらでもいるでしょう。正直な話をするならばどうしようもなく欲しい」
「分かりやすくて良い。なら取引をしよう。俺にはこれを高く売る手段がない、その点あんたはプロだ。俺はこれをあんたに預ける、そしてあんたは出来るだけ高くこれを売る。その中から俺たちは報酬を貰う。どうだ?」
断る理由はなかった。差し出された手を俺は躊躇なく握っていた。
「商談成立です。こちらとしても願ってもない話、というより今日ここに呼んだのはこの宝石を託す為だったのでしょう?」
「気づいてたか。まあそういうことだ。残りの素材はまあ、おまけだな」
「では……」
「ああ、素材は好きなだけ使ってくれ」
「おお、ありがたい。これで最高の防具が作れる」
「防具納品の際は是非呼んで下さいマチェットさん」
「ああそうだな。マオは功労者だ。依頼人も喜んで会って下さるだろう」
恐らくヴォルクは俺の考えを既に読んでいるのだろう。
傷だらけのその顔に満面の笑みを浮かべていた。
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